決着

※今回は視点が主人公視点とオチヨ視点交互します。


★主人公視点


 迫り来る、剣撃と、炎の槍。

 二人の頭上に浮かぶ必殺技名を見れば、尋常じんじょうならざる合体必殺ワザコンビネーションブローと分かる。

 ……だが。

 俺の並外れた動体視力は、その全てを捉えていた。

 脳の処理能力が極限まで働き、炎の塊になった槍先が己へと迫っているのを視認する。

 危機を前に、鍛え抜かれた筋肉は、自然と次にやるべき動きを選択した。


ッッ」


 ”発気ハッキ”を一閃。


 ”回し受けマワシウケ

 同時に来る複数攻撃を払い落とすワザ。

 同時に動き出す両腕。

 左腕は、下内側に回転させるように移動する。

 右腕は、上外側へ回転させるように移動する。 

 両腕を空中でかき混ぜるように、上下に交差して回す。


 ”左下段外受けヒダリゲダンソトウケ


 突き込まれた槍を、炎と一緒に左下段外受けで螺旋に払い、迎撃。

 槍先の炎は、下段払いの風圧で消えたのを確認。


 ”右上段外受けミギジョウダンソトウケ


 横殴りに切りつける剣の腹を、右上段外受けが叩く。


 パキンッ!


 乾いた音を立て、剣は根本から折れ飛んだ。

 盗賊・槍は、驚愕に目を見開いているが、二の手を放つべく、槍を引き戻そうとしている。

 ぼやぼやしていると、次の槍が飛んでくる。

 一方、盗賊・剣は、剣を折られた勢いで身体が泳ぎ、体幹バランスを崩していた。


 勝機チャンス


 盗賊・剣のがら空きになった横っ腹をギラリと睨んだ。


 コイツ盗賊・剣を、アイツ盗賊・槍へ蹴り飛ばし、スキを作る!!


 イメージは、盗賊・剣の身体を、牽制代わりに蹴り飛ばす。

 右中段回し蹴りをブチ込む。

 残念ながら俺は、二つ名ネームド憑きじゃない、必殺技はアテにならん。

 必殺技名詠唱は、最初から使う気は無い。


 だが……ソウルを込めりゃ何とかできそうな手応えはあった。

 要は気合いの問題だ。

 必殺技にならなくとも、気を込め、技を繰り出す。

 蹴った後の事は、出たとこ勝負。


 ”右中段回し蹴り”


「エェイヤァッッ!!」


 発気を一閃。

 俺の蹴足へと、ホマレの光が集まる。

 中段回し蹴りが、盗賊・剣の胴へと炸裂した。


 ボグォッ!!


 湿った破裂音。

 想像以上。

 牽制のつもりの蹴りが、凄まじい効果を発揮した。

 盗賊・剣の胴鎧は、蹴脚の侵入により身体の半分位置までめり込む。

 くの字に折れ、全ての穴から大量の血潮をまき散らし飛ぶ、盗賊・剣の肉体。


 真っ直ぐ、矢のような速度で宙を舞った盗賊・剣の身体は、槍をもう一度繰り出そうとあがく盗賊・槍へと飛んだ。



★盗賊・槍 オチヨ 三人称視点


 オチヨは驚愕した。

 信じられない出来事であった。

 魂魄の全てを込めた合体必殺技コンビネーションブローが、あっさりとかわされたのだ。

 だが、目の前の巨人は、オチヨ達に呆ける暇さえ与えてくれなかった。

 突如バイタツの頭上にホマレ光が渦を巻き、新たな必殺技名が現れた。


 ”必殺技フィニッシュブロー 右中段回し蹴り”


 バカなッッ!!!

 無詠唱で必殺技フィニッシュブローが発動だとォッッ!?


 驚愕!!

 異常事態であった。

 バイタツは、必殺技フィニッシュブロー名を詠唱して無かった。

 なのに、突然、必殺技フィニッシュブロー名が現れたのだ。


 来るッッ!


 戦いに意識を戻す。

 オチヨの鍛えた動体視力は、無防備のカレンが、バイタツに襲われる瞬間を見逃しては無かった。

 バイタツの全身を覆うホマレの輝きが、蹴足けあしに集まり、カレンを蹴り飛ばした。

 迫るカレンの肉体。


 カレンッッ!!


 愛するカレンの姿に動揺はしたが、思考は自動的にワザを繰り出すべく働く。

 それだけの修行を、幼き頃から肉体に染みこませた成果だ。


 愛するカレンの肉体を、その無念ごと槍で撃ち落とす。

 返す槍さばきで反撃につなげる。


 オチヨは、血を吐く決意で槍を操る。

 己の槍に、武人としての全能力すべてを託す。


 ゴジュッ!


 だが、現実は無情である。

 オチヨの槍を握る右腕は、飛び込むカレンの勢いを受けきれず、くぐもった音を立て弾けた。

 ちぎれたオチヨの右腕は、槍を握ったまま後方へ吹き飛んだのだ……



★再び主人公バイタツ視点


 盗賊・槍は、千切れた肩から鮮血をほとばしらせ、呆然とその場に立ち往生する。


 俺としては、盗賊・剣を吹き飛ばして隙を作るつもりだったはずだ。

 だが、またしても予想以上の結果が生まれている。


 思い当たるモノがあった。

 先ほど、蹴り足に集まったホマレの光がそうだ。


 これが必殺技フィニッシュブローの力か……

 俺に二つ名ネームドは無いし、必殺技名の詠唱もしなかったが、ワザは出た。

 謎である。

 だが、必殺技は出た。

 どう言った仕組みなのかサッパリ分からんが、要は、気の問題なのだ。

 だとすれば……


 盗賊・槍を見やると、ヤツは、泣いているのか笑っているのか解らない表情でこっちを見ている。


 試してみるか。


 俺は、必殺技フィニッシュブローを試してみることにした。

 歩き出す。

 頭の高さは、一切ぶれない。

 すり足での足裁きが、上下のブレを完璧に制御している。

 早くもない、遅くもない。

 そのままの速度で歩く。

 幼子のようにイヤイヤをする盗賊・槍の正面、その1歩手前で立ち止まる。

 右手を、盗賊・槍の胸の前へ、虚空をつかむ形で差し出す。


 ビタッ!


 盗賊・槍の胸の直前で、右手が止まる。

 精神を右手へと集中する。

 ソウルを右手へと注ぎ込むイメージ。

 イメージに合わせるよう、俺の全身から立ち上るホマレの輝きが、右手へと流れこむ。


「シュヒュッ……」


 息を吸い込む。

 背中の筋肉ヒットマッスルがピクりと反応する。

 腰の回転で、上半身を半身にヒネり、右腕を引き戻す。

 右腕を脇の下にたたみ込む。

 代わりに左手を前に差し出す。

 引いた右手は、小指から順番に握りこぶしが作られていた。


 右拳は脇の下へ畳み込まれ、発射の準備は完了。


 発射の角度を調整。

 念じるは、盗賊・槍の肉体を破壊せず、後方でへたり込む盗賊の群へブチ込むイメージ。

 あえて、必殺技名は詠唱しない。

 ただ、ソウルを込めるのみ。

 正面では、片腕を失った盗賊・槍が、今にも泣き出そうな顔で何かを訴えかけている。

 俺は、弾けるような笑顔になって盗賊・槍に答えた。


「エェイッヤアアアッッ!!!」


 裂帛れっぱくの気合い。


 後から教わったが、俺の頭上には巨大な言霊化した文字が浮かんでいた。



 ”神の拳ゴッドブロー 中段突きチュウダンヅキィイイッッッ!!!”



 空間が、噴出するホマレの輝きによって激しく歪む。

 右足親指の付け根を起点に生じた膂力パワーが、腰の回転へと繋がる。

 下半身は、加速する右拳に推進力を加え、破壊力を支える。

 背中の筋肉ヒットマッスルは、射出される砲弾の強固な発射台と化し、僧帽筋から右腕へと膂力パワーを伝達する。

 全身から伝わった膂力パワーが、右拳を射出する。


 続いて、ほとばしるホマレの輝きが、巨大化した。

 巨大化したホマレは、瞬時に右拳へと収斂しゅうれんする。

 右正拳中段突きは、盗賊・槍の両大胸筋の中央、胸骨へと吸い込まれ……

 爆発した。


 バッグゥォオオォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!


 雷鳴の如くの爆音が鳴り響く。

 俺の右拳を通じて伝わった破壊力は、あえて盗賊・槍の肉体を破壊しなかった。

 盗賊・槍の肉体は、原型を保ったまま凄まじい回転で宙を舞う。


 ギュギュギュグオオオオオオオオバリバギバリバリボギュボリバリバリ!!!


 高速回転をするオチヨ・ランダーの肉体。

 回転力は、後ろで密集隊形を取っていたその他大勢の盗賊を巻き込み弾けた。

 血煙がたち、血風が吹き荒れる。


 文字通り、盗賊どもの肉体はバラバラに吹き飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る