荒覇吐く月
アリス&テレス
目覚め
★プロローグ
神話の昔より、人々の
……
この物語は、荒ぶる肉体の
★目覚め
気がつくと、月を見上げていた。
昼間から出ているデカイ月だ。
誰かがブン殴ったのか、大きな穴を開けている。
欠片によって月の環が造られ、幻想的な光景が空に浮かぶ。
風が肌を撫でた。
柔らかい風だ。
風が全身の肌を
風が吹いて来る方向には、何も無い。
……いや、森があったと言うべきか?
森の代わりに、大地がえぐられ、むき出しになった大穴が拡がる。
巨大な力が解放されたのか、盛り上がった土壁の外には、樹齢数百年を超すであろう大木が放射状になぎ倒されていた。
むき出しになった穴の底には、地下水が湧き出し、ちょっとした泉が産まれている。
しかも、泥と黒いススにまみれた姿でだ。
幸い、季節は初夏ぐらいか、素っ裸でも気にならない。
気にはならないのだが……
「どこだ、ここ?」
記憶が無かった。
ナゼこんな場所で立っているのか? まるで解らない。
自分の事すら思い出せそうにない。
「俺は、いったい誰なん……だッッ!?」
考えようとすると、頭に鋭い痛みが走った。
痛みの原因は……巨大なイメージ!?
イメージの正体は……
「名前?」
イメージをたぐり寄せると、名前であった。
ただの名前では無い。
強く、巨大で、人々の
ソレの正体が名前であるのは解ったが、言葉としては思い出せない。
俺の名は失われていたのだ。
言いようのない喪失感が、俺の
代わりに別の何か思い出せないか、頭の記憶を探ると、幾つかの言葉が浮かんできた。
”203セメタ、180キラム、32歳”
ナゾの数値と、ナゾの単位だ。
何の言葉なのか思い出そうと頭をヒネってみても、記憶へたどり着けない。
辛うじて分かったのは、恐らく自分の年令が32歳である事ぐらい。
自分自身についての記憶がみごとに欠落してた。
まるで悪い夢を見ているようだ。
だが、ひりつくような喉の渇きと、全身に張り付いた不快な汚れが、コレは現実だと知らせる。
ひどい乾きだ。
幸い、目の前には
水……
喪失感よりも、カラカラの喉が水を求める生理的欲求が勝った。
脳が、何かを考えるより先に、身体が動いていた。
土むき出しの斜面へと、裸足で飛びだす。
ドォンッッ!!!
…
ドッ!…ドッドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……ッッ!!
鈍く、やたら重い音が、圧倒的パワーで斜面を駆け下りる。
大岩が転がり落ちるが如く、水面へと加速していく。
余計なことは何も考えてない。
一刻も早く、のどの渇きを癒やしたい欲望だけが、頭を支配している。
ドッバアァァンッッ!!
派手な音を立て、水面に飛び込んだ。
水中に沈みながら、獣のようにガバガバ水を飲んだ。
冷たくうまい水だった。
飲水に満足すると水面へと浮かび、仰向けに浮かんだ。
「ふぅう……生き返った」
空が青かった。
しばらく、そのままの姿で空を見上げていた。
全身から不快な汚れが落ちると、ようやく周りの事を考える余裕が出てきた。
「……上がるか」
いつの間にか、浅瀬まで流されていたようだ。
立つ。
立ち上がった姿勢で、水面を覗いた。
「ぬう……ッッ!?」
水面に写った姿を見て驚いた。
「俺は……何者なんだ?」
水面に映った姿に記憶が無かった。
その肉体を一言で表すなら……
で、あった。
足……
★……
胴……
胸……
背……
首……
肩……
腕……
拳……
圧倒ォオオオ的ィイイイイイイイッッッ!!!
筋ッッ肉ゥッッ量ォオオオオオオッッッ!!!
鍛えぬかれた筋肉は
指の先端にまでムッチリと筋肉のつまった肉体。
圧倒的筋肉体が水面静かにたたずむ。
圧倒的な
だが……この肉体が主張するのは、筋肉だけでない。
その見た目もまた素晴らしかった。
ハリのある分厚い表皮は、陽光をあび、
その姿はまさに……
肉体が最も充実する時期にだけ
美しい。
だが、この肉体は、ただ美しいだけの肉体ではないッッ!!
艶々と
切創痕ッッ!!!
刺創痕ッッ!!!
裂創痕ッッ!!!
咬創痕ッッ!!!
どれも古い。
刃物の傷だけでは無い。
巨大な獣の牙や、爪の痕。
この肉体がどんな生き方をしてきたのかを雄弁に物語る無数の
改めて水面をのぞくと、見知らぬ顔がこちらを見ている。
ざんばらに伸ばした黒い髪の毛。
細く鋭い目に黒い瞳。
潰れたダンゴ鼻。
何度も内出血を繰り返し、こぶ状に変形した戦う男特有の耳。
伸び放題の無精髭の下には、発達した咬顎筋によって、
だが、その
……
水面へ映る姿に、俺の頭は混乱していた。
だが、周囲の異様な光景が、現実を突きつけてくる。
大穴の中心には水が溜まっているので確認できないが、ここで何かが起きたのだ。
こんな時はどうするべきか?
簡単だ、とにかく
泉から上がる。
全裸の素肌に、水滴が
ただ水を浴びただけなのに、汗や汚れが洗い流され、心地がよい。
「ん? これは?」
大穴の斜面を上がろうとした時、近くの岩の断面に何か白いモノが見えていた。
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