第17話 大雨とその後の災害発生(新曲が登場)

「いきなりこれかぁ」

 翌朝、サーカスの公演を予定していた一行は突然の大雨に出鼻をくじかれていた。

 公民館のような大ホールがあるわけもなく、こういった村での公演は当然、屋外で行うことになる。大雨の中では観客も集まらないし、芸の多くは成り立たない。もっと大がかりなサーカス団であれば巨大なテントを立てるところもあると言うが、団員が10名にも満たないこのサーカス団には縁のない話だった。

 経営面を一手に担う団長としては営業できないのは苦々しいところだった。

「こんなに降っていたら無理ですね」双子の姉のリーズが団長を宥めるように言う。

「長旅の良い休養になるわ」双子の妹のロールはまったく気をつかわない発言だ。

 それでもサーカスの準備などやることがないわけではない。

「私も出鼻?をくじかれてしまいました」

 徴税官ケーデンも帰京することができなかった。この大雨の中に移動するのはあまりにも危険だからだ。公共交通機関があるわけではない。あるとすれば商人の馬車に便乗するぐらいだ。だがそんなに頻繁にちょうど良く馬車があるわけでもないし、そもそもこれほどの大雨では馬車だって出さない。馬は貴重な財産だから、それを失うようなリスクをとる商人はいないのだ。

「これも天罰ですな」ケーデンは自嘲するように言った。

「天気はしようがないですよ」エイムは言った。「偶然です」


 サーカス団は時折、昼間の酒場でスペースを借りて芸を披露して宣伝活動を行った。

 双子の姉妹のトランポリン芸は可愛らしく、集まってきた村の子どもたちに大人気だった。

 ピエロのラザールは普段のサーカスではしないパントマイムを披露した。それはちょっと怖いのだが、それが子どもたちをきゃぁきゃぁ騒がせた。

 ルナと熊のアーブは男性陣の、二枚目のルイは女性陣の目を惹きつけた。

 エイムは音楽を奏でて長い雨の一日を慰めた。

「お兄ちゃんの楽器は何種類あるの?」

 どこからともなく楽器を取り出して、取り替えひっかえ演奏するエイムを見て、村の子どもたちは目を丸くした。

「それも手品?」

 エイムは微笑んだ。

「それはどうかな? ほら」

 そういって手にしていたギターを消してみせる。と、次の瞬間にはフルートを手にしていた。

「次は<森のドラゴン>を演奏するよ」


🎵

あるとき、ある国の、ある森の中。

坊やが、歩いて行くと、ドラゴンに、出会ってしまった!

うわぁ、ドラゴンだぁ 坊やは走った!


あるとき、ある国の、ある森の中。

坊やが、走ると、ドラゴンも走る! ドラゴンが走ると、坊やも走る!

ついには、崖に、ついてしまった!


あるとき、ある国の、ある森の中。

ドラゴンは、籠を手にしていた! 落とし物、届けたよ!

それは、坊やの大切な、お遣いの、パンが入った籠だった!


あるとき、ある国の、ある森の中。

ドラゴンさん、ありがとう、坊やは、御礼を言った!

大切な、パンを、ちゃんと持って帰れるよ!


あるとき、ある国の、ある森の中。

ドラゴンは、叫んだ、森は危ないぞ、モンスターは危険だぞ!

もう、こんなに森の奥へ、きてはいけないぞ!


あるとき、ある国の、ある森の中。

坊やは、帰った、籠を持って、帰った

何度も、何度も、振り返りながら!

🎵


 その誰もが簡単に歌える曲を子どもたちと何度も合唱した。


 それから大雨は二日間続いた。三日目にやっと雨は上がったその直後。

「たいへんだぁ!」

 大声を上げて村の大通りに若者が走り込んできた。

 あまりの大声に誰もが通りで飛び出した。

「地すべりだ! 伐採林の近くの家が何軒も飲み込まれた!」

 若者は道に倒れ込んだ。

「誰か、誰か、助けてくれ! 家族が! 家族がぁ!」

 それは大規模な斜面の地すべりだった。

 村の基幹産業である木材を近年、大量に切り出してすぐ近くで製材する工場を建てていた。伐採や工場で働くことで暮らし向きが良くなって、その周辺に新たに家を建てて住む者が少なくなかったのだ。その家々が地すべりに飲み込まれていた。

 村人たちは総出で救出に当たった。

 だが土砂の量は多く、また雨でぐんと重くなっていた。更に伐採された木やそのくずが膨大な量流れ込んでいた。

「おい! 英雄さんよ! なんとかしてくれよ!」

 村人たちの一部はある若者に食ってかかっていた。

 後になって聞けば、それはグレイソンという名前のこの村出身の若者で、この村の英雄と言われていた人物だった。このグレイソンと村長が手を組んで、この木材輸出事業を拡大したのだ。

 グレイソンには英雄と言われるだけの魔法的な力もあって、特に初期の木々の伐採が事業として成り立つようになったのはその力故だった。

 だがグレイソンは惨状を目にして呆然と立ち尽くすばかりだった。

「こんなはずが……」

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