第3話 高級マンションに連行された

 連行されたのは、駅から徒歩1分の高級マンション。


「え、ここ」

「うん。わたしの親、金持ちだよっ」


 見た目はどこにでもいそうな女の子なのに、現実は摩訶不思議だ。


「家賃何万なの?」

「えっとね、400マン●」

「待て、どうしてを付けた?」

「だ、だってさぁ、その……垂れてるしぃ」


 スカートを押さえ、もぞもぞする鵲さん。


「っておい!」

「もう無理なんだもん♡」


 股間の中央部をもそもそいじくり始める。


「はぁ、はぁ……ホモサピエンスくぅん♡」

「ちょっ」


 いきなり手の甲にベロを這わせる! ぬめ~ん、とした感触。


「あのな! 俺は女に興奮しないんだからそういうことやめてくれよ! ったく、マジで女って男の気持ち考えねぇな」


 自分の服で手の甲を拭く。


 これだから、嫌なんだ。

 俺がホモになった理由……それは、過去にある。

 昔、幼馴染が……


「あはぁアアアアアアアアアアアアアアアアアッ も、もももう一回お願いいたしますぅぅぅ♡」

「ちょ危ない!」


 股間の中央部をタワシでこするかのように、激しく動かし始める。


「ケガするぞ! 感染症になるぞ?」

「えっ、切幡くん優し♡」

「やめろ。気持ち悪い」

「罵倒されたい♡」

「なにぃ⁉」

「罵倒されたら興奮する、切幡くんなら」

「何でだよっ」

「だってガチホモだし。わたしはガチホモと結婚したい!」

「それ俺じゃなくてもいいだろ! もう帰るから、女は嫌いなんだ!」

「ちょ、ちょっとちょっと待って? 待ってえ」


 鵲さんには悪いけど、吐き気がしそうだ。女アレルギーここに極まれり、早く彼氏見つけてエッチしないとマジで精神病んでしまう。


「待ってくれないと、久留宮くるみやちゃんに言っちゃうよ? 切幡くんがホモで、ホモ小説書いてるド変態だ、って!」


 なん……だと?

 

 俺はすぐさま鵲さんのところに戻り、


「何で知ってる?」

「友達だもん」

「マジかよ……高校違うのにマジかよ……」

「え、この前ウチに転校してきたじゃん」

「は⁉ 初耳だぞ⁉」

「他クラスだからね。すっごい美人さんで、わたし、見た瞬間メロメロになっちゃって。わたしの友達もメロメロメロンなんだぁ」

「あのさ、ホモかレズかどっちか選ぶべきじゃないかな」

「そんなの選べないもん。最近レズものにもハマッちゃってるもんねー♡」

「なんでメスガキ風なんだよ、いい加減イライラするぞ」


 あ、確認しよう。


「文脈から察するに俺の勘違いだろうけど、友達ってまさか、久留宮のことか?」


 もし久留宮だったら、本当にヤバいんだが。俺の明日があるのか分からないレベルに。絶対ホモだってことバレたくないランキング1位、久留宮ミィ子。俺の幼馴染にして、俺を女嫌いにさせた張本人、かつ俺をホモの道に追い詰めたクソ女。


「違うよ。もっとヤバい子たちだよ」

「ヤバい子たちって言いながら笑顔なのはなぜだ」

「同じクラスにいるでしょ? 花京院かきょういん裕奈ゆうなちゃん」

「う……」


 確かいたなぁ。金髪くるくるヘアの、いかにも女王様っぽい、気の強そうな子。


「もう一人いるよ。足摺あしずり冴香さえかちゃん」

「えっ⁉ あの子清楚じゃねえか⁉」

「うん。黒髪ロングで清楚っぽいけどホモ大好きだよ」

「残念すぎる情報をサラサラ流すんじゃねえよ! 俺、あの人マジで一番マシな女と思ってたのに!」

「え、清楚系の女の子好きなの?」

「いやだから俺が好きなのはたくましい男の人で……」

「やっぱホモ~♡」


 目が♡になるやいなや、またしても腕に絡みついてくる。


「うっとうしい!」

「うっとうしがらせてるもーん♡」

「放せや腐女子!」

「婦女子って言ってくれてありがと、大好き♡(小説が)」

「今『小説が』とか思わなかったか?」

「いや思ってない思ってない、本当に思ってない」

「いや思え。女に好かれるのが嫌って何度も言ってるだろうが」

「ホモサピエンスの次に好き、亮人くん♡」

「うぜエエエエエエエエエエエ!」


 ルンルン気分のカレカノみたいに手をぶんぶん振られながら、俺はエレベーターに引きずられていく。


「『あ、もしもし裕奈お嬢様? うん、今ね? ホモ狩ってきた』」

「いきなり怖いんだよ!」

「『ごっめんお嬢様、ホモ買ってきたんだった、テヘ』」

「もっと怖いよ!」

「『ごっめんホント、お嬢様、ホモの首刈ってきたんだぁ。ウヒヒ』」

「怖いってレベルじゃねーぞ!」


 くそ、こんなに脇で騒いで、絶対花京院さんにバカにされるよ……


 女にバカにされるのが、本当に嫌な俺。あいつもその一人だ。久留宮ミィ子。鵲さんよりずっと量産型の、どこにでもいそうな女。不幸にもそんな魅力の欠片もない女と幼馴染で、しかも俺を「キモ」とか「アホじゃね?」とか言ってくる(それは小学校のときの話。今じゃ口も利かない。だってマジでムカつくクソ女だし、俺がガチでヤバいホモだなんてバレたら釈明しようもない。んでもって遠くに引っ越した。今思うのは、消えてくれてありがとう、ってことだけ)。


「ねえ動いてよホモサピエンスさま! エレベーター来てるよっ」

「ハッ」


 あまりにも怒りがこみあげて、大岩のごとく固まっていた俺。


「ねえ動かしてよ腰。もういっそ切幡くんならエッチしちゃっていいかも♡」

「絶対嫌だ!」

「え、濡れてるんだよ? わたし」

「知らねえよ。なんであんたが濡れてたらヤらなきゃいけないんだよ、女の穴に入れる棒なんか持っちゃいねーよ」

「か、カッコイイイイイイイイイイイイイっっっ あっ イッちゃうっ」


 なんか、ガクガク震え始めた鵲さん。


「ど、どした?」

「ちょ……ひぐっ……あっあっあああっ♡」

「大丈夫か? 救急車呼ぶぞ?」

「ダ、メッ……救急隊員に……失礼だ……よ……あふああっ」


 ガクガクと震えながら膝から崩れ落ちる鵲さん。


「はー、はー、……やっば」


 胸を押さえて、呼吸が荒い。


「あの、大丈夫?」

「ホモでイッちゃって……はー、はー、……もう1回、イキたい、かも♡」

「やめとけ!」


 ゴンッ


「いだっ」


 俺は鵲さんの脳天にげんこつを食らわせる。即座にその場に崩れ落ちる鵲さん、おそらく気絶してしまったのだろう。


 エレベーターはとっくに行ってしまった。


「?」


 と思ったら、8、7、6と、エレベーター上部の文字盤が点灯し、





「まったく遅いじゃない、何やってるのよ鈴音…………」





 止まったエレベーターの扉が開いて現れたのは、くるくる金髪ヘアのお嬢様だった。

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