オチヨ視点 2人の愛
★
ただならぬ事態に、オチヨは思考の罠に
近頃噂に聞く
……イヤ、違うッ!
筋肉ッッ!!
圧倒的肉量が目の前に在るではないか。
バイタツと
ホマレの光によって
その肉量に劣らぬ巨大な武名のホマレによって、存在その物を巨大化させている。
まさに、
凄まじい力を持った武人が、今目の前に在るのだ。
……戦慄。
オチヨは戦慄をした。
先ほど取り戻した胆が萎むのを自覚する。
苦心して名を売り、
練り上げた胆から湧き出る地
隣のカレンに到っては、目の前の武人が掲げる巨大な武名のホマレを前に、
幸い、己の身体は、血反吐を吐くほど鍛え抜いたお陰で、無事。
身体はギリギリ動く。
ならば……逃げるのは可能か?
最初に考えたのは、逃亡。
それは、負け犬の思考。
オチヨの思考は、逃げへと傾きかけていた。
だが……
逃げるには、接近しすぎていた。
ヤツの間合いは爆発的に拡がり、すでにその
それに何より、愛するカレンは、
カレンの逃走は不可能。
目の前に立つ巨人がその気になった時……それが終わりの時。
死は……
ならば……
死ねッッ!!
俺は、死ね!!!
カレンのためならば、この命惜しくなど無い。
己を捨ててしまえ!!!
己を捨ててしまえば、恐れも同時に消え去る。
前へッッ!!!
後では無い、
前へと出るのだァッッ!!!
覚悟であった。
名を売ることで貯めてきた
覚悟をすれば、何ほども無い。
功名心や、己を縛り付けていた余計な欲は、全て消え去った。
残ったのは……
オチヨは、隣に立つカレンを確認した。
カレンもまた、オチヨを見つめていた。
今にも泣き出しそうな顔をしている癖に、笑顔を作ろうとしている。
……そうか、カレン、おぬしも俺と共に
オチヨは、かつてカレンと共にスールの木の下で誓った言葉を思い出していた。
『我ら二人、産まれた日は違えども、
今思えば、血気盛んな若気の至りであったが、真心よりの誓いであった。
「ふっ」
オチヨが微笑むと、カレンもまた微笑みを返してきた。
その顔を見た
余計な憑き物が落ち、代わりに魂の真理に気づいた。
それは、互いを信じ合う真心。
それは、愛の力。
愛の力に気がついただけで、オチヨの全身から虹色の
隣のカレンもまた、
まだ戦える。
いや、それどころではない。
オチヨが今まで経験したことの無い、爆発的
何……だ、この
オチヨは戸惑った。
今まで体験したことなど無い
戸惑いはしたが、オチヨはすぐに思い直した。
この期に及んで余計な雑念は無用。
いま成すべきは、カレンと共に前へ出る覚悟のみ。
己を捨てる覚悟によって、初めてたどり着く境地であった。
愛の力は、偉大だ。
生命の奥深い底の底から、力が沸き上がるのをオチヨとカレンは共有していた。
限界だと思い込んだ命の先から、膨大な命の炎が燃え上がっていたのだ。
それは……愛の力が
余計なモノ全てをそぎ落とし、命を昇華させて辿り着く、神への頂。
あらん限りの愛……
その全てを
オチヨは、愛の力を頼りに、運命に抗うべく吠えた。
「チェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
かつて、極限まで鍛え抜いた筋肉は裏切らなかった。
二人の愛は裏切らなかった。
萎えかけていたオチヨのホマレが、輝きを
オチヨが、喝を入れる事によって、隣のカレンもまた輝きを
武人の勘が
前へ……
ならば、必殺のあの技しかあるまいッ!
オチヨの脳裏に、必殺技を出すべきだと直感が走った。
「アレをやるぞ、カレンっ、出し惜しみは無しだッッ!!!」
「はいッッ!!!」
カレンの快活な返事が返ってきた。
彼女もまたオチヨとの愛を信じ、全てを投げ打ち、共に前へ出る決心をしたのだ。
覚悟。
通常、必殺技詠唱には、明確な弱点が存在する。
技を前に、相手に対して予告をする行為である。
歴戦の武人ならば、予告された技など、
通常は、相手を弱らせるか、不意を突き、ここ一番の機で繰り出す技であった。
だが、今の
例え、必殺技詠唱によって、技を繰り出すタイミングを察知されようとも問題なかった。
これから繰り出すのは、避けられようはずなど無い、
何を迷う必要があろうか。
「まいるッ!!」
オチヨとカレンの肉体が動いた。
共に毛すじほどの迷いも生じてない。
全身の血肉。
その奥底に残った
「「
”
一世一代、最高の
オチヨは、
愛の力によって
槍へとホマレの光が集まり、槍先がギュンッッと伸びる。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
限界突破の
槍の周りの空間が歪み、激しい紫電を放つ。
己の最大の心、最大の技、最大の力をもって、
「「ケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」」
隣のカレンも吠ゆる。
二人で吠ゆる。
カレンも、横殴りの|剣戟〈スラッシュ〉をオチヨのタイミングに合わせた。
直伸する
バイタツが後ろに下がれば、オチヨの槍が伸びる。
バイタツが横に逃げれば、カレンの
上に飛べば、そこは回避の
オチヨの二の
不可避の
二人の愛の咆哮が、怪鳥の如き気合いとなりて
ボッ!!!
オチヨの気合いにホマレが乗り、通常に繰り出される槍が加速する。
ホマレの炎が槍先に灯り、バイタツへと届いた。
二人の必殺技が、巨人の心臓を貫く確信と共に突き込まれた。
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