第19話 懺悔と覚悟は勢いで
底なし沼に浸かる様な深い眠りから目が覚めると、見慣れた天井が私の視界を覆い尽くした。
見慣れたと言ってもココ最近の話なのだが、一週間何度も寝起きを繰り返している部屋なのだ、嫌でも記憶に残る。
ということはつまり、ここは成り行きで居候している老人の家なのは分かる、私がここで眠っていたこと自体は問題無い。
なんせここで仮住まいさせてもらっているのだから、私がここで寝ていてもおかしくないのだが、問題は昨日の記憶が途中から、パタリと無いことなのだ。
特にギルドから出て酒場に向かったのはかろうじて覚えてはいるのだが、思い出そうにも記憶が浮かび上がって来はするのだが、如何せん思い出そうにも酷い頭痛がする。
「考えても仕方ないわね。さっさと朝食を食べに向かわ――うぷっ!?」
腹部からこみ上げてくるこの内側から焼き焦がれる様な痛み、間違いない。
二日酔いだッ!
ダンダンッ!食事がどうのこうの考えては要られない!私は凄まじい勢いで階段を駆け抜ける。
「おっ寝坊助ようやく起き―――」
階段を降りた先でエルトリアが、何か言ったのは聞こえたがそれどころでは無いッ!
今はただ、ひたすらにトイレへ向かわなければ行けないのだ、向かはねばぶちまけてしまう!
トイレの扉を開き便座と顔が会合した瞬間、終わりの見えない
『※:.jp<·※◇$=![&-\]$$*"♪☆⊿♡ゞ♭"☆♯』
吐く、吐く、吐く!
ありとあらゆる胃の内容物を吐き出してもなお、胃の奥底から込み上げてくる不快な酸性物は留まることを知らず、口内から溢れ出てくるばかり。
「ずみまぢぇん、本当にずみまぢぇん、天に御座す主に誓ってもうこれからはヤケ酒をしないのでどうかお助げお―――ゝ¥<♡$&$♭<_♯」
神に誓い祈りを捧げても尚、それは昨晩の罪を清算するかの如く止まらない。
何故だろう。何故なのだろう。こんなにも私は馬鹿で考え無しで呑み呆けてしまったのだろう.....。あぁ、昨晩の自分が憎い!時を戻して昨晩に戻れるなら一発ぶん殴ってやりたいのだわ!
それからもう絶対に.....絶っっ対に泥酔になる程、お酒は飲まないんだからぁぁぁ!!
止まりやまぬ嘔吐の洪水を吐き出しながら、誓いの言葉を心の内で叫ぶのであった。
程なくして山場を乗り越える事ができたルミィは二日酔いによる不快感を抱えながらも、ふらついた足でリビングへと向かう。
「うぅ.....気持ち悪い。あんな無様な姿は人には見せられないのだわ.....」
私が何とか持ちこたえている状態でリビングへと入ると彼は既にテーブルへ着いており、以前の如く本を読んでいる。もしかして読書が趣味なのだろうか?
そして私のことを待っていたのか、私のことが目に入るや否や愉快そうな笑みを浮かべ老眼鏡を外し、話し始めた。
「カッカッ、俺に負けてヤケ酒でもしたか?俺が言うのもあれだが、躊躇いも無く吹き飛ばしちまったからなぁ(笑)」
「うっうるさいわねッ!貴方に関係なんて――うぷっ」
彼に対して反論を述べる余裕も無く、再び吐き気の波がまたもやぶり返してくる。
「スゥはぁ、スゥはぁ、ちょっちょっと待ちなさい」
「ったく仕方ない奴だな、お前さんは。ほれ、これでも飲みな。ちったァ気もマシになるだろ」
「何よ.....これ?」
ぶり返してくる吐き気を何とか治めようと深呼吸する私に、彼から謎の小瓶が投げ渡される。
「胃の炎症を抑え、肝機能を高め作用がある丸薬だ。そんだけ酷そうなら俺の予定に響くからな。少々味はアレだが一日中、不快感に悩まされるよりよっぽどマシだろ」
「はぁ、ほんとに効くのよね?――うぷ」
「お前さんが飲むか飲まないかは自由だが、その吐き気に一日中耐えられるのか?」
「飲むから、飲むから早く水を寄越しなさい!」
「はいはい、そう慌てんでも丸薬は逃げやしないぜ?」
水と共に飲んだ丸薬は舌と触れた瞬間、苦味とエグ味と辛味を混ぜ合わせたかのような、この世の物とは言い難い味が口内に拡散した。
「うげぇ.....不味いってレベルじゃないわよ.....」
丸薬の不味さに狼狽えているのもつかの間、スゥーとした感覚と共に、お腹の中から込み上げていた胃の不快感は随分と治まりをみせる。
「ふぅー思いの他に即効性があるのね、感謝するのだわ。まぁそれでも幾分か胃の不快感は残るけど」
「さぁてお前さんの二日酔いも和らいだことだし、メシ食うぞ。二日酔いで腹ァ荒れてるとしてもメシを食わなきゃ話にならねぇからな。」
そう言うと彼は、キッチンから木の器にホカホカと湯気上がる麦粥をよそい私と彼の分、二つ用意してくれる。
こういう事前に察知して朝食を胃に優しい物を作ったりと、以外に彼はマメなところがある。
年寄りの一人暮らしともなれば、こういうものなのだろうか?
まぁそれは良しとして、ダイニングテーブルへと運ばれた、暖かに湯気上がる麦粥を口にするのはいいが、両者共に口下手なこともあって部屋は静寂に包まれる。
本来、ここは私から切り出しに行かないといけないのだろうけど、中々口が開こうとしない。まさか私、今更になって怖気付いているとでも?
ハッそんな.....そんなことは無いって言い切れないわね。だけど私は叔母様を救うために遥々旅をして来たのでしょ!
だけど、いざ口にしようとすると何ともその口を開くのが重いことやら。
色々思考を巡らし、なんとかこの沈黙から前日の話題を切り開く事が出来ないか逡巡していると、
そんな私を見兼ねた彼から渡し船が出た。
「昨日の話の事だが.....お前さんの考えは纏まったのか?」
"魔術を学ぶことを認める"これは私にとって自分が今まで研鑽してきた剣の道を否定する様なものだ。
認めたく無い.....認めたくは無いわ、だけど!もう進むって決めたのだから.....後は口に出すだけ、さぁ言うのよ、私!
震える唇を強く噛み締めて、私は覚悟を決めて声を出した。
「き、昨日の条件の事なのだけど.....仕方なくよ?仕方なーーーく!貴方の言うように魔術を学んであげることにするわ。それと、剣の道を諦めたつもりは無いから!絶っっ対にいつか貴方から一本取るから覚悟しときなさいよ!」
言い切った.....言い切ってしまった、もう私はこれで後戻りは出来ない。
この道を進むとなれば、否が応でも私の血筋が纏わり着いて来るだろう。
しかし、そのリスクを抱えてでも叔母様の病を治したい。
前日まで頑なに剣士として高い矜恃を持ち、我が道に剣以外有り得ん!とまで言わんばかりの気迫をしていた私のその姿の変わりように、彼は度肝を抜かされたのか、ハトが豆鉄砲を食らった様な唖然とした表情から一転して、口先がニッと上がり、エルはニヤケた表情を隠すべく冷静を装おうとしているが、彼の中で満足の行く答えを聞けたためなのか、満面の笑みがこぼれている。
「まっ、お前さんのスタンスがどうあれ、学ぶ気になってくれたなら文句はねぇ。
やる気がある分に越したことはねぇからな!ならばこの【幻狼の翁】と呼ばれた俺が、事象を支配し、空想を現実に落とし込む力、"魔術"ってものをお前に教えてやるよ!」
「さァそうと決まれば、とっとと行くぞ。急いで支度しな」
「今すぐかしら?今朝食取ったところだし、そんな慌てなくとも.....」
「俺としてもそうしたいのは山々なんだが、どこかの誰かさんがヤケ酒でグースカ眠ってる間にもう外は昼時まじかだからな」
「なっ!?その事は関係ないでしょ!いや、関係あるけども!そういうのはもう少し遠慮して言わないものでしょ!?」
「カッカッカッすまないねぇ、俺は裏表ない潔白な人間だから、つい思ったことはハッキリ言っちまうんだ(笑)」
あーだのこーだの言い合いにはなったが、各自支度を整え彼が言う目的の場所へと向かった。
――――――――――――――――――――――
【作者小話】
最近、投稿出来ておらずすみません。私は決して新作が出るからと言って久しぶりに過去作遊んでたら『楽しすぎじゃなイカ!?』とか思ってないし、インク.....そう!インク切れで執筆出来ずに投稿に支障来たしてたんですよねぇ( ˇωˇ )
えっこれは電子作品だろって?
うっせわた――
ハイ、今週の三連休は、連続投稿する予定なので何卒ご容赦を(꒪꒳꒪;)
それに加え、前日譚並びに過去に投稿した分の話を物語に支障を来さない範囲で修正しておりますので良ければそちらの方も読んでいただければ幸いです。
それでは作者これにて筆を一旦置こうと思いますわそれではまた明日。
..........to be continued
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