覇王府
★
休憩所には、湧き水から引いた泉が備えられ、屋根付きのカマドが大量に並ぶ。
普段は、
そんな日もあるのだろう。
無人だが、整備された施設が自由に使えて便利だ。
野営の準備をしながら、今居るこの土地の情報を教えてもらった。
幸い、元武人貴族出身のロコは、正規の教育を受けた人間だった。
アトラス大陸の歴史や、ハイネル覇王府の内情をかなり詳しく教えてもらえたのはありがたい。
★
ロコの話しだと、ハイネル覇王府は、アトラス大陸に200年続く戦乱を終わらせ、10年前に開かれた
ハイネル覇王府の前時代……
ハイネル覇王府が産まれるよりも200年以上前の話し。
かつてアトラス大陸を統治していたのは、神聖アトラス帝国であった。
神聖アトラス帝国は、進んだ呪術文明を誇り、大陸各地に大理石の神殿や、テルマエと呼ばれる公衆大浴場を
……だが約200年前、神聖アトラス帝国は、皇位継承者争いによる混乱で崩壊した。
皇室の武名は、失墜したのだ。
支配者の武名が失われる世界とは、法の力が失われる世界。
法を失った世界で頼るは、
自分で自分の身を守る、
混乱の中、任地の総督府を守護する駐屯軍団は、己の権益を守るため分離独立をおし進め、任地に独立藩王国を築いた。
大陸全土で
群雄割拠の混乱は、爵位高き貴族であろうと、力無き者を容赦なく滅ぼした。
やがて時代が進むと、周辺を取り込み、
だが、永遠に続くかと思われた乱世は、一人の覇王によって終焉を迎える。
200年の戦乱を勝ち抜いたのは、ハイネル藩王国の
ハイネル藩王国は、先代藩王の時代まで地方の弱小藩王国の一つでしかなかった。
だが、弱小藩王国は、ガルマ・ズム・ハイネルの代になり、長く戦乱状態だったアトラス大陸平定へと覇道を歩み出し、瞬く間に天下を布武した。
ガルマの覇道は、先代藩王が起こした産業改革から始まる。
手に入れた巨額の資金力で、強大な常備軍を配備し、多くの戦を勝ち抜いた。
同時にガルマは、外交の天才でもあった。
経済と武力を背景とした
ガルマ・ズム・ハイネルが覇を唱えてから40年でアトラス大陸は平定され、全武人貴族の頂点、
旧神聖アトラス帝国は、皇帝の名を
覇王ガルマは、大陸全土を平定した
ハイネル覇王府である。
今現在、首都ハイネルにハイネル覇王府が開かれ、10年の歳月が経つ。
その間、覇王ガルマは毎年社交会を開き、全
社交界の場では、アトラス大陸全土の
覇王ガルマは、最初の社交界で大ナタをふるった。
社交界に
大領地の大
中小領地の有力
そんな目にあっても、諸侯が反乱を起こさなかったのには、理由がある。
一定以上の収入のある貴族の子息には、首都ハイネルの覇王府立貴族学園に入学が義務づけられたのだ。
さらに、諸侯の妻にも、首都貴族屋敷への
人質政策が軌道に乗ると、反抗的な態度をとる貴族諸侯はいなくなった。
先に言ったとおり、地方
毎年の旅費はバカにならない出費で、外様藩国の国庫を圧迫した。
また、社交界への旅費負担以外にも、多額の出費が強要された。
地方の外様藩国には、大陸交易を結ぶ街道整備、航路確保・港湾事業などの労役・金銭負担を義務づけられている。
地方の各貴族は、地元大
結果、街道の両側に配置した街道守護の
……等々。
ハイネル覇王府は、あらゆる手段で地方藩国を弱体化させ、
その上で、地方藩王国を、独立藩王として
どうやら、ガルマ・ズム・ハイネルは、民衆に平和の分け前を与える有能な王様らしい。
★天下太平の世に残る火種
……だが、太平の下にはまだ、火種が残っていた。
現在、ハイネル覇王府が開かれてから、10年の歳月しか経っていない。
人々の間には、戦乱期の血生臭い記憶が色濃く残っていたのだ。
そんな中、土地に根ざす地武人は、領主の治める城砦内で官僚武人になるか、武器と土着
官僚武人になれなかった多くの地武人は、武器を捨て、土着
だが、中には領主の命に従わず、武器を持ったまま野に下った武人も多く出た。
滅びた
数多くの無職武人が世にあふれた。
平和な世の中だ。
活躍の場を失った、戦うしか能の無い集団がやることは決まっている。
徒党を組み、治安が定まっていない土地で、盗賊や海賊になって暴れ回った。
これに危機感を覚えたハイネル覇王府は、大陸全土に冒険者を
元武人の多くは、冒険者に転職した。
アトラス大陸全土に
冥府と
古代文明遺跡でのトレジャーハンティング。
盗賊や海賊の討伐。
……など。
こうして、彼らの生活を成り立たせ、治安は徐々に回復している。
……それでも、
ここハインダー大森林
周囲に複数の古戦場跡を抱えるハインダー大森林には、いつしか瘴気の
ざっと、今居る場所の情報はこんな感じだ。
正直、意味が半分も分からない。
取りあえず分かるのは、俺のような記憶の無い人間でも、腕一本ありゃ、冒険者として喰って行けそうな事ぐらいだ。
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