大精霊


 ロコは、五芒星の布の上に、また干しイチジクを並べ始めた。

 今度は、干しイチジクだけでなく、呪具マジックアイテムが必要との事だ。

 俺の持っていた魂玉ソウルジェムがちょうど良いので、祭壇の中央に置く。


 俺の血が必要らしく、ロコが小刀で指先を切り、荷物から取り出した小皿の上に血を垂らした。

 ロコが小袋を開き、中から光る粉を血と一緒に指でかき混ぜる。

 小皿の底で少量溜まっていた血が、光を帯びて輝き出した。

 輝く血を小指ですくい取り、俺の額と、自分の額に点けると、残った血を祭壇の上に置いた拳大の魂玉ソウルジェムの表面に塗る。

 魂玉ソウルジェムの表面に血が触れると、吸い込まれるように消え、代わりに魂玉ソウルジェムの表面に複雑な模様が浮かんだ。


「新品でしたが無事魂玉ソウルジェムとのパスが繋がりました、呪具マジックアイテムとして使えます。では、始めさせてもらいます」


 ロコが、祭壇の前に座り、自分の魂玉ソウルジェムを口元に寄せる。


「うむ」


 俺が返事をすると、さっき精霊エレメンタルを呼び出したときと同じように、ロコが謳うように韻を含んだ声で、精霊エレメンタルへのしゅを唱えだした。


「エレクコンクタント ク ヒトヨヒトリキミセイレイサン カシノキワカバセイレイサン オチカラオカシカシカカシ ササゲコノミソウルダイソウル ダイダイオチカラオカシ カクリョウツリョトバリ ホトマタギ マタギカクシヨ……」


 祭壇の魂玉ソウルジェムの大量の光雲……光雲の正体はエレメントが集まり、その場で渦を巻く。

 俺とロコの手のひらからソウルが引き出され、エレメントの渦に混ざる。

 エレメントが濃くなるのに合わせ、森全体の樹木が大きくザワめき始めた。


 俺が上を見上げると、全ての木の葉影に目がうごめく。

 影の視線の先には、魂玉ソウルジェム上でエレメントの渦が形になり始めていた。


 気づくと、祭壇の魂玉ソウルジェム上で、大鷹が羽を抱えるように腕を畳む美しい立ち姿ポージングを魅せる、筋肉質マッソー体格ボディの※立派な精霊エレメンタルが現れていた。

 ※大きさは魂玉ソウルジェムと同じぐらい。

 精霊エレメンタルの背中を見れば、煌びやかな蝶々の羽がパタパタと自己主張している。

 実に美しい精霊エレメンタルであった。


「大地の主格、大精霊エレメンタルにゃ」


 ニャムスが、慌てて平伏をした。

 何かたいへんな存在を呼び出したらしい。

 大精霊エレメンタルは、大きな魂玉ソウルジェムの穴から沸き上がるエレメントを吸い込み、その肉体美を維持しているようだ。

 見ている端から肉体を消しつつ、エレメントを吸収して美肉が再実体化する。


 大精霊エレメンタルの登場を確認したロコは、隠し切れてない動揺を抑えつつ、そのまましゅを唱え続けた。


「エレクコンクタント ク エレメタグランマッソセイレイサマ キレテルキレテルアラマホシキキンニクエレメタグランヘ オネガイカシコミカシコミ コノモノアラバクニクノブジンナリ ナオブメイドワスレオコマリコマリ ナニトゾオチカラオカシモカシソウルジェム ナニトゾナニトゾ……」


 ロコが唱えるしゅが最高潮に達したとき、大精霊エレメンタル立ち姿ポージングが変化した。

 ニッと笑う大精霊エレメンタルが、左手の親指を立てた姿のまま魂玉ソウルジェムの中へ溶けるように消えた。


 大精霊エレメンタルの姿が見えなくなった瞬間、ザッと、風が吹いた。

 風に乗り、大量の落ち葉が降り注いだ。

 心なしか、周囲の木々から葉っぱが減っているような気がする。

 まだ新緑の若葉が萌える季節には似つかない光景だ。

 大精霊エレメンタルを呼び出す代償に、森全体から力を借りたようだ。


 祭壇を見ると、大精霊エレメンタルの消えた跡には、色味が金色に変わった魂玉ソウルジェムが残されている。

 呪術は成功したのだろうか?


 少し息が上がったロコが目を開いた。


「ハァハァハァ……どうやら上手くいったようですね。大精霊エレメンタルが出てくるなんて思ってなかったのでびっくりしましたよ。この魂玉ソウルジェムの力が強くて助かりました、私のソウルだけなら枯死するところでした」


 大きな存在を呼び出すには、それに応じたソウル量を代償にしなければ行けなかったらしい。

 簡単な呪術では無かったようだ。


「ああ、大丈夫か?」


「はい、少し休めば大丈夫です。それより、その魂玉ソウルジェムは大精霊エレメンタルの加護を得ました。直接握って武名を願ってみてください」


「これだな」


 俺が魂玉ソウルジェムを握ぎると、石の穴部分から熱が俺の体内に流れこみ、俺のソウルと反応する。

 ソウルの中で熱が蠢いていた。

 名前を思い出せそうな気がする。

 だが、一度名告った時は、全くこの世の物では無い発音だったのだ。うまく形になるイメージができない。


「どうもすぐには出てこないようだ」


「名無し様、あまり焦らないでください。精霊エレメンタル呪術は、通常のシュよりも効き目が遅いのです、ですがその分、精霊エレメンタルの導きは強力です。切っ掛けさえあれば、最も相応しい武名へと形を整えてくれるはずです」


 俺が上手く名前を思い出せないのを伝えると、ロコは気にするなと言ってきた。

 精霊エレメンタル呪術には時間と切っ掛けが必要らしい。


「そう言うものか?」


「はい、精霊エレメンタルの導きを信じましょう」


「解った」


 俺達は、魂玉ソウルジェムに宿った大精霊エレメンタルの導きを信じて、名前が形になるのを待つことにした。

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