精霊呪術
★
いつの間にか、ニャムスが目を覚ましていたようだ。
寝床のマントの中から顔だけ出して、コッチを見ている。
ヨダレの跡ついてるぞ。
「そんな事ないにゃ、
ロコが、ほっぺたを膨らませて、ムッとした。
「ちょっと
「本当のことにゃ。でも若様は呪術が使えないニャーにまで
ニャムスが、ムフンっと鼻を高くして俺を見る。
意外と主人想いの良い奴だ。
まだ薄暗い中、マントから起きだした彼女は、朝食の準備を始めた。
ロコの方は、機嫌が戻ったようだ。
はにかみながら、説明の続きを始めた。
「ニャムスの言う通り、私の場合、普通の呪術師が
「ふむ」
「そして
「コレか」
俺は、懐からデカイ
コレが無いと、
「えっ……ええ、それはちょっと大き過ぎますし、まだ未加工なのでちょっと……普通は、この杖の先に着いてる木の実ぐらいの大きさの
ロコは、傍らに置いていた杖を持ち上げ、その先端に埋め込まれた木の実ぐらいの
「へー」
「
少し生返事になってきた俺に、ロコが尋ねた。
「う……うむ」
昨夜から説明が多く続いたので、情報が渋滞してしまっていたのだ。
理解力が落ちるのもしょうがない。
「……念のため実演した方が良さそうですね、少々お待ちください」
ロコは、
地面の上に座り込んだロコは、荷物の中から刺繍入りの布を取りだし拡げた。
布の表面には、金糸や光沢のある糸で五芒星が画かれており、周囲に複雑な模様が刺繍されてる。
使い込まれた物なのか、布のはしは
ロコは、干しイチジクを取りだし、まるで祭壇に
続いて、小刀で自分の指先を切り、血を数滴干しイチジクの上に垂らすと準備が整ったようだ。
ロコは、祭壇の前でアグラをかいて杖を手に持つと、
正面から見ると、びっしりと精巧な装飾が彫り込まれた
彼が術をやりこんでいる証左だ。
「まずは、
ロコは、右手で杖を握り、息を吹きかけるように
続いて、左手の指を顔の前で立て、精神を集中する。
大きく目を見開き、
「エレクコンクタント ク ヒトヨヒトリキミセイレイサン カシノキワカバセイレイサン オチカラオカシカシカカシ ササゲコノミオカシデオチカラオカシ カクリョウツリョトバリ ホトマタギ マタギカクシヨ……」
ロコの口から謳うように
どうやら
その声が
気がつくと、ロコの声が小さくなっている。
声が小さくなるのと合わせて周囲の空気も変わっていた。
広場を囲む森の木々がざわめく。
見上げると、中でも一番立派な木が、大きく揺れている。
葉っぱ一枚一枚の影で、何かが
「○×○○」
気がつくと、下から意味不明のささやき声が聞こえる。
見れば、祭壇の周りで、数体の小さな光が舞っている。
目をこらすと、羽の生えた小さな人間のような形が見えてきた。
最初にロコ達と出会った時と同じように、気を張らないとその姿が曖昧になる。
曖昧な姿の
これが
あっという間に干しイチジクが消えていく。
干しイチジクが無くなる頃、ロコが口を開いた。
「
ロコが仕上げの
”
言霊は、俺の目が認識した瞬間から、すぐに
無数の実体化した
ロコが消えた場所には、枯葉が数枚残っているだけであった。
~~~
「
ロコが
徐々に彼の存在感が戻り、やがて姿を現した。
俺の反応を観察するように覗き込むロコが、今の説明を始めた。
「これが
「はあ、凄えな」
実際、彼が消える光景を目にすると、呪術とは実に不思議だ。
パンッ!
俺が感心しているのをジッと見ていたロコが、自分の顔の前で手を叩いた。
「これで準備は整いました」
「準備?」
急にロコが何か言い出した。
俺の当惑を余所に、ロコはニコニコしながら話を続けた。
「名前を思い出すための
「ああ、それか」
昨夜、カマドの前でロコが何とかできるかも、と言っていた話だと思い出した。
「名無し様の心に
有り難い話だが、さっき
力には代償が必要だ。
「そんな呪術を全力でホイホイ使って良いのかい?」
「はい、大丈夫です。バジリスクの爪を頂いた時点で、私には過分の恩が名無し様との間で
彼もこう言っている。
せっかくの申し出だ。試してみても悪いようにはされないだろう。
「解った、頼もう」
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