音楽家になった転生者~カラオケ経験もないのに転生ボーナスを音楽スキルに全振り。相手を説得して世界を救うことにしました~
第3話 転生ボーナスは歌と演奏による説得スキルに全振りします(主人公は暴走しました?)
第3話 転生ボーナスは歌と演奏による説得スキルに全振りします(主人公は暴走しました?)
それから約半年間。俺はひたすらに考えを巡らせていた。
俺は神々の作ってくれた小さな無人の町で過ごしていた。誰もいないアパートに住み、日中は誰もいないカフェで学習した。ときおり神が顔を出してくれるので相談できる。
転生先の歴史書も取り寄せてもらって、様々なシミュレーションを行った。歴史書といってもその世界で生きていれば常識として知るようなレベルだったが、それでも十分役に立った。それに転生後にも必要な知識になるだろう。
転生先の世界はいわゆる剣と魔法の世界だった。文化水準は中世ヨーロッパを基準に魔法の効果によってスチームパンク的な底上げがあるような、いわゆるRPGなどによくある世界観だった。
魔法でいろいろな問題が解決する世界で、神々の協力が得られるならば多くの問題は解決しそうなものだが、問題になっているということは魔法に対する幻想が強すぎるのかも知れない。
彼を転生させる4柱の神々は、実は精霊に近い存在だった。だから4元素……地水火風……が想起されるような存在だったわけだ。彼らは自分たちのことを旧神と呼んでいた。
旧神というからには新しい神がいるのかという質問をしたが、回答は曖昧だった。どうも答えないというのでなく、適切に答えられないようだった。このあたりは神々にも何らかの制約があることを伺わせるものだった。
検討に検討を重ねた結果。
重要なことは転生先の世界では待ったなしの状態にあり、試行錯誤する余地があまりないのではないかと考えた。それであれば資源と時間を無駄にすれば、魔王の侵入を許してしまうことになるだろう。
一方で普通に考えれば魔王の手先との争いは避けられまい。お約束という奴だ。そもそもそれ以前に多様な人族との対立も予想される。なににしろ想定される敵対勢力には事欠かない。
それであれば強力な攻撃手段や鉄壁の防御手段が欲しくなるところだ。隕石を落とすような広域攻撃魔法があれば敵対勢力を一掃できるだろう。
そもそもバランスの問題であまりに強力なスキルは与えられないだろう。仮に与えられたとしてもそれで問題が解決するとは言えない。むしろそんな手段で相手を大量に殺してしまっても生き返ることはない。<死者復活>の魔法は存在しないことを確認済みだ。となれば間違って世界に有益な相手を殺すことは避けなければならないし、誰だってある面では有益である可能性は高い。
それに自分自身にも何かメリット、ボーナスがないとモチベーションが維持できそうにない。これまでの人生は真面目に生きてきたが、これといった趣味や遊びの経験があるわけでもなかった。どうせなら何かチャレンジしてみるべき……。
「我々を集めたということは結論が出たのかね?」
俺は旧神に集まってもらっていた。
いつまでも検討を続けてもしようがない。どこかで決断するしかないのだ。
「どうせ強力な魔法とか、頑丈な肉体による剣戟とかだろう」
火の旧神が少し馬鹿にしたようにいった。
「とはいえそれが妥当だろう。内容については精査が必要になるな。だがこれほどの検討時間が必要かね」
俺は首を振った。「そんなもので解決するなら楽で良いですね」
「なんだと?」火の旧神は怒りで僅かに顔を赤らめた。
「相手を殺すような手段ではあなた方に与えられた使命は果たせないと考えています」
「ほう。それでどうするね?」地の旧神がいう。
「確かに敵対者を打倒することは避けられないでしょう。
「それに魔王の影響を受けた配下もいるのでしょう? でも、それらも含めて転生先の世界なんですよ。死は簡単だが資源という視点で見ればその死は消失になる。殺すほど魔王が近づいてしまうのではありませんか?」
水の旧神が関心を向けた。「では殺さないと?」
「死を0にできる自信はありませんし、そこに力を注ぐわけにもいかないでしょう。それは合理的とは思えません。それでも最小化したい。そもそも世界を救おうっていうときに資源の無駄は避けないといけません」
「不殺ということね。道徳的ではあるけれど、そんな余裕があるかしら?」風の旧神も少しとがめるようにいう。
「これは道徳の話ではないですよ」
俺はきっぱりと否定した。
「これは資源問題です。
「死は不可逆で人的な資源を失うというだけです。地球では食料として牛は水や穀物を大量に消費するので豚のほうが優れている、豚よりも鶏肉が資源面では優れているという考え方があります。主に水や飼料の観点ですね。昆虫食こそが世界を救うなんていう議論もあるぐらいですよ。
「これに倣っていえば、人間は牛よりも多くの様々な資源を使っているんです。それを不用意に殺していては資源を失うこととなり、その結果は魔王を呼び寄せることになるはずだ」
「そなたと敵対しても?」
「むしろ敵対するからこそ、ですね。だから歌と演奏のスキルをください」
旧神は一様にぽかんとした。
「歌と演奏は人の心に訴えかける手段です。いや、実のところを言えばカラオケに行ったこともないですが、せっかくの第2の人生。せめて新しいことにも挑戦したいと思います。だから音楽のスキルで楽しみたいというのもあります。
「その歌と演奏スキルの効果に説得(洗○)をつけてほしいんです」
「説得はともかく洗○とは……」
「敵対者は最悪、洗○します。そうすれば資源は大きくは失われない」
「それはあまりに不道徳なのでは……」風の旧神の言葉を俺は遮った。
「殺すよりもですか?」
俺の端的な指摘に風の旧神は口を閉ざした。
「実際、俺もそれは価値観次第だと思います。これがことさら道徳的な手段だと主張するつもりもありません。むしろ死の方がましだという考えもあるでしょう」
俺はうなずいた。
「でも与えられた目標は高い。そこで敵に配慮するつもりはないんですよ。殺しても良いんです。むしろそう考えていたのでしょう? ですが、殺すのは資源面で良くない。目的達成を難しくしてしまう。だから説得したい。それが駄目なら洗○してでも敵対しないようにして資源として確保する。
「その意味では相手を打倒するという意味では魔法や剣と大差ありません。合理的な手段だというだけです。死んだらおしまいだ、と考えるならばむしろ道徳的とも言えるでしょう。ここで道徳面を主張するつもりはありませんけれども」
旧神はお互いに顔を見合わせた。
しばらく聞こえない議論があったようだ。
最後に地の旧神がいった。
「わかった。詳細はこの後で定義するとしてそのようなスキルを与えよう」
♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡
歌と演奏スキルは与えられましたが、説得・洗○効果は最初は使いこなせないので効果は限定的という設定で考えています。
さっそく♡をいただきました。ありがとうございます! 第1部を見直しながら第2部を書き進めています。
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