第12話 三人の実際
時刻は22時30分になっていた。久留宮ミィ子を残し、三人は秘密の会議を取り行っている。
「ねぇどうする? わたしたちがミィ子の恋愛相談役ってことバレたら」
鵲鈴音は、あごに手を当てて虚空を見つめる。その眉間にシワが寄っているが、暗すぎて窺うことは不可能。
「そもそもわたくしたち、ホモが全然好きじゃありませんわ。だいたいどうしてあの切幡亮人って男は『女不信』→『男好き』って発想になるのかしら、思考回路が虫レベルにバグってましてよ?」
右目だけに謎の光が差す、花京院裕奈女王様。女王様業に勤しみたいところだが、友達の深刻な恋愛問題解決となれば協力するにやぶさかでない。最近は男を引っぱたくことを中止し、代わりに友人兼問題解決チームの足摺冴香を引っぱたいている。
その足摺冴香は、信心深い。手には「切幡寺」という寺で購入したお守りを握りしめ、自分たちの正体がヤツにバレたときに身の安全を保障してくださいませ千手観世音菩薩さま、と祈りを捧げている。
「冴香、いつまでも祈ってないで問題に向き合いなさいな」
「でも……私たちがホモ大好き人間じゃないってバレたら、確実に切幡くんと接点がなくなるんだよ? 他に接点となる要素って何かな」
考え込む三人。ちなみに場所は、薄暗いパソコンルームである。敢えて電気もつけずに話し込んでいるのは、深刻な空気を演出するためだ。
「ああもう、ミィ子もミィ子だよ! なんで子どものころの些細ないざこざを高校生になっても引きずるかなぁ! むぅ」
「だからこそ、よ。子供時代の傷って、案外深いんじゃないかしら。放置してたらなおさらよ」
「放置だけならまだしも、傷口に塩まで塗ってる状態だもんね。二人とも反発し合って、どうしようもないんだから……」
まず、整理しなければならない。
三人は、
・ホモが好きってほどでもない
・ホモが大好きであると演技している
・すべては友達・ミィ子の恋愛成就ため
・ミィ子の依頼は、切幡亮人と結婚する道筋をつけること
切幡亮人に見せている姿は、すべて嘘。本当は三人とも、普通の女子で――
「もういっそわたしが切幡くんの初めて奪いたい」
「それがミィ子にバレたら絶縁だけじゃ済まなくってよ? もう何回も言っているけれど」
「だってわたし、処女だよ? 正直オマ●コに入れてほしいよ、チ●コ。いいよね二人は、とっくに卒業しちゃってるんだから。……わたしだけ取り残されてるなんてさ」
俯き、ため息をつく鈴音。
「……実はね、話さないといけないことがあってよ」
「え、何?」「どうしたの改まって?」
「わ……わたくし……まだ、なの」
男をいたぶる女王様・花京院裕奈は、正真正銘の処女だ。
「嘘、なにそれ、今更?」「騙してたの? 私と鈴音を」
「ご、ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも……やっぱりわたくし、好きな人と初夜をともにしたいっていうのが本音で――」
「なにそれバッカじゃないの? バーカバーカ。性奴隷何匹もいるじゃん、いつでもヤれるってのにさぁ」「ちょっと鈴音、処女こじらせてるからって言いすぎ」
「ふっ。愚かなクサレ性奴隷なんて、ほとんど物と一緒ですわ。生き物として認識してないですわ、わたくし」
「いやそれは酷いって」「かわいそう……」
「冴香、安心して? あなたは人間よ?」「私は菩薩だよ」
信心深すぎて自分を菩薩と定義する清楚系女子・足摺冴香。
「宇宙の中心で大日如来さまは見ていらっしゃるの。すべての問題は、解決されるために存在しているの。いつか必ず、といっても私たち人界の者が生きているうちにね。祈ればすべてが解決するの」
「胡散臭ぁ」「いい加減に目を覚ますべきですわ、冴香。引っぱたいてあげてもよくってよ?」
「そ、それはもう。明日お願い」
「まったく、ドMなんだから。あなたって人は」「ドMってレベルじゃないよね、冴香って」
「正直言って、仏様にはしたない姿を見られる背徳感がたまらなくて……ハァハァ……信心深いのはそれが理由なの……ごめんなさい千手観世音菩薩さま」
それは、初の告白。
「え、そんな……冴香ヤッバ」「あなた……もうドM世界の輪廻回廊を闊歩してるわね」
清楚な女子高生・足摺冴香は、ホモ大好き系残念美少女ではない代わりに、最も敬っている仏さま自身に、己のはしたない姿を見られたいだけの、超ド級変態美少女だった。
ここで改めて整理しよう。
・鵲鈴音……処女卒業が目的のウブな子
・花京院裕奈……性奴隷または性玩具志望の愚かな男どもの調教師
・足摺冴香……仏道に反する邪淫を愛する変態
「ところで冴香、あなたっていつどこで誰とヤったの?」「気になるぅ」
「え……っとね。駅のトイレで、リトアニア語を話す男の人と」
「……は?」「……何を言ってるのかしら」
「だ、だから、駅のトイレのリトアニア語が流れる男の人と」
「ますます意味不明ですわ」「怪しぃ~」
「だ、だからっ。駅のトイレのリトアニア民謡を歌う男性歌手と」
「追い詰めますわよ、どこまでも」「わたしも女王様に続くっ」
「もう……。本当は、駅のトイレで兄が迫ってきて、そのまま――」
刹那、生唾を飲み込む二人。
「え、ちょっとそれキンシンソウカンってやつじゃないのかしら?」「だ、大丈夫だよ冴香、わたしたちの秘密保持は連動してるからっ。お互い核爆弾を落とし合うなんて絶対無理だから。ね?」
「違うの! 兄が迫ってきて、そのまま押し倒されたんだけど、絶対にそんなことしたくないから、おもいっきり『嫌い』って言ってやったの」
「じゅ、十分すぎるヤバい話ですわ……血の気が引きますわね」「わたしたちに構ってないで兄のシスコンをなんとかしないと」
「兄、今はどっかアフリカの国で慈善活動してるの。一生日本に帰ってこれないように、両親が言いくるめてアフリカのマラリアが多い地域に……」
「両親も両親よ!」「怖すぎぃ!」
「ということで私も処女なの……ほんと、危なかったよ」
三人すべての処女が打ち明けられた。一人だけヤバいのがいたが。
「ちょ、話が進みませんわ。あなたたちどんだけヤバい
「お互いさまだよぉ」
「うん、私も同意するね」
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