第15話 徴税官の娘の依頼(つんでれサーカス団)
サーカス団は冒険者ではない。だがあちこちを点々と移動するので冒険者ギルドに登録して情報を得るというのが団長の戦略だった。
その日もそろそろ町の住人にも飽きられて来つつあるので、違う町へと移動しようと情報収集にギルドへやってきた。
団長はエイム――日本で高等教育を受けているためにこの時代の人間としては高度に政治や経済についての理解がある――を後継者にしようという心積もりもあって、何かと彼を連れて行動するようになっていた。この日もギルドにはエイムを連れてきていた。
団長が情報収集のために酒場になっている一角へ向かうとエイムは受付の方に目を向けた。
そこには冒険者ギルドにはあまり似つかわしくない少女がカウンター越しにギルド職員の女性に何やら訴えかけていた。ギルド職員は困った様子だった。
どうやら依頼をしているのだがお金が足りないようだった。
「なんとかしてあげたいけど、その金額では受ける冒険者はいないのです」
「でも。でも父が帰ってこないんです」
見ればカウンターに少女が出している金額は依頼にはまったく足らないとはいえ、子どもが出すにしては大金だった。着ているものも決して粗末ではないから、それなりの家の子どもなのだろう。
周囲にいる冒険者らも同情の目を向けつつも、その金額では赤字になってしまうのだろう。誰も近寄ろうとしない。
「どうしたんですか?」エイムは声をかけた。
ギルド職員は困った視線を向けてきた。
少女ははっと振り返った。「父を助けてください!」
少女の父は徴税官で最近、ある僻地の村へ税務調査に出かけていったのだという。大して重大な案件でもなく、最近木材で好景気の村を調べるだけだという。あってもちょっとしたごまかし程度で大事になるようなものではない。
その村まで往復と仕事で1週間もあれば帰ってくる予定だった。だが2週間を過ぎても帰ってこないのだという。
多少、天候等で遅れるにしても長すぎるというわけだ。それにこの2週間、このあたりは特に大雨もなかった。
だがその村まで往復で1週間弱かかるとなれば、その間の食費等はかかる。最低限の支出と見込んでも、少女が差し出している金額では足らなかった。
「ふむ」
いつの間にかエイムの後ろに団長が立って話を聞いていた。
「好景気の村だって? それはサーカス団の仕事があるんじゃないか?」
エイムは振り返った。「本当に?」
団長はこっそりと目をつむって見せた。「当然だろう。地方には娯楽が少ないんだ」
「俺たちはサーカス団です。その村へ興行へ行くついでにお父さんを探しましょうか? それならそのお金で足りますよ」
ギルド職員は止めようかどうしようか迷っている様子だった。ギルドの仕事の斡旋ルールからすればこれは違反だ。こんなふうに善意からでも成立しない契約を結んでしまえば、いろいろと問題が生じるリスクがある。だが少女の願いを叶えてやりたいと思う気持ちは誰もが同じだった。
周囲にいた冒険者らは事情を察すると途端に立ち去ったり、壁に貼ってある掲示に目を向けたりして知らぬ存ぜぬを決め始めた。
その様子を見てギルド職員も静かにカウンターから離れた。
「あいかわらずお人好しなんだから」
馬車に戻った団長とエイムから事情を聞いたルナは大げさに溜息をついた。
「そんなんだと儲からないわよ」
「いいじゃない」ロールが言った。「興行に行くんでしょ? ついでに小遣い稼ぎをすると思えば」
「その通り」ルイは無条件に賛同した。
「興行になるのでしょうね?」リーズが確認する。
「なんでも木材で儲かっているらしいからな。徴税官が行くぐらいだ。それは間違いないだろう。それなら興行だってできるさ」
「それならいいわ。ロールもよいって言うしね」
「木材の村。シーソーが作れますかね?」ピエロのラザールがピントのずれたことを言い始めた。
だがなににしろ合意はできた。
「明日の朝一で出発する。準備を整えよう」ウード団長は決定した。
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