第21話 六大英雄と魔術起源
「冒険者登録は済ましたけど、これからどうするのかしら?」
「ま、とりあえずは修練所行って"魔術基礎"の実践勉強だな。ほらローブとこれ付けとけ。ある程度の怪我からは守ってくれる」
ローブと肘と膝を守る革製のプロテクターを受け取った彼女はサッと身に付ける。
「それで『空想を現実に落とし込む力』――魔術を教えてやる!なんて言ってたけど本当に貴方が魔術を教えるの?」
この娘っ子は今更何を言っているのか?少々呆れてしまう。
「お前さんな、俺を誰だか分かって訪ねて来たんじゃなかったのか?」
「わっ分かっているのだわ!この世界屈指の【幻影魔術】の使い手であり、先の大戦で勝利を導いた大英雄様なんでしょ?ただ、貴方の逸話は剣士としてのモノが多いから不思議に思ったのよ」
そう、彼女の言うように彼は数いる人族の中から選び抜かれた英雄、その中でも魔王討伐を目的とした精鋭パーティー【六大英雄】と呼ばれた者だ。
【六大英雄】彼らがなぜそう呼ばれるのか、それには彼らが持つ特別な契約が関係している。
彼らが契約者とは、自然の申し子【精霊】だ。
精霊とはこの世界の基本となる六つの元素を司りし【自然概念霊体】通称、精霊と呼ばれるこの世界に古くから存在している者達である。
彼ら"精霊"は前述した通り六つの元素を司っている。
炎と燃焼を司る火の精霊
水と循環を司る水の精霊
風と空間を司る風の精霊
創造と力場を司る土の精霊
浄化と飽和を司る光の精霊
暗闇と吸収を司る闇の精霊
そして彼らが精霊と契約しているから特別な存在として《六大英雄》などと言われているのでは決して無い。
ならば何故、彼らを名だたる英雄達を差し置いて特別な呼称で呼ぶのか?
彼らを《六大英雄》たらしめるのは、格元素を司る精霊の頂点にして自然の王。
――それ即ち【精霊王】との契約である。
格元素の長達は遥か遠き時代、この世界誕生の時代から世界を見守り続けて来たとされており、そんな彼らを敬意を称して、人々は各長達を特別な名で呼称する。
獣人族を率いる獅子族の長にして、己の武器を拳ひとつに定め、"獣拳"と炎を巧みに扱う様から【太陽の獅子】あるいは【獅子王】と称される獣人の娘、ガーベラ・レオ・ビーストキングと契約した炎の長【灼熱の精霊】スルト。
偉大なる英雄の後継者であり幻影魔術と巧みな剣術を扱う流浪の剣士"エルトリア"と契約した水の長【海の精霊】マナナン。
魔術の世界を数百年進めたとされる魔導の開拓者であり、エルフ族の大賢者にして魔の探求者"カルディナ・ハープティ"と契約した風の長【空の精霊】シルフィーネ。
世界最高の武具職人として名を轟かせ、一夜で城を構築する創造神の異名を持つドーワフの職人、巌窟王"スラヴァ・
【龍神教会】総本山でもある竜の王国が認めた光の巫女であり、あらゆる病と傷を癒す【竜人族の聖女】マリア・
諜報と隠密に長けており、裏から五人を支えた人族の王にして"天をも射抜く"と異名を持つ【冥王】と称された男、スティーブン・ルナ・インフェリアと契約した【月の精霊】ペルセポネ。
以上これら六柱の精霊王達との契約が彼らを特別たらしめるのだ。
「ま、とりあえず修練所向かうぞ」
「えぇ、分かったわ」
それから修練所へ向かう最中、ルミィはふと疑問に思うことを口にした。
「ねぇ素朴な疑問なのだけど魔術っていつからある技術なのかしら?」
「初っ端から根源的課題を吹っ掛けてられてもねぇ。そうだなぁこういうのは、それこそお前さんの叔母の専門分野なんだが、まぁいい俺の覚えている限りで説明してやるよ」
【魔術】その起源は、気が遠くなるほど遥か遠い過去、神話の時代とも呼ばれた創成期まで遡る事だろう。
【魔術】の概念の根幹となったものが誕生したのは古き神々が存在した時代。
現存する碑石などの調査によれば元は自然と共に生き、人々が誕生するより遥か前から存在する『自然概念霊体』即ち【精霊】と呼ばれる存在達が世界に飽和する"魔力"を用いて、人並みならぬ奇跡とも言える力を行使していたと文献が残されており、過去の人々は総じてこの奇跡を【魔法】と呼んでいた。
創成期末期頃、この時から飛躍的に"魔力"に関しての理解及びに技術転用への著しい発展があったとされているのだが、今現在普遍的に扱われている【魔力型領域干渉術式】通称"魔術"の起源は判明しておらず、空想の産物であった【魔法】が忽然と"魔術"と称される様になったらしい。
今尚、魔術学会及びに考古学の世界では、突如として"精霊"が扱う奇跡と称されてきた【魔法】が【魔術】として簡略化され、人類が行使するようになったことは未解明である。
技術の発展あるいは変化に伴い、そうした文献はあまり残らなかったのか、はたまた何か大きな事情があったのか.....それは判然としないが、それにしてもこの時代に関する魔術的文献及び歴史的文献は著しく少なく、学者達は口を揃えて創成中期から創成後期のことを【喪失ノ時代】と呼んだ。
以上が現在判明している魔術の起源とされており、魔術師とは、簡略化される前の本来の力.....即ち始まりの奇跡でもある【魔法】に到達すべく日々研鑽しているのである。
「と、言うのが魔術における起源であり、一般的に魔術師達が目指しているのが"魔法"という訳だ。
ま、魔術師と言っても魔術の根源たる【魔法】の完成を目指すのは殆どが、上級魔術を行使可能な一部の上位術師だけで実際そこまで考えてる魔術師はそう居ないさ。
それに長い魔術の歴史に置いて"魔法"へと至ったのは一部の例を除いて限りなく"ゼロ"だ。下手に夢見るだけ苦しいだけさ」
魔術の歴史について聞いたのはいいが、逆にエルから質問が帰ってくる。
「お前さんの中での知識でいい、魔術とはどういうものか説明できるか?」
「生物や自然、大気など森羅万象に宿るとされている魔力を操作して魔術と言う現象を発現させるものでしょ?」
「間違っちゃいねぇが正解とも言い難い、まぁ六十点って所だ」
「じゃあ正解はなんと言うのかしら?」
「答えは、魔力によって《三界》に干渉し、【状態変化】【物質生成】【領域干渉】の主な三つの力を使うことを"魔術"とされている。」
エルの話に補足を現在、【魔術協会】が制定している定義によれば、《魔術》とは【三界領域】通称"三界"と呼ばれる世界を構築する領域に魔力を持って干渉し、この世に変化をもたらす技術とされている。
「大前提として魔術とは《三界》と呼ばれる領域に魔力を持って干渉し、空想を現実に落とし込む技術だ」
「三界.....?どういうものなのかしら?」
「魔術の根幹に関わることだ、耳の穴かっぽじってよォく聞いとけよ」
【三界定義】とは、この世界の在り方を大まかに三つの領域として分けたことを指す。
【第一領域】とは主に肉体の内側に存在する魂や精神が宿る場所、俗に言うアストラル世界と呼ばれる領域であり、この領域に干渉する魔術を【精神魔術】または【幻影魔術】とされている。
【第二領域】
第二領域とは、物質としてこの世界に位置するあらゆる物体は全て《第二領域》とされており、現在この世界で魔術の大半がこの第二領域干渉を主軸とした魔術なのである。
【第三領域】この世界に存在する【概念】や【事象】あるいは【運命】や【時間】といった人の力では干渉することが出来ない無限の可能性を秘めた超常の領域をまとめて、
そしてこの領域に干渉する魔術.....いや、超常の世界に位置するこの領域に干渉するとなれば魔術なぞ人が容易に触れれる陳腐な名称には相応しくないだろう。
天候すら書き換え、戻らぬ時の針を巻き戻し、来たるべき運命すらも捻じ曲げる究極技法。
人、それを《魔力型限定法則構築術式》通称―――【魔法】と呼ぶ。
「と、このように魔術とは"三界"と言う領域に干渉することによって空想を現実に落とし込む技法ということだ。ま、俺がみっちり魔術の基礎を叩き込んでやるから覚悟しときな」
老竜は幻に揺蕩う 瀧澤流泉 @takizawaryuusen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。老竜は幻に揺蕩うの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます