第12話 死して尚、拭いきれぬ思い

投稿が遅れて誠に申し訳ございませんm(_ _)m

言い訳などは近況ノートにて、報告させて頂いておりますので、事情を詳しく知りたい方はそちらに目を通してください。


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ギルドから飛び出たエルトリアが向かったのは、酒都ブルゴーニュとアトルの森の間に広がる平原【クシャラ平原】へとやって来ていた。


マジックバックから一枚の地図を取り出す。

それは酒都ブルゴーニュからクシャラ平原を含めたアトルの森一帯を記した簡略図だ。


別にピクニックをしようと平原にやって来た訳では無い。エルが平原に訪れた理由は、例年より大幅な魔物の発生理由の調査に加えて、変化したであろう魔物の分布域の再調査である。


そしてクシャラ平原とは酒都ブルゴーニュとアトルの森の緩衝地帯であり、調査をするとなれば、何かと行動しやすい場所なのだ。


「アトルの森の浅瀬でヘルウルフが出るとなりゃあ、結構生息域が変わってるかもしれないな」


長い時間、地図と睨み合って熟考した結果、四つのポイントに丸を書きA、B、C、Dとそれぞれの地点に記号を書き入れる。

書き記された地点はどれも冒険者または行商人が頻繁に通る道か、あるいは過剰に溢れた魔物達が住処を追われ、近隣の町村へ逃れた場合に通るであろうルートである。


A地点は行商人や旅人達が通り、物流の要であるクシャラ街道。


B地点は街道を沿うようにアトルの森へ続くクシャラ平原(首都ブルゴーニュ近辺)。


C地点はクシャラ平原からアトルの森を横断するカリアの川。


そして中堅層の冒険者が、素材依頼で討伐に出向く、D地点アトルの森(ブルゴーニュ地域)。


計四つの調査ポイントを割り出すことにした。


アトルの森の奥地まで調査をしたいのは山々だが、そこまで踏み込む冒険者は極一部の上位冒険者達だけだ、わざわざ出向く必要もないだろう。


A地点は行商人が頻繁に通る影響で頻繁に魔物の間引きがされているから、調査を優先する必要は無いな。


となると残りはB、C、D地点だがB地点は初級冒険者から中堅層の御用達の狩場だ。

それ故に溢れることは無いだろう。


そうなると残りはCとD地点となるが、今からD地点まで行くには少し時間がかかる。

そうとなればここから南方に下った先にあるカリアの川辺を調査するのが良いだろう。

カリア川は、近辺の動物や魔物達の水飲み場となっており、分布域が変わっているとするならば、最初に変化が起きるのはあそこだろう。


「そうと決まれば早速移動するとしますか」


足先に魔力を収束させ、大地を蹴飛ばし並々ならぬ速さで草原を駆け抜けて行く。

そうしてたどり着いたのは草原と大森林を横断し、悠々と地平線の先まで流れるカリアの川。

たどり着いたエルトリアは【魔力探知サーチ】の魔術を効率良く発動できるポイントを確認する。


「調査するにしても、まずは軽く辺りを確認しなきゃな」


調査を始めるにしてもまずは、大まかな分布域を調べたいがここではちと場所が悪い。


「ちょうどいい高さの場所が.....おっ、あそこいいな。あそこにするか」


川の中心にある大岩の上へ飛び移って座禅を組み体内を循環する魔力を意識し、限りなく魔力を薄めるため深く深く意識を研ぎ澄ませ、【魔力探知サーチ】の魔術を行使する。

極微小に練り上げられた魔力を自身が座る大岩から、このカリアの川近辺含めクシャラ平原まで波状に魔力を幅広く放出する。

それはソナーの如く、放出した魔力と反応した魔物あるいは人間の魔力をこと細かに感知する。


「ふぅ、やっぱ魔術は性にあわねぇな。こういうのは俺より他の奴らが向いていたからな」


少しだけ過去を思い出したが、それはそれとして複数回【魔力探知】を行った結果、大まかにだが分布域はわかった。


こりゃあ大分厄介な状態だ。例年に比べ魔物の魔力反応が多く、本来生息しない筈のBランク魔物がB地点とC地点から反応を確認出来た。


「ちっ、調査と並行して間引きもしなきゃいけねぇな」


先にBランク相当の魔物を片付けなきゃあ落ち落ち調査も出来やしねぇ、さっさと片付けてしまおう。

脅威となりうるBランク魔物を討伐すべく、川辺を走る。


川辺を横に脅威となる魔物の元へと駆けていると、八体の魔物がその姿を現した。


「あれはオークか?まぁ問題ないな」


単体脅威度Dランクに相当する食卓でお馴染みのオーク達だ。

なかなかの速度で近づいて来るエルの存在に気づいたのか、棍棒や錆びれた剣などオーク達はそれぞれの得物を片手にエルを殺そうと猪突猛進と言わんばかりに襲いかかってくる。


だが、それはエルにとっては一瞬の間も止まる必要は無く、瞬時にオークを倒すため、左腰に差す白鞘の刀の柄に手をそえる。


白磁の鞘に収まった刀を鞘ごと腰から引き抜き、鞘外部に纏った【闘気】だけで八体のオークの首に目掛けて技を放つ。


「【十束とつかの刃】」


鞘を振り払った瞬間、鞘外部を纏っていた闘気から八つの斬撃が放たれ、見事ものの瞬く間に八つの首が中を舞う。

それは舞いの如く、ひとつの無駄も無い研ぎ澄まされた剣技。

一瞬にして胴体と別れを告げた八つの首と死体に触れ、マジックバックの中へと収納し、減速すること無く目的の魔物の元へと駆け抜ける。


そしてたどり着いた先に待ち受けていたのは、虚ろな瞳でこちらを見つめ、枯れ果てた肢体に不釣り合いな豪勢な騎士鎧を見に纏う【骸骨騎士スケルトンナイト】が佇んでいた。


「はぁ?骸骨騎士スケルトンナイトだと?ったく、誰か埋葬せず死体を放置したヤツがいるな」


【骸骨騎士】それは【骸骨スケルトン】シリーズのアンデッドであり、発生源が生命体による影響からその種類は多岐に渡る。

特に人種となると【騎士ナイト】【狩人ハンター】【魔術師メイジ】など生前の戦闘スタイルによって幅広く変わる。


元来この世界の死んだ生物の魂は、【冥府】と呼ばれる死者の魂が集う冥界へと送られる。

しかし、人に限らず生命とは、その最後が凄惨であればあるほど、死んだ肉体にとも呼べる魂の残滓が強くこびり付く。

このこびりついた魂の残滓が死に絶えた肉体を再び動かし、生前の願いを叶えようと、あたかも蘇ったかのように動き出した存在を一括りに【死に生きる者達アンデッド】と呼称するのだ。



骸骨騎士スケルトンナイトは、こちらを見つけるや否や、こちらに向かって素早い斬り下ろしを繰り出してきた。

その剣筋は並み居る騎士とは一線を画す程の技巧が組み込まれており、相対する骸骨騎士スケルトンナイトの生前が熟練の騎士であることを証明している。


「ほう、なかなかいい太刀筋をしている」


エルはそれに対して、これまた鞘付きの刀で真っ向から鍔迫り合う。


キィンっと甲高い音を発しながら鍔迫り合っているのにも関わらず、エルの刀の鞘には、ひとつの傷も着いておらぬどころか、数ミリの間を開けて骸骨騎士スケルトンナイトが振るう直剣と触れ合う事無く鍔迫り合うことを可能にしている。


それは鞘に纏わる力、【闘気】と呼ばれる技法によって成り立つ力である。

そしてエルが鞘付きの刀で行っているのも闘気技法のひとつ【呼応】と呼ばれる武具に練り合わせた闘気(魔力)を武具に流し込み斬れ味と耐久性の底上げを行う技だ。


エルのような剣士ともなれば【呼応】の練度も高く、ただ武具を強化するには留まらず、その闘気のエネルギーを自在に扱うことも可能である。


自在に扱える程の猛者にもなれば、闘気を武具に纏わせ、魔術の如く斬撃を飛ばすことも可能だと言う。



ジリジリと弾かれ合い、エルは試すと言わんばかりに上段から斬り下ろしを放った。


特別でも何でもない、ただの一撃。されど、それを放つのは只者に在らず、骸骨騎士スケルトンナイトが相対するのは全盛期の半分の実力すら出せぬと言えど、百二十年前の英雄だ。

たった一撃とは言え、押し負けずにそれを防ぎ切ったとなれば、なかなかの実力があると言えるだろう。


「おっ、これを耐えるか。お前なかなか骨があるな」


そんな俺の軽いジョークを無視して、骸骨騎士から繰り出される連撃は激しさを増す。


「っとと!俺のジョークがそんなに気に入らないかい?まぁ久しぶりに戦いがいがある相手なんだ。存分に付き合ってもらうぞ!」


攻勢逆転、受け身に回っていた俺だが、骸骨騎士スケルトンナイトの振り下ろされる連撃を僅かに逸らし、一瞬の隙を突いて一気に攻め返す。

先程の一撃を止めて見せたこともあって、この

俺が繰り出す、振り下ろし、斬り返し、袈裟斬り、横薙ぎ、そのどれにも対応してしっかりと防ぎ切ってみせる骸骨騎士スケルトンナイト



「いいね、いいね。その剣筋、その歩法、その果敢に挑む姿勢、生前はさぞかし高名な騎士であったのだろう。だが未練垂れ垂れでアンデッドになってまで、この世を彷徨さまよっていちゃあ意味がないぜ」


「その忠誠心、来世に生かしな!代わりに冥土の土産として剣の極地ってモノを見せてやるよ」


振り下ろされる直剣の斬撃に対して闘気を纏わせた刀で強く弾き返し、一瞬の間を作り出す。


「天龍剣、技巧ヶ壱【孔一点コウイッテン】」


それは剣の極地、初代剣神が編み出した剣技の到達点。この世で初代を除いて唯一の後継者エルトリアが放つのは、ソラを我が物とするいにしえの幻獣【龍】すら地に足を着けさせる程の剣技と呼ばれる流派、それ即ち【天龍剣】と申す。


両の手で強く柄を握り締め、腰を落とし、左脇腹までグッと刀を深く引き絞り、骸骨系共通の弱点である心臓部のコア目掛けて、分厚い鎧をものともせずコアごと貫き通す。


カッッッッン.....つんざく様な鋭い音共に、骸骨騎士スケルトンナイトのコアは砕け散った。


「アッアァァァ.....」


コアを貫かれ、その体を維持できなくなった骸骨騎士は、足先から砂状に身体が崩壊してゆく。


「ノ.....ン様.....貴方様に.....もっと.....仕えていたか.....た.....」


おそらく高貴な身分者に仕えていたのだろう。それも心の底から己を捧げる程には.....。

崩れゆく骸骨騎士スケルトンナイトのその最後は、とても儚く、そして―――悲哀に充ちていた。


「騎士よ、輪廻の輪に戻り来世に旅立つ一時ひとときの間、せめて安らかに眠れ」


崩れ去った骸骨騎士スケルトンナイトの遺灰を哀悼の意を込めて火にくべ、調査に戻るべくその歩を進めるのであった。

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