第17話 流れる血筋程、抗い難いものは無い。
帰路へ着く最中、ふと考えたくも無かった現実が脳をよぎる。
「あぁ、まっすぐ帰ったらあの爺さんがいるのか......」
私はギルド等がある西部の冒険者区画から離れ、夕暮れ時の空を背に東部の住宅街へと、
嫌だなぁ、どうしよう。今から帰ったらあの爺さんと二人で晩御飯でしょ。気まづすぎるなぁ。
コテンパンに負けた挙句、ルール勝ちしたとは言え彼の配慮で勝利という形を渡された私は確実に剣士として耐え難い程の屈辱を味わらされたと言っても過言じゃ無いだろう。
そんな状態で彼の家へと帰るのは気まづいを通り越して、目も向けられないほどだ。
フラフラと頭を抱えながら帰路へ着くか広場で彷徨っていると一軒の酒場が私の目に入る。
「居酒屋かぁ..........はッ!」
店が目に入った瞬間、腰に身につけている魔導袋から財布を取り出し、現在持っている軍資金がいくらあるのか確認する。
「ひーふーみーと。うん、軍資金の貯蔵は十分にあるわね。よし、今日は飲むわ!」
その看板には白うさぎを彷彿とさせる酒場とは思えないオシャレな意匠が施され、敷居が高そうに見えるが町民らしき人物や冒険者の姿も見かけるので、随分と街の人々から愛されているらしい。
暖簾を潜り、居酒屋へ入店すると快活の良い陽気な笑い声と酒気が漂うこれぞ酒場!という様な賑わいが店を包み込んでおり、不思議と気分も高揚してくる。
店内を見てみたが、書き入れ時の店内は、なかなかの盛況具合が伺える。テーブル席に座るのもいいが、日が暮れるこの時間帯に一人でテーブルを占領するのも無粋だろう。
私はこの店の店主らしき人物が目の前で調理するカウンター席へと腰をおろした。
「おう嬢ちゃん、注文はなんにする?」
壁にかけ立てられた木札のメニューを眺めながら、豊富なメニューに頭を悩ませるがコレ!と言った食べたい物が決められない。
なのでここはハズレの無い無難な注文を店主に告げる。
「そうね.....エールと腸詰めを適当に見繕ってちょうだい」
「あいよ、ちょいと待ちな」
注文を受けた店主は鎖の如く連なった腸詰めを一人前分ちぎり取り、熱々のフライパンへと香辛料と共に一気に焼き上げる!
ジュ、ジュ、ジュワァと心地の良い脂身が弾ける音を掻き立て、焼き上がる腸詰めからは食欲をそそる肉々しい香りと、食欲を湧き上がらせるスパイシーな香りが私の元へと流れてくる。
匂いの影響もあってか、疲労した肉体から今すぐにでも食したいと言わんばかりに口内にヨダレが溢れ出てくる。
焼き上がった腸詰めを盛り付けた店主は、最後に魔導冷蔵庫から冷えた木製のジョッキを取り出し、トクトクっとエールが注ぎ込まれ盛り付けられた腸詰めと一緒に冷えに冷えたエールが私の前へと持ち込まれる。
「はい、お待ちどうさん!帝国産のエールとオークの腸詰めセットだ。」
「ッゴクリ.....いただきます。」
今すぐにでも腸詰めにかぶりつきたいが、何はともあれ、まずはエールで喉を潤すのが先決だ。
ゴク、ゴク、ゴクッ.....と一気に喉の奥底へと流し込む。
あぁ、これよ!この一気に喉奥へと運び込める喉越しの良さ、そして疲弊しきった肉体に染み渡る冷たさ、これぞエールって感じ。
「ッンゴクゴク.....っぷはぁ、うーん!さすが酒都と呼ばれる都市の酒場のエールだわ。他の街じゃ味わえないホップの効いた苦味と、そしてこの腸詰めのスパイシーな匂いにも負けない香り!」
エールで喉を潤した次に熱々の腸詰めにかぶりつく!パリッと心地よい音を立て、そこからは溢れ出るのは、舌をとろけさせんと言わんばかりの旨みが凝縮された肉汁。
「美味い!美味過ぎるのだわ!やはり疲れきった身体には美味しい物とお酒は格別ね。」
それからもお酒のお代わりを頼んだり、一通り食を堪能し、腹を満たした私は今日の出来事を振り返る。
今日、私はあの大英雄に挑んで惨敗した。
それどころか、私の鍛え上げてきた剣の道は叔母の治療薬を求める旅には一切役に立たないとさえ言われた。
はぁ、私も自分の実力のことはわかっている。あの老人が言うように私は実際に今、実力の伸び具合いに頭を抱えている。
剣の鍛錬を行えば確かに成長する。しかし、それは微々たる差でしかなく、成長と呼ぶにはあまりにも伸び幅が狭い。
いくら剣を打ち込んでも、なにかが足りない。そうあと一押し、なにかが足りないのだ。
それは技術面なのか、はたまた才能なのか.....。
多分おそらくは、後者なのであろう。
私の身に流れるこの血筋は、代々魔術師として大成してきたエルフ族の賢者としての血が流れている。
叔母のカルディナ・ハープティ然り、私を産んだ母さんも血縁者のみんなも。
そう、私の体は抗い難い程に魔術という鎖にがんじがらめに封じられている。
今以上の実力の高みへと目指し、長いこと研鑽を積んでいるのにも関わらず、私の剣の実力は一向に今の
それは成長の打ち止め、言わば成長限界に達していることは薄々感じてはいたわ。
だけど、だけども今更十数年と握ってきた剣を捨てる?ハッそんなの馬鹿げている、馬鹿げているはずなのに.....心の内では彼の言うことが正しいと肯定していることに気づき、自分に嫌気がさしてくる。
「はぁ.....わかってるわよ。所詮、私程度の実力と才能じゃ、上位種と呼ばれる魔物達に勝てないことぐらい.....」
考えれば考える程、嫌になるほどに現実を理解してしまう。
ルミナリアの剣士としての実力を武術を嗜む者達が、よく用いる冒険者のランクで当てはめるならば《式風流剣術》を収めている彼女の場合、一般騎士を圧倒するBランク冒険者の実力は確かにあるだろう。
しかし、それはあくまでも対人能力に限った話である。相対する存在が魔物や異形の類いになれば話が変わってくるだろう。
冒険者組合の指標として魔物の等級分類は、指定された同ランク冒険者数人から十数人で討伐できる範囲で制定されている。
例えをあげるならば、一般冒険者の最高位に位置するBランクの冒険者に対して同ランクのBランク魔物とは、同ランク冒険者数人から十数人で討伐可能と示唆されている。
彼女がいくら対人戦闘の実力があるだろうと、それはこの世界全体で見た時に人族の中では多少強いだけであり、人の生活を脅かす魔物と戦う本職の冒険者達に比べた場合、同等の力があるか問われたら、お世辞にも同じとは言い難いだろう。
それ程までに冒険者とは強大な力を持つ存在との戦いのスペシャリストなのである。
私はジョッキが空になれば、その浮ついた心を埋める様に新たなお酒へと注文の声を上げて、様々なお酒へと手を伸ばして行った。
結果、過度なアルコール分の摂取の影響で意識は朧気になり、酔いの深みへとどっぷりと浸かってゆく。
「わたしは一体全体どうすればいいのよぉ」
そんな彼女を見かねてか、店の店主が心配の声を発っした。
「おいおい、嬢ちゃん飲み過ぎだぜ?女の子が一人でヤケ酒とは良くないぞ」
「関係無いわよ〜まだまだ飲むんだからおかわりちょうだい!」
「まぁアンタがいいって言うなら酒は出すが、程々にしとけよ?」
「わかってる、わかってる!ほぉらマスターおかわり!」
「はいよ、エールいっちょう」
店主から差し出されたキンキンに冷えたエールをぐびぐびと喉の奥へと流し込む時だけは、全てのしがらみから解き放たれた気持ちになれるのだった。
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