第6話 元凶、現る

 そこにいたのは、久留宮くるみやミィ子だった。


「え、何。あんたホモだったの?」


「……だったらなんだよ」


 俺がホモになった理由。ホモゆえに男子にも女子にも散々いじめられる羽目になった元凶。中学の3年間、高一の1年間、そして高二の今、俺の人生を狂わせた張本人。

 久留宮ミィ子。

 どこにでもいそうな女子だ。髪の毛は肩くらいまで伸び、イマドキ風の黄色っぽい色――色の種類は知らないけど陽キャなのは分かる――に染めた髪の毛。ウザさしか感じない。大きな瞳はキリッとしていて、深みのある藍色。風貌だけ見れば美人すぎるが、俺を蔑みながら睨んでるからウザい。


「あんた、今19時だよ? なんで制服? てかあんたもこのマンション住んでんの?」

「お前に答える義務はねぇ。俺がどこで何しようが、お前には関係ないだろ」

「ホモのくせにエラそうな口きいてんじゃねえよ。あんたさ、自分がどういう状況か客観的に見たことあるのかよ」

「知るか。たとえカッコ悪くたって別にいい。自分がどう在りたいかなんて、自分が決める。他人にどう見られようがどうでもいい」

「ダッサ。そんなんだからホモに堕ちたんじゃね」

「なんとでも言え。お前はさぞかし幸せそうじゃねえか。そんな『普通の女子高生』みたいな雰囲気でさ、いい人生送れてるようじゃねえか」


 睨むミィ子。ウザすぎて、俺は目を逸らす。


「どいてくんない? キモいんだけど」

「は?」

「どけっつってんの。エレベーター乗るから」


 ふとエレベーターのほうを見ると、来ていた。

 つかつかと歩いて、俺を通り過ぎて、エレベーターに乗ったミィ子は、


「乗ってくんじゃねーぞクソ野郎」


 エラそうってレベルじゃないウザすぎるセリフを残し、「閉める」ボタンを押しやがった。


「乗るわけねーだろ」


 エレベーターが行ってから、独り言をつぶやく。


「にしても、このマンションにミィ子が住んでたなんてな」


 あいつ、ここに引っ越してたのか。ガキの頃は俺んちの隣で、俺が中学卒業するころに引っ越したけど、まさかここだったとは。


 ガキだったあの頃は、ミィ子と仲が良くて、毎日のようにミィ子の家に遊びに行っていた。ままごととか、ゲームとか、料理もした。自由研究を一緒にやったこともあったし、あいつの家族と旅行に行ったこともあった。


 でも、成長するにつれてどんどん仲が悪くなって、引っ越した数日後に家が解体され始めた。今は更地となったそこは、「売地」という看板がポツンとぶっ刺さっている。


「し、しまった、あいつら待たせてる!」


 鵲さんの部屋に行かなきゃいけないんだった。


「ええと、7階だったよな。703だったよな」


 エレベーターはすぐに来て、すぐに扉が開いた。


「なっ」「なっ」


 まさかのことが。ミィ子が乗っていた。


「どけよ」

「まだいたんだ、キッショいねあんた」


 忘れ物? なんか買いに行くつもりなのか? どうでもいいけど。


 俺は何も言わずに、さもエレベーターに誰も乗っていないかのように、エレベーターに乗った。同時にミィ子は、誰もいないかのようにエレベーターを出た。風圧を感じながら。


「……」


 無性に、殺意が湧く。

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