第20話 【大賢者】の思惑とそれを欺きたい道化

ハイ、なんか先週予約投稿ミスしてたみたいです。本気マジですみませんでしたm(_ _)m


――――――――――――――――――――――


「ほら、貴方の言うように登録して来たけど?」


ルミナリアが掲げるのは、彼女の名前と冒険者等級"Eランク"と刻印された銅のプレート

――いわゆる冒険者カードと言うやつだ。


彼女が冒険者登録をする羽目になった原因は家を出る前の出来事である。

それは丁度彼が、彼女を二日酔いの件で馬鹿にしていた頃だった。



「はてさて、お前さんをからかうのは良しとして、何かカティから伝言を聴いてたりしてないか?」


「伝言.....うーん、あっ!そう言えば、叔母様から『彼が懐いたら渡すように』って手紙を預かってたのだわ。ちょっと部屋に取りに行ってくるわ」


そう言うや否や、彼女はサッと部屋を飛び出して行った。


「オイちょっ――ったく、伝言つってももう少し言い方があるだろ。カティのやつ俺が狂犬かなんかだとおもってるのか?」


しばらくして彼女は"大きな大樹に杖が二本交差した"ハープティの家紋が施されている赤い封蝋が押された手紙を持ってきた。


「はぁ、預かり物ねぇ。果てさて鬼が出るか蛇が出るか、嫌な予感しかしねぇなぁ」



俺は彼女が持ってきた割と厚みのある便箋をしっかりと閉ざされた封蝋部分にペーパーナイフで切り込みを入れ、渡された便箋の中を開く。

便箋の中を覗くと二通の手紙が入っており、その内の一つである手前の紙を取り出し、その中身を開いた。

題名は【治療薬素材一覧】と称されており、その下には彼女が求める素材の名が記されていた。


・竜水晶


・キュプノスの瞳


・不滅花草


彗星結晶スターダストライト


・深淵冥府の霊水


・ヒュドラの濃血


・アルラウネの白根


・ケルベロスの剛爪


・麒麟の角片


一番上からその最後尾まで隅々見渡し、何度も何度も書かれた素材の名称を見返すと、それが自身の見間違いではないことを事実の様だ。

エルは気持ちを整理すべく一度開けた手紙を閉じることにした、彼がこの一覧を見て出た感想は―――。



は?




この一言である。


いやいや待て待て自分、ほんとにこれだとしてもそこまで彼女が馬鹿げている訳が無い。

【ケルベロスの剛爪】【アルラウネの白根】そしてまぁ百歩譲って【彗星結晶スターダストライト】も納得しよう、いやこんなの納得しようが無いが、無理にでも納得するとしよう。


この三つはいいとして、他の五つが問題だ。お前正気か?ふざけてんのか?それとも人を何でも可能にする"神"とでもおもってるのか?っと聞きたくなる程、無理難題に近い素材ばかりなのだ。


【竜水晶】はその名の通り、成熟した成体オールドタイプ以上のドラゴンから稀に体内で生成されると言われる胆石の事だ。

ぶっちゃけコレの入手は無理に近いとエルは考えている。

そもそも元来、竜を狩るのは国家事業あるいは、名だたる武勇を持つ上位冒険者ハイ・ランカーのその中でも上位に位置する奴らが複数人から十数人で討伐するレベルの危険生物であり、それが元とは言え、大英雄と呼ばれた彼であっても今はただのだ。

単騎で竜狩りドラゴンハントなど真っ当な神経をしていれば戦うことなどしない。


【不滅花草】一年中絶え間なく降り注ぐ太陽光と"霊脈"による豊富な魔力により、白く燃え盛る様な燐光を放ち続ける"死せる者すら救済する"と言う逸話が存在する青白い花の名称である。


コレの採取自体は差ほど難しくない、せいぜい特殊な瓶で保存せねば数日で枯れやすい程度だが、コレが自生している場所が問題である。


獣王国から龍王国に架けて北方大地に悠々とその身を降ろす【マーシュ霊峰】の山脈を乗り越へて、頂上のカルデラに向かわねばならないのに加え、マーシュ霊峰に隣接する龍王国並びに獣王国からは神聖視され、固く入山を閉ざされているのもそうなのだが、ここ【マーシュ霊峰】は"人類生存圏"と恐ろしき悪魔達が跋扈する魔神公国を隔てる天然の防壁である為、宗教上以前に国家防衛上に置いても公国側を刺激しかねないのでこれも不可能だ。



とまぁ他にも名だたる希少素材の名が連なっているがコレを俺一人で集めて来いと、あの若作りババアは本気で言ってるのか?

正直、こんなの普通に考えて何かの罠の類いか、ガチでイカれてる二パターンしか無い。大賢者とも称される彼女が馬鹿げた夢物語みたいな、限りなく不可能に近い頼みを言うのか?――いや待て、便箋にはもう一つ手紙が書いてあった筈だ。もしかすれば希少素材をどこかの組織が持っており、それを仲違いしたとは言え、一応そこらの一般連中より信頼出来る俺に回収を頼みたいのかも知れない。

便箋に残っていたもう一つの手紙を開くと皮肉っ垂れた挨拶文から手紙は始まった。



憎々しも我らが愛しき、大英雄様へ。


『拝啓、我らが愛しき大英雄様こと【幻狼の翁】エルトリア様はお元気にされておりますか?

私は魔術を探求する者として日々粉骨砕身、研究に明け暮れております。』


始まりの挨拶から数行空き、そこからまた言葉が綴られている。


『此度は――はぁ、君にこんな堅苦しい挨拶は私の性にあわない。君もそうだろう?早速、本題に入ろう。

単刀直入に言う、私は"木樹病"に罹患した。それも初期症状が現れたのは、三十年前の事だ。

生憎と私の優れた魔力回路とエルフとしての高い生命力が病状を遅らせていたおかげで、十年前までは二足歩行出来るほどに健康体そのものだったのだが、ここ八年ぐらいで急激に病状が悪化してね。


今は膝まで完全樹木化してしまったんだよ、これがまた不便で仕方がない。私は今車椅子生活を余儀なくされているのだよ。

ま、さすがに引きこもり老人とは違って今も元気ピンピンなのは確かだが、如何せん私とて木のオブジェクトになるつもりはサラサラ無いのでね。


そのため治療薬の素材集め兼私の超絶可愛い姪っ子を託すことにするよ、その可愛らしくも現実を知らない夢見がちなバカっ子に常識と現実を叩き込んでくれたまえ、まぁ一種の社会勉強って訳だ。 もちろん、それなりの礼はするつもりだ。期待しといてくれ。


それともし、私の姪っ子に何かあった場合、ことを肝に銘じておいてくれ。

衰え"契約"を失った今の君が《獅子王》と《冥王》無しに【霹靂の魔女】に抗えるかな?

ま、せいぜいそうならない為に奮闘したまえよ』


君とは相容れぬ旧友、カルディナ・ハープティより。



あ、普通に頭のネジが吹っ飛んでる方だったわ。

それにわざわざ世間一般的に呼ばれる敬称では無く、戦争初期の頃から人魔共々から恐れられた彼女のもう一つの異名で脅すとはねぇ。


それにしても俺が秘境や人外魔境と言われる場所まで向かって素材を集めつつ、このガキに社会勉強という名の"お守り"しろだって?はぁ?いやいや、何言ってるんだこのババア、はっきり言って無理。


だが、一度手を差し伸べて置きながら今更断るなんざ、俺の流儀に反する。

どうにかあのババアに意趣返し出来ねぇかなぁ。

せめて直接じゃないにしろ間接的な嫌がらせ、うーん.....。


辺りを見渡し、ウンウン頭を捻っているとふと、目の前の少女が目に映る。


アイツはなぜ、自分の姪っ子に魔術を教えなかった?アイツが姪っ子贔屓抜きに見ても、その一族の名に恥じない才能を秘めているのは確かだ。

俺が言うのも何だが、コレでも数々の戦場を渡り歩いて才能ないしは、実力の有無をある程度見抜く自身はある。


ならば、カティが彼女に魔術を教えないのには理由があるはずだ。

少し古くはなるがハープティの一族に関わる情報を過去の記憶の中から引き出し、精査する。


魔術に優れたエルフの中でも『魔術の大家』と呼ばれ、先の戦争の英雄が一人『大賢者の姪っ子』である。それに加え、ルミナリアはカティのことを叔母と言うならば、彼女の妹の娘である可能性が高い。

確かカティの妹"サザンカ"は【魔術都市グリモア】で教鞭を取っており"魔術協会"に置いて最高峰の地位を持つ【七つ星】の一席に連なっているとなると『魔術協会有力者の娘』となる訳だ。



ふーん、なるほどねぇ。嫌な程に地位と利権の糸にがんじがらめにされてちゃ、無理ないわなぁ。


ま、俺に無理難題吹っ掛けて来るんだ。それ相応のリスクは取って貰うぜ、ババア。

それにこいつに"社会勉強をさせろ"ってんなら問題は無いよなァ?


過去の記憶から引き出した結論を元に彼女ことルミナリア・ハープティを巻き込むことを決意する。


「お前さん、冒険者登録をしろ。そんで俺の旅を手伝え」


「いやそう言われても、私は貴方に依頼して取って来てもらうつもりだったのだけど.....。だってほら貴方、伝説の英雄様でしょ?秘境や魔境なんて旅慣れてそうだから治療薬の素材集めなんてちゃちゃと終わらせれるでしょ?」


「はぁ、年寄りをこき使うとはたまげた心意気じゃねぇか。決闘に負け、お前さんに『力を貸せ』と言われたから、俺はあくまでも力を貸してやるとは言った。だがお前さんから依頼を受けて、治療薬の収集に出向けなんぞ一言も聞いてないぞ?」


「はぁ!?それは要相談でしょ!?別に私は貴方に対価を支払う予定なのだから、私が居なくとも関係ないと思うのだけど?」


「あーあ、叔母様の為と言いながら自分は出向かず、仲違いした叔母様の"元戦友"に泣き付きに言って自分はお家に帰りますだって?はぁカティが聞いたらどんな反応するだろうなァ?」


「ばっ!?それを言うのは反則でしょ!貴方大人でしょ?何若者相手にムキになってるのかしら!」


会話の端々で感じていた彼女の高そうなプライド部分をちょちょいとつ突いてやると、いとも容易く慌て出した様子を見てエルは心の内でこう思う「あぁコイツ釣れたな」と。


「ハッハッそうは言うが、お前さんさっきと打って変わって飛んだ焦り具合だが大丈夫か?」


「あ――もう!わかったわよ!貴方に着いて行けばいいのでしょう!?ええいいわよ、冒険者登録だってしてあげるのだわ」


「それならば結構、着いて行くつもりになったのなら、俺が提示した条件を受け入れるってことで良いか?」


「わかっているのだわ、魔術を学び剣の道を諦めろってことでしょ?だけど、私は魔術は学んでも、剣の道は諦めるつもりないのだから!」


と、こういう一連の流れがあり、彼女が冒険者登録するに至ったのである。


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