第19話 林業の拡大は?

「これはひどいものだな」

 団長とエイムはサーカスで慰安する対象がどれほどの打撃を受けたのかを知っておくべきだろうと言うことで地すべりのあった現場へ来ていた。演し物が何かよくない刺激となってもいけないし、相手のことを知ることも大切だというのが団長の考えだった。

「どこにでも起こる事故だとも言えるが……。林業を急速に発展させたために人家が集まりすぎていたようだ」

 団長はいたましいといった表情をしていた。

 転生者であるエイムは地球では日本に住んでいた。住んでいた場所自体は地方都市だったが当然ネットやテレビを通じて様々な災害情報に触れてきた。そういった視点で見れば、木々を完全に伐採して山肌が無残に晒されている、そのすぐ麓に住居を構えるなど、あまりにも無謀に思える。木々の存在こそが地面を強固にしていたのだ。

 だがこの世界・この時代にはそういった知識も足りないのだろう。あまりにも典型的な環境破壊といえる。

「林業は中断ですね?」

 エイムが言うと団長は首を振った。「おそらくはそうはならんだろう」

「これほどの被害を出して?」エイムは信じられないといった表情をした。

「これほどの被害を出したからこそ、だな」

 団長は腕組みしていった。

「被害は既に出てしまったんだ。その損失を取り戻すにはもはや前へ進むしかない。もっと利益を出して、その利益で被害者を救済する。それ以外では村の財政は破綻するだろう。それでは死者が報われない、簡単に言えばそういう話だな」

「とても危険ですよ」

「麓からは家を離すだろう。もちろん時間が経てばまたもっと近くへとなるかもしれん。それで十分かもしれんしな」

 エイムはうなった。

 彼の前世での知識からすれば、この村で行われている林業はいわば「未来の前借り」だ。「次世代へのつけ回し」だ。真の発展ではない。

 こんな風に急激に開発を進めると、地盤が緩んでしまい、地滑りが起こるのも当然だった。今後も開発を続けるならば、再び大きな災害となるリスクはとても高い。

 それにもう一つ。仮に二度と災害が起こらなくても、この林業はさほど長持ちしない。

 ここでの林業は基本的にひたすら既存の樹木を伐採している一方だ。植樹なんてしていないし、植樹で追いつくような伐採ペースでもない。

 だがそういった近代的な視点のない、ましてや教養なんて言葉すら知らないような貧しい村の人々には森は大きく、際限ないように見えるのだろう。それに今の暮らしが精一杯なのだ。先のことを考えるだけの余力もない。

 そこに今回の災害だ。

 いささか視点はずれているが開発を無条件に歓迎していた村人は二分された。

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