第2部 英雄による乱開発を止めなければなりません
第13話 ある村のバブル的な発展(異世界で環境破壊がはじまった?)
それは北と東を森林に囲まれた小さな村だった。
これと言った特産品もない。森の木を伐採して町へ売っているが、周辺の他の村と差別化できるような木材でもなく、儲かるような規模でもない。たまたま最初は手つかずの森があって木材も手間の割によいものが手に入ったので村として成り立っただけだった。
それでも小さな村の身の丈に合ったバランスのとれた生活を送っていた。
だがそのバランスは微妙なもので、ちょっとしたことで簡単に崩れてしまう。
気候の変動、モンスターの襲来。それぞれはちょっとしたことでも、それによる収穫の減少や人口減少はその村にとっては一大事だった。
一言で言えば徐々に衰退していく一方だったのだ。
2年前。
先代の死去と共に村長になった息子はこの村の現状を憂えていた。彼は若いころに町で働いていたときがあった。
小さな村が限界を迎えてしまい、村民全員が町へ流れ着くというのは珍しくもないのだ。だがそうやって町へ来ても町での仕事にあったスキルを持っているわけでもなく、ほとんどは低賃金の手間仕事に従事するぐらいしかできないのだ。その未来は暗い。
そうかといって村に特別な何かがあるわけではない。一攫千金を狙えるような夢のネタになりそうなものすらもないのだ。
「あの一帯を伐採するなんてとんでもない!」
新村長の指示で村に近いゆるやかな斜面の樫の木を伐採することになると、村の比較的保守的な層がかたくなに反対した。
「あのあたりは先祖代々、手をつけてはならぬということになっているだろうが!」
新村長は首を振った。「そんなのは理由じゃない。過去にしなかったと言うことは今しない理由ではないですよ。あの一体は村から近い。それに育成具合もよい木が多い。木材にすれば言い値で売れるはずですよ」
「あの一体に手を出せば天罰が下る、そういう言い伝えではないか」
「はっ」
新村長は鼻で笑った。
「この村の状況はもう天罰みたいなものじゃないですか。あなたのところの娘さん、3年前に村を出て行ってしまいましたよね? そちらもだ。あなたの息子さんだってもう村に残っていない」
「俺は村長に賛成だ!」
村人の中でも頭一つ抜きん出た体躯に恵まれた男性が声を上げた。
彼はこの村の猟師兼きこりで、弓を射れば的を外すことはほとんどなく、斧を振るえば普通の村民の2倍の速さで木を切り倒す。いわば村の<英雄>だった。先日も村に近づいてきたオオカミの群れを追い払い、まさに英雄と呼ぶに相応しい存在だった。
「確かにあのあたりの樫の木はよい。それに村に近いから運搬も楽だろう」
村の英雄も賛成するとなると反対の声はしぼまざるを得なかった。
それから新村長と英雄の二人を中心に伐採が進められた。
新村長が全体の指揮を執り、英雄が特に立派な木を切り倒す。周辺の木を切り倒したり、木を運び出す作業を他の村民が分担した。
樫の木の状態は特によく新村長が思っていたよりも高値で商人に買い取ってもらえた。
それからはいわばお祭り騒ぎだった。
働けばそれだけ収入が得られる。木を切り倒すのは深い積雪でもなければ一年中続けられる。反対派だったものも声を潜め、村民はこぞって新村長の指揮下に入り、どんどんと伐採を進めていった。伐採で空いた土地は緩やかな斜面だったので、これまで土地不足で増築できなかった家を建てることもできた。
ついには好景気を聞きつけた周辺の村から移住してくる者まで出てきた。村は衰退の一途から、一気に拡大路線の好循環へと転換できていた。
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第2部を始めました。
今度はハートだけでなし星もいただけるようにがんばります。
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