第7話 女性不信
鵲さんはホモが大好きだが、彼女の口から放たれた言葉は意外なものだった。
「切幡くん、さすがに高校生がガチホモってのはダメだと思うんだよねぇ」
花京院さんもホモが大好きらしいが、彼女の口から放たれた言葉も意外なもので、
「アナタ調教以前の問題が転がっている気がするわ。とりあえずホモ以外の視点を持つことから始めなさいな」
そして、足摺さんもホモ好きというが、彼女の口からも意外な言葉が発され、
「まずはラブコメを見て、女の子を好きっていう気持ちを知ろうよ。まあ非現実の女子だから参考程度にしかならないけど」
にこにこしながら俺を見つめる足摺さん。彼女は俺の手を取り、PCが置いてある机に俺を向かわせる。
この女子ども、全然腐女子じゃないぞ……
「嫌だよ。俺はホモなんだ。手を放してくれ足摺さん」
「うそ、ハンドクリーム塗ったのに……まだ乾燥してる?」
「いや、そういう意味じゃないですが……」
男子の手を取るより自分の手の乾燥度合いのほうが気になるとか、余裕すごいな! ホモじゃない普通男子だったら、好きになって悶々とするレベルだぞ!
と、いきなり鵲さんがもう一方の手を取ってきた。
「時代は『ゆるホモ』だよ?」
「なんだそれ!」
「『ゆるゆ◎』がありならぁ、それもありじゃん? ウヒヒヒヒ」
「そうかもしれない」
揺らぐ心。でも、鵲さんの目は「ゆるいところからキツいところへの加速度を楽しむのがわたしの趣味ッ♡」と物語っていた。
刹那、なぜか俺の心は急速に萎える。
「最近ではゆるい鞭が流行でしてよ?」
「マジでなんだそれ……」
「こんにゃくゼリーでできた鞭も販売されるこのご時世、いつまでたっても皮とゴムだけではやっていけないわ。女王様って職業も大変なのよね〜、はあ」
「あんたカネ取ってんのかよ……」
え。足摺さんを調教してたとか言ってたなこの人。てことはこの人、友達からカネ取ってる……ってこと?
「もしかして女の子のことを嫌悪しすぎてるからじゃないかな? ……お尻の穴がゆるい理由」
「いきなり何の話だ!」
「やっぱりラブコメ見ようよ。そんな狭苦しい心と尻穴してたら、世間は許してくrえゃすぇんよ」
「なんで最後アキバのアニキになっちゃったんだよ。てか俺の尻穴はゆるゆるだ、狭い尻穴が欲しいってのに!」
え……なんか三人とも、俺の尻穴事情に反応してる。
「切幡くん……お尻の穴ゆるいんだぁ」
「大問題だわね……これは」
「キツキツっていうのはホモの必要条件なんだよ?」
「るっせええ!」
何年も掘られて、俺の尻はガバガバなんだよっ。最近はこの尻穴のせいでフられてるから、マジでヤバいと思い始めている。
「と・り・あ・え・ず! 見ようよ、ラブコメ。往年の名作を」
鵲さんがÐアニメストアを開く。
「これは『のうコ●』っていう作品。『×平ふらの』って子が超可愛いよ?」
「2次元だとしても女は嫌いだ」
「まあまあ。鈴音ちゃん、PC借りるよ?」「OK~!」
足摺さんがそのアニメを再生する。
「おえっ」
一話からなんだよ、マジで意味分んねぇ。エロ本に顔を押しつけて臭いを嗅ぐ? いやいや、男子の尻穴に顔を押し付けて臭いを嗅ぐならまだしも、エロ本て……。
「ぎゃっはははは、わたしこれ初めて見るけど面白ッ」「あっははは、コレ名作よねホント」「だね!」
やたら面白そうに見てるじゃねえか、この人たち。こういうのって男向けだと思うんだけど、変わってるなぁ。
*
「で、どうだった? 『×平ふらの』」
「正直、カワイコぶっててウザい。さっさとコクっちまえばいいのに、訳分かんない意地張って。ああいうのって負けヒロインになるんじゃね?」
「うっ……分かってはいたけど説得は難しい……あと推しヒロイン否定されるのも応える……」
撃沈する足摺さん。と、
「切幡くん。わたしのお勧めはこれ。『中二病でも◇がしたい!』。いやぁ、ヒロインのriqquaちゃんが可愛くってねぇ」
なにやら鵲さんが股間を押さえながらキュンキュンしちゃってる。俺、女子がキュンキュンしてるとこ見るの嫌いなんだが。
鵲さんは躊躇なくそのアニメを再生する。
「ケッ、なんだこのアニメ」
なんでヒロイン、上階から縄で降りてくるんだ。普通にチャイム鳴らせよ。
「わたしね? この8話から後がすごく好きなの。そっから見せてあげるよ、そうすれば女の子の良さが分かるから」
言いながら器用にマウスを操作している手。まったく、ちっちゃい手だな。
「……」
*
一通り眺めた。
要は、父親を亡くしたヒロインがとあるきっかけで主人公のこと好きになり、最終話でヒロインが父親にお別れの言葉を叫ぶって話。主人公はその補助をした、と。
「おもんない」
「えー⁉ 面白いじゃん! 感動的じゃんっ! え、感動的だよね、だってずっとtogacくんを一途に思い続けてたんだよ? 中二病のきっかけが父親の死ってのが泣けるじゃん! 最後の最後でお別れの言葉言えて……グスッ……本当に良かったね、riqquaちゃん……ハァハァ、なんでこの作品見たら股間がうずくのかな♡」
「身体構造ヤバいってレベルじゃねーぞ!」
前から思ってたけど鵲さん、いろんな刺激で股間疼きすぎだろ。刺激も多様性の時代なんて認めねーぞ俺。
「女子同士でやればいいだろ、そんなの。何で恋愛ってステップを挟んでお別れの言葉を言う必要があるのかね。これって主人公の男をヒロインの女が振り回してるだけだろ。主人公は貴重な時間を勉強とか自分磨きに使う時間を失った。この眼帯女のせいで。やっぱり女ってのは不必要だと結論付けられる」
「ひっどいなぁ! 切幡くんってそんな見方しかできないの? 最低、一回殴っていい? できればチョキで」
「チョキ……? まぁ、いいよ。俺、女嫌いだから。ちなみに俺を殴ったら、容赦なく鵲さんの顔面殴るけど?」
「あ、……じゃさじゃさ、こうしよ? じゃんけんで負けたほうが殴る。わたしチョキ出すから、切幡くんパー出してねッ。お願いッ」
「絶対成立しない契約をうきうきしながら言うなよ!」
「それじゃあいくよー! じゃーんけーん」
「えっ⁉ え」
「ぽん」
鵲:チョキ 俺(切幡):パー
「容赦はしないぜっ」「ぐあっ」
結果、顔面をグー殴られた。みんな、喧嘩相手がチョキで殴るって宣言したときは注意しましょうね。
「ま、わたくしは2次オタの豚どものような安い人間じゃないですから、アニメなんて見ないのだけれど。……そうね、『おしん』を見ましょう」
古。あとアニオタに謝れ。
*
「まあ……健気ね……おしん……」
「正直、なんでこんなにギャアギャア叫ぶんんだって感じ。親と子が別れるのがそんなに寂しいのか? ラインすればいいじゃん」
「なっ……あなたね……」
刹那、花京院さんは鞭を持ち、
「ふざけなんじゃないですわッ」
ビッシイイイイイイイイイイイイイッ!
「痛あああああああああああああああああああああああッ」
「この時代に、んなもんあるわけないでしょう! あなた人間として成ってないわ、本気で調教してやるから覚悟なさい!」
バッシィィィィィ!
「痛いっ ちょ、やめ……」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
「ぎゃああああああああああああああああああああああっ」
ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
「それ火! 火はダメ! 火気厳禁!」
「うっさいわ! 次は日本刀よ!」
「銃刀法違反もやめてくれ!」
今のは全面的に俺が悪かった。さすがに「ラインできる」はダメだった。
「切幡くん。それダメだなぁ」
「鵲さん……」
「だね。人間としてダメだと思う」
「足摺さん……」
そうやって言うけど、……
「俺、ダメなんだよ。おしんがラインすればいいってのはさすがに冗談がすぎたけど、俺、本当に女ってものがウザくて、憎くて、……不信感だらけなんだ」
俺は女性不信だ。
「女性不信かあ。根深い問題だよね~、う~ん」「それがホモになった理由ですのね。ふぅむ」「なるほどなるほど、子供の頃は普通男子だったんだね。難しいよね」
三人は理解してくれたっぽい。俺の絡まった心の中を。
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