第12話 町が取り戻しつつある日常(とエイムの悩み)
騒動がおさまり、町は日常を取り戻しつつあった。
そうはいっても渦中の工場のオーナーだった大商人が移転が決まった直後に死亡したとあって、なかなか落ち着かなかったのも事実だ。
サーカスは騒動の当日以外は毎日公演を続けていた。
「今日も満員ね」
ルナが満足そうに会場を見て言う。
それを隣で聞いていたエイムはうなずいた。
「そうだね。たぶん騒動を忘れたいからサーカスを見に来る人たちも多いんじゃないかな」
「そうだとしたら残念ね。もっと楽しんでもらいたいわ」
「そうでもないんじゃないか? 楽しめるから騒動を忘れられるのだから。それだけサーカスが楽しいってことで」
エイムの言葉に猛獣使いであるルナが従えている熊のアーブが同意するように頭を上下させる。
それをみてルナは不満げな表情を浮かべた。「だからなんであなたたちはわかりあっているのよ? アーブは私の熊なのに」
「そうはいってもね」
エイムとアーブは顔を見合わせた。
「なんとなく?」
「そういうところよ!」ルナはしようがないな、という苦笑いを浮かべた。
実際、猛獣使いが使役する獣は猛獣使いの命令に従うので、仲間の人間に害を加えることはない。だが猛獣使いと獣はその魔法的な力でコミュニケーションがとれるのであって、言葉やそれ以外の身振りなどの動作言語で対話しているのではない。だから使役している猛獣使い以外にはほとんどコミュニケーションはとれないのだ。
それなのにエイムはアーブとルナと同程度にコミュニケーションがとれているようなときがあった。
自分の使役する熊がとられるような、エイムがそれだけのことができて誇らしいような、ルナは複雑で自分でもよくわからない感情を持っていた。
公演が始まり、大勢の観客がサーカスに歓声を上げる中、楽しみつつもなにか悲しげな客が一人いた。
それは10歳ぐらいの女の子で、両親か親戚と思われる大人に連れられてきていた。なにか悲しいことがあって、それを紛らわせてやろうという大人の配慮があるように見られた。
「この間の騒動でなにかあったのかな」
エイムはその子を見て悲しみを感じた。
騒動の原因はエイムではないが、エイムが事態を解決しようとしなければ騒動が起こらなかったことは明らかだった。もちろん放置していればずっと酷いことが町を襲っていただろうが、個々の被害はまた別の問題だろう。
もし騒動で被害を受けていたら、それはエイムの責任とみることもできた。
エイムが落ち込むのにはもう一つ理由があった。
今回エイムは音楽スキルを説得や洗○には使っていないが、衆目を集めるためには活用していた。いわば扇動するための道具として音楽を使っていた。それは当然だ。そういった目的で利用するためにエイムは音楽スキルを転生ボーナスとして選んだのだ。
それまでその目的に迷いはなかった。
だがあのとき、ピエロのラザールは純粋に音楽を楽しんでいた。エイムが音楽スキルで送出したドラム、この世界で初めてのドラムをそれはもう楽しんでいた。もちろん衆目を集めるという目的はラザールも同一にしていたが、それは結果であって演奏そのものとは別だった。
だがエイムは道具として扱っていた。
そのことが彼の心に引っかかり続けていたのだ。時折それを思い出してはモヤモヤとした複雑な感情がエイムを揺さぶるのだった。
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エイムの悩みが少し明らかになりました。
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