縁
★
夜が明ける頃、俺が最後の火の番をしていると、丸まったマントの中からロコがゴソゴソと這い出してきた。
「よぉ、起きたか」
「ふぁい、おはようございます」
ロコは、ムニャムニャと、まだ眠そうな目をこすりながら起き上がると、寒いのか、暖を取ろうと俺に体を寄せて座った。
昨日は、しっかりした少年に見えていたが、彼はまだ子供っぽいところが残っているようだ。
俺にもたれ掛かりながら、うつらうつらしているのを見ると、可愛いものだ。
「いつもこんな感じなのか?」
俺が、ニャムスを見るとガーガーとイビキをかいてる。
ロコはその様子を意識すると目が覚めたようだ。
俺に寄りかかった姿勢から背筋を伸ばして座り直す。
「ふぁ、今日は名無し様が居られるので安心しきっているみたいですね。私も、野営でぐっすり寝たのは初めてかもしれません」
「そうか、よく眠れたか」
俺は、笑顔でロコに答えた。
笑顔は、
だが、子供の面影を残す少年の返答は俺の予想と違った。
「ええ良く睡りましたが……えっと、あの……」
隣を見ると、少し不安な表情に変えたロコが俺を見上げていた。
俺は、彼に何か不安を与えたのだろうか?
「どうした? 何か不安があるのか」
「いえ、不安と言うか、その、武人である名無し様は、私のような呪術師と
ロコが不安に感じている理由が全く理解できなかった。
呪術師の何が
全く意味が分からないので、彼に聞いてみた。
「飯をおごってくれたお前達を
「そそ、そうですね、エヘヘ」
俺が呪術師を肯定すると、さっきまで憂い顔だったロコの表情が、パーッと笑顔になった。
これが若さだろうか、表情がコロコロ変わるヤツだ。
ロコの機嫌が戻ったところで、呪術師について聞いてみよう。
「そうだな、呪術師について教えてくれるかい?」
「は、はいっ」
笑顔でうなずいたロコは、凄い早口で説明し始めた。
だが……
凄い早口な上、長い。
長すぎた。
長すぎるので、俺は途中から聞くのを諦めたのである……
「では、呪術師についてご説明しましょう。神代創世期、冥府よりこの世に現れた
「……」
早口で一気にまくし立てていたロコは、
「ちゃんと聞いてました?」
「……ああ」
俺は笑顔で返事をしながら、ヒザの上に登っていたロコをソッと持ち上げ、距離を離した。
笑顔は
「私の説明、解りますよね?」
不満げな顔したロコが、俺に詰め寄ってくる。
「いや、一つも解らん。そもそも
知識の無い話を早口で説明されても理解できない。
俺の素直な返答に、ロコはほっぺたを膨らませた。
「むー、そこからですか? 呪術の基本ですよ」
「すまんな、その呪術の基本から教えてくれ」
「そうですね、
「言葉であり、力?」
「えー、どう説明すればいいかな……」
ロコは、首をかしげて考えをまとめているようだ。
少し時間をかけてから答えた。
「言葉……言の葉は、ただ口にするだけで強い力を持つのはご存じでしょうか?」
「ふむ、言葉を話すだけで力が出ると」
「はい、言の葉は、使い方によって、
「言葉その物が、
「そうですね、
何となくロコが言いたい事はわかった。
確かに、言葉は力に変わる。
呪い
「うむ」
「逆に、人を褒め讃えたり応援する言葉で、人はやる気を起こして元気になり、
「なるほどな」
逆もまた真。
確かに、言葉が人を衰弱させるのが道理なら、言葉が人を元気にするのも道理だ。
人は褒められれば嬉しいし、応援されれば勇気が出る。
祝い
「呪術の基本は、対象が隠し持つ禁忌や渇望を利用し、最も
「問題?」
「はい、基本的に呪術は、同じ言葉を話す相手で無ければなりません。国が違い言葉が違えば、相手の禁忌や渇望には届かず、術が成立しないのです」
「言葉の問題なのか?」
「そうです、話しが通じないと言うやつです。こうなると大変です、術が成立できなければ、行き場を失った
「ふむ、失敗すると己に返ってくるんだな」
「そうなんです、そこで
「|
何がそうなんです、なのだろう?
「はい、そちらをご覧ください……そう、その
ロコが指さしたのは、光る文字が湧き出す例の石柱だ。
「アレか、昨夜の説明では、
「はい、この
「
呪術師が操る言葉なのだから同じかと思ったら、
「通常の
「肉体に影響が?」
「はい、例えば通常の呪術で『オマエの腕を斬ったぞ』と
「ふーん、まあ
「そうです、
「つまり、武人が唱える武名のホマレが目に見える形になって真価が発揮されるように、
「その通りです、そこの
「ふむ」
最初、道に出てきたとき、森の獣が逃げていく気配があった。
あの
実際、この不気味な彫刻を掘られた石柱からは、光りながら舞う
「この
「なるほど」
石柱から湧き出す
「そして、顕現した
「ほう」
目に見えるほど実体化した
しかし、こんな石に文字を掘ったぐらいでなあ……
俺は、疑問に思ったことを、石柱に彫り込まれた文字を見ながら尋ねた。
「つまり、石柱に文字を掘っただけでそんな力が出せるのか?」
俺の疑問に、ロコは首を振った。
「いいえ、少し違います。この
この
言葉を操る呪術程度で、それ程の力がだせるとは……と言うことは……
俺は、ロコの目を見ながら、さっきから引っかかっていた部分を尋ねた。
「……ふーん、つまりロコは
一瞬、ロコの目がうろたえ、そのまま俺の疑問に答えた。
「やろうと思えば出来ます……できてしまう故に、呪術師の多くは、呪術を
ロコは、シュンとしてしまった。
呪術師は、
彼にも色々と事情があるようだ。
少し話しを変えてみよう。
「ふーむ、呪術師にも色々あるのだな……ところで呪術師は誰にでもなれる物なのか?」
彼自身に問題はなさそうだし、呪術で色々できるのも解った。
ただ、
「いえ、そう簡単じゃ無いです。
「へえ、じゃあロコは、才能あるんだな」
俺が褒めたら、ロコの顔が曇った。
「いえ……あの私の呪術は、正統な呪術師と違い、外法の
「ちょっと待つにゃ」
言いよどんだロコの横から、ニャムスの声がかかった。
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