第4話 団長は盗賊たちへの再教育を実施します(異世界でリカレント教育?)
村は盗賊たちを労働力の面で不足していた部分に充当できるということで受け入れることにした。もちろん最初から完全に自由にすることはありえない。様々な形で隔離・監視することが条件だった。
そうであっても実際に損害が出る前だったから成り立つ交渉だった。
元盗賊たちも恩義に感じて努力したが適性は別問題だ。農業に誰でも従事できるというのではない。
元盗賊たちにはまさしくリカレント教育が必要だった。
元盗賊たちの多くはもともとは農家の出身だったが、この数年間はずっと盗賊として生きてきた。それに農夫としてもそもそもが恵まれた環境にいたわけでもない。だからここでキャリアを大幅に切り替える必要があるのだ。
サーカス団と村の有志で午前中は盗賊への教育に協力した。それから午後にサーカスの準備、夕方にサーカスを公演した。
特に団長は教えるのがうまかった。
団長は初老の男性でサーカス団を数年前に立ち上げた。それ以前の経歴は本人が話したがらないので、団のメンバーは誰もその過去をほとんど知らない。時折垣間見せる立ち居振る舞いから、かなり高い地位にあったのだろうとは団員たちは推測していた。
農業は多様な変化に臨機応変に対応できなければならないから、団長は典型的な知識を元盗賊らにたたき込みつつ、農作業に必要な筋力をつけさせた。少なくとも体力があれば農作業の全般で役には立つはずで、下働きとして機能するだけでもまずはこの村に受け入れてもらえるはずだ。後は徐々に働きながら身につければ良い。
団長はどこで農業を学んだのか。それはわからなかったが、その知識はここの村長よりも進んだものが多かった。その薫陶を受けた元盗賊たちは新しい農業知識をこの村に展開するキーマンになるはずだった。このことは元盗賊たちに自分たちがただお情けで住まわせてもらうのでなく、村の一員になるんだという尊厳を与えるのにも役立しそうだった。もちろん団長はそれを狙っていた。
農作業に適性ある元盗賊たちは2週間ぐらいで実務に就けるようになった。
一方で幾ら学んでも明らかに農業に向いていない者たちもいた。全員が農業に向いていてここできれいに収まるなんてわけにはいくわけもなかった。
なんとかしようと思ってもうまくいかない。それは元盗賊たちをいらだたせるだけだった。もちろんこの村に恩義を感じてその気持ちを表に出さないように抑えているが、そんな調子ではこの先うまくいくはずもなかった。
ある日の午前の授業を終えた後。団長は村長と相談した。
「これでおおよそ片付きましたよ。俺が教えることができるところは教えたと思います。残った連中はこれ以上続けても駄目だ。悪いが奴らは農業に向いていない」
「こちらとしてはできるだけ多くの人手は欲しかったところですがやむをえませんな」
村長は肩をすくめた。
「向き不向きはどうしようもないですからな。あなたには何かお考えが?」
「あいつらは都会向きだ。町で働いて酒場で鬱憤を晴らすような暮らしでないとやっていけないでしょう。刹那的であまりお勧めしたい生き方でもないですがね。だから町で仕事に就かせようと思う。上手くすれば一生、町でやっていけるでしょう。
「我々もここではサーカス団としてしっかり稼がせてもらったし、もう公演の新しいネタもない。明後日には立ちますよ」
「そうですか。それでは明日はささやかですがお別れパーティをしましょう。おかげでこの村も救われた。皆、とても感謝しているんです」
「そう言ってもらえると嬉しいですな」団長は笑った。「エイムの暴走も結果論でいえばよかったわけだ」
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見直してみたら主人公エイムが出てきていないような……。団長活躍回になっていました。
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