第20話 学校を作りたい!?
災害の結果で二分され、日に日に対立を深めていく村人たちの様子を見て、(必ずしも優秀な学生でもなくうろ覚えのところも多いが)近代的な視点のあるエイムは心を痛めていた。
団長をはじめ他のサーカス団員も悲しみはしても、それ以上ではなかった。というのも薄情だからではない。この時代、こんなことは決して珍しいことではないのだ。むしろ村が滅んでいない現状は幸運とさえ見えることすらあるかも知れない。それぐらい、この時代・この世界はまだ人間の生活は厳しいのだ。
そんなある日、エイムは団長に申し出た。
「なんだって?」
サーカスの準備をしていた団長はその手を止めた。
「もう一度言ってもらえるか?」
「この村に学校を作ると良いと思うんだ。いや、作らないといけない」
団長は目を丸くした。
「なんでそうなる? いや、俺たちがただの通りすがりのサーカス団だというのはおいておくとしてもだが」
「森はね、あの調子で開発をしてはいけないんですよ。でももう止めることもできないんでしょう?」
団長はうなずいた。「それは無理だな。禁断の果実を食べてしまったんだ。今さらそれを我慢しろって言うのはなかなかできることじゃない」
「だったら」
エイムは語気を強めた。
「良い開発の仕方を考えなくちゃいけない。そうでしょう?」
「安全な、ということだな?」
「そう。でもそれには最低限の学がないと」
団長は腕を組んだ。「計算と言葉、論理か」
エイムは逆に驚いた。その様子を見て団長はにやりとして見せた。
「都会では必ずしも希有なことじゃないぞ? だがそれを知っていると思わなかったという顔だな。俺からすればむしろそれを知っていた、そのお前の来歴も気になるところだが、それはあとにしようじゃないか。
「都市部、それの上流階級のこどもたちは学校でそういったことを学んでいる。お前の言っているのもそれと同じようなことだろう?」
「おそらく」エイムはうなずいた。「俺はその学校を知らないからはっきりとしたことは言えないけど」
「そこで基礎を学んでから、それぞれの道に歩むのだ。例えば商人なら商会や商人ギルドで働きながらとかな。貴族なら領地経営の手伝いだな。いずれの道へ進むにしても最低限の計算力などは必要だからな。むしろそれが貴族や大商人の立場を守る大きな力の礎になっているといえる」
「騎士は?」
エイムはふと気になって言ってみた。サーカス団員の誰も団長の過去については知らないのだ。ただ普段の様子から上流階級の出身であろうとは推測していた。
「騎士の子どもは騎士団の見習い……。まぁいい」
団長は口を滑らせたという苦い表情をして見せた。
「これでお相子としようじゃないか。しかし学校を作ると言っても、俺たちはずっとここにいるわけには行かないんだぞ」
「そこは考えてあります。学校はこの村にいる人だけでやらないとね」
「教えられるだけの人材はいないぞ?」
「教育は方法ですよ。しかも範囲は基礎だけなんだ。素地のある人にたたき込むのとマニュアル化で解決できますよ」
音楽家になった転生者~カラオケ経験もないのに転生ボーナスを音楽スキルに全振り。相手を説得して世界を救うことにしました~ ホークピーク @NA_NA_NA
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