第16話 It's 判断力足らんかった

 さすがにこれ以上この家にいるわけにもいかず、俺と雪層ゆきかさは、雪層の一人暮らしのアパートに行くことになった。


 恋愛相談するために。


「あなた、パンツの具合はどう? まだべとべとのぐちゃぐちゃのげちょげちょに濡れたくっているのかしら」

「認めるさ。でも言い方考慮しろよ!」


 雪層は、見た目だけだったらクール系の超絶美人だ。蒼白い風貌も相まって「アイス」を連想させる。

 が、実態は意味不明な変人。俺が強烈に嫌がる言葉を並べ立て、最終的に「久留宮ミィ子大好き」の言質を取るのである。


「さて着いたわよ。中に上がってちょうだい」

「お邪魔します」

「ここは借りているだけよ、私の家じゃないってことを忘れないでね。もし壁に穴でも開けたら弁償するのは……あなたよ!」


 人差し指を指してきた。人に指を指すだなんて、本当にいけないと思う。


「他人の家の中を堂々と紹介してた人には言われたくねえ!」


 雪層は意に介さず、上がり框を上る。


(ああ、なんだよ俺の人生)


 マジで死んだほうがラクなんじゃないか? 唯一の話し相手がこいつって、もう俺の人生詰んでるみたいなもんだろ。


「そういえば亮人くん、あなたの足のサイズって何センチ?」

「え? あー、26」

「それとね、亮人くん。あなたのチンのサイズって何センチ?」

「言うか!」

「それともう一つね、亮人くん。あなたの愛する彼女のマンの縦のサイズは――」

「言うな、絶対言うな! 自分で確かめるんだよ!」

「その意気よ。まだ完ホモではなくて安堵したわ」

「……」

「完ホモとは、完全に男しか愛せなくなったメス化男子のことだったんだけど、ご理解いただけなかったかしら」

「ご丁寧な解説ありがとうございますって言うとでも思ったか! いらないよそんな説明!」


 雪層は台所に向かい、なにやら下の棚をガサガサ漁り始めた。


「ごめんね、今日はパスタで済ませてもいいかしら」

「いやいいけどさ、それってパスタなのか?」

「ええ、これは冷製パス……ってあれ、なんで私、針金の束なんか持ってるのかしら」

「食品と針金を一緒にしてる一人暮らしの高校生って、100%親が心配するぞ!」

「相変わらずツッコんでくれて嬉しいわ。あなたもいろいろ大変でしょうに」


 いろいろ大変、だよ。


 確かに俺はホモだ。ホモである。ホモと定義したあの夏を忘れない。


 でも……

 

「ちょっと確認なんだけど、クルミィのせいで女性不信になったあなたがいまだに彼女のことを好きなのは、愛のあるセックスをしたいから、でいいかしら」


 このとんでもない発言は、実のところ……


「そうだ」


「あなたもう何回も掘られてるんでしょう?」


「そこに本当の愛はなかった。結局男同士じゃ愛は生まれなかった!」


「受けに回って悦んでたって言ってたじゃない。あれは嘘だったの?」


「愉悦と愛は全然違う。そもそも俺は、本当の愛をミィ子にしか抱いてないんだ……マジで」


「了解したわ。あなたの愛はホンモノだという確認がとれたわ。それでは、とりあえずこのパスタでも食べながらお話しましょう」

「いやそれ針金だろ!」

「低融点金属だからふにゃっとして美味しいわよ?」

「なんで俺だけ金属食わないといけないんだ! しかもお前ちゃっかり早ゆでパスタ作りやがって!」

「ペペロンチーノ旨し、あなたにもどうぞ」

「頼んでねえよ!」


 パパっと出来上がったパスタに、ペペロンチーノのソースをかけている。


「知ってる? 亮人くん。世の中には、茶色のものをどぴゅる人もいるって」

「ヤバい病気だ!」

「知ってる? 亮人くん。世の中には、銀色の固くて細い金属めいたものを、にゅろーん、と発射する人もいるって」

「宇宙人じゃねえか!」

「知ってる? 亮人くん。世の中には出したくても出せない人がいるって」

「あ、それは……本当に可哀想だと思いますね、ハイ」

「知ってる? 亮人くん。世の中には中に出したくても外しか選択肢がない人がいるって」

「俺だ! でもって結構な割合の童貞たちだ!」

「あなた、童貞以下のホモであることをご認識? 残念ながら、童貞より低俗な男とは、尻を掘られた受け側のホモよ」

「低俗じゃねえんだよ、分かってんのかオラ!」

「あら、言い間違えた。低融点ね」

「低融点金属から離れろよ!」

「実はアレ、ものすごく高価な金属で、ええと名前は」

「知らなくてもいいんだよ! てか本題はどうしたんだよ」

「ああ、あなたが明日クルミィにゲロを吐きつつ逆立ちしながら告白してフられるための10の方法のことね。さて、話しましょう」

「どんなフられ方だよ! すごすぎて別の国ならOKしてもらえそうな技だな!」

「あらあなた、ゲロ吐き逆立ちもできないなんて可哀そうに。私はね、未来のパートナーに手伝ってもらって、逆立ち中◎しセックスを経験してみたいのよね。ま、ゲロは嫌だけど。汚くて」

「アクロバティックの領域ぶっ飛ばしてデンジャラス! ゲロが嫌なのは同意ですがね、……俺何言ってんだろう」

「女が男の上に放物線を描きながら落下し、中◎しセックスしてみたくもあるわ」

「けん玉か! 男が潰れてひしゃげるぞ!」

「ま、本音は高速ねじねじされながら中◎しセックスされたいんだけど、これは黙っておきましょう」

「ドリルか! 絶対やるなよそんなこと。死ぬぞ!」

「死因・セックス。私の望むものだわ」

「望むな!」


 全然話が進んでないぞ? てか後退してるぞ? 俺帰りたいよ。


「それにしても世知辛い世の中よね。全裸で告白すれば絶対イケるっていうのに、当局の力によってムショに連行されるご時世なんだから」

「いつの世でも連行されるだろ!」

「キルギスでは事情が違うらしくってよ?」

「日本人です!」

「え、あなた、日本人だったの?」


 もうだめだ。


「まあ、とりあえず俺が日本人か否かは置いといて、」

「じゃああなたがパプアニューギニア人だという当初の認識でいくわ」

「どんな認識だよ! 極楽鳥の羽とかテレビでしか見たことないんですが⁉」

「極楽浄土鳥のはね、テレビじゃ見れないのよ亮人くん」

「耳腐ってんのか!」


 なんか……

 人生、続けよっかなって思えてくる。

 このまま死ぬとか、惨めすぎて……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る