狭間(ダンジョン)3
★
咆哮とともに、突風が吹き荒れた。
「コイツを喰らえ」と、
トカゲを睨み付けると何か変だ。
さっきまでとは違う。
距離感がおかしい。
トカゲの縮尺が縮んでいる。
俺の肉体が巨大化……
いや、ただの
全筋細胞が
たったいま潰されたはずの喉も、超回復により修復されている。
そして、筋細胞が引き起こした
万能感が、俺の全てを満たす。
時間感覚もおかしい。
集中力は、限界を超えた。
突風で巻き上がる小石の一粒一粒を、鷹目のごとき動体視力がスローモーションでとらえる。
己の変化に戸惑う暇など無い。
これから闘争が始まるのだ。
闘いがあるのならば、
…ヌゥゥゥウウウ……
俺の全肉は遅滞なく最適化を起こした。
目の前の
両足を肩幅より半歩拡げ、両足の親指付け根に重心が置かれる。
両ヒザを内股にたたみ、金的を守護る。
同時、ヒザ関節はユルく遊び、前後左右、素早い移動を可能にする。
両手は首と頭部を守護りながら、両ヒジで重要な内臓を守護る。
もちろん、両手両足は、守護りから攻撃へと滑らかに変化するだろう。
俺の変化を見て、トカゲがまた言葉を発した。
「ゲグググッッ!! オマエタダノニクチガウ」
いつの間にか、トカゲの表情から笑顔が消えた。
トカゲの表情は、俺の変化に、明らかな警戒をしている。
さっきまでの余裕は微塵も無い。
ヤツは、戸惑っている。
目の前で
いつもの
俺も気がついた。
少しマズイかも知れなかった。
本来、野生は闘争など行わない。
野生にあるのは、ただ一方的に狩る側と、一方的に狩られる側の関係があるだけ。
本能が警笛を鳴らせば、逃走を選ぶのが野生である。
逃げられては、俺の
なので。
……
俺は、トカゲが逃げ出さないよう、仕掛けた。
スウッゥウウウッ!
左手を前に刺し出す。
トカゲは、不思議そうに俺の行動を見ている。
当然だ!
俺は
俺は、差し出した掌をクルッと上に回した。
クイックイッ
指で、クイクイッと手招きする。
「こいよ」
トカゲの表情が、明らかな怒りへと変わった。
ちょっとした
トカゲのヤツは、いたくプライドを刺激されてくれたようだ。
凄まじい咆哮をあげ、激しい怒りを込めた開始の
「グウッッ! ゴロス……ギャグググワアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
トカゲは吠えながら、その両腕の羽を広げた。
ブワッ!
ヤツの咆哮と共に、ヤツの全身から
殺気などとか言う生やさしいモノでは無かった、鬼気である。
トカゲの体の節々から
光の屈折により、ヤツの姿は巨大に膨れ上がって見える。
見た目だけでは無い、トカゲの圧その物が巨大化している。
トカゲもまた巨大な
周囲の空間は、
怪異現象……
だが……怪異を前にしても、俺の肉備えは
互いの
むしろ俺の筋肉は、勝利を確信している。
この
心配などない。
戦闘状態になった筋肉は、怪現象などには
怪奇現象を前にしても、全ての筋細胞が戦いに集中している。
トカゲが先に動いた。
「スラ・シ・ッ!!」
デカイ口が何かを唱えた。と同時、ヤツの両脇の翼が振り上げられた。
!
違和感。
ヤツとの間には、距離があるはず。
なのに、激しい違和感。
すでにヤツの
トカゲの周りを舞う鬼気の雲が、その羽へと集まる。
風の刃ッッ!!
情報が俺の脳へと伝わるよりも先、筋肉は動きだす。
左へ小さくステップを踏み、体重を左へ移動するとみせかけ、逆方向……右へ跳ねる。
”
トカゲは、俺の
同時、トカゲの羽を起点に空間が
ヒュッ…パラパラパラ……
空間の歪みが、俺が飛んだのとは反対方向へ伸びた。
歪みが通り過ぎた場所で、奇形の若木群が斜めに刈り揃えたように切断された。
驚く余裕は無い。
筋肉はすでに次の行動へと移っていた。
「
口顎筋を強く食いしばる。
食いしばる歯をギチギチ鳴らし、全身を
一瞬で充分であった。
俺とトカゲとの間は、一瞬で詰まる。
ザッ!
左足を前に踏み込み、後ろ足へ運動エネルギーを伝える。
”右下段蹴り”
移動の勢いを使い、右足をムチのように豪速でしならせた。
バランスを崩すトカゲの左足へ、俺の右下段蹴りが
パキュッッ!!
乾いた破裂音が森に響く。
蹴り抜かれた下段蹴りは、トカゲの左脚を粉砕した。
トカゲは、チギレかけた左足を庇おうと、
トカゲは、間合いを取りなおそうと、不安定な片足でもがいた。
俺は、この勝機を見逃さず、更にもう一歩トカゲの懐へと潜り込む。
トカゲの目は、恐怖に見開かれた。
……だが、トカゲも一方的には、やられてなかった。
ガシッ!
ヤツの両翼の鋭い爪は、俺の首をガードする両腕へと伸びた。
両腕が、トカゲの鋭い爪で握り込まれる。
「ゲヒュヒュヒュ……」
トカゲは喜悦の笑い声を上げ、俺を引き込み、そのまま間合いを潰した。
ワザを出す
野生の本能のなせる技か、瞬時に最適解を選びとられてしまった。
俺は油断してなかったはず。
だが、瞬時に攻防の主体は入れ替わった。
「マルカジリニシテヤル アキラメロ……ゲヒュヒュヒュヒュ」
ニヤニヤと邪悪に
鋭い牙がテラテラと鈍く光っていた。
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