第4話 お嬢様 vs. ホモ

「あらあら、ごきげんようホモ」

「……どうも」


 くるくる金髪ヘアは、バネそのものだ。いったい何を使えばあんなに何周も巻けるんだろうか。


 腕を組み、上から見下すような偉そうな態度。世界のすべてが己の手の内に治まっているとでも錯覚しているのか?


「鈴音の部屋でおもいっきりイジめてあげるわ? さ、中にお入り」

「えっと」

「何も言わず入ってくれれば、あなたを暴力団の餌食にはしないわ」

「できれば暴力団の男たちにいたぶられたいっすね!」

「なっ、なんですって⁉」


 腕がバッとほどかれた。目が開き、巨乳がぼいんっ、と踊る。


「あなたどこまでガチホモなの⁉ プライドはないの⁉」

「知ってるか? 男って、6つの穴があるんだ」

「え……それやっぱり本当だったのね」

「ふふ」


 美貌にも巨乳にも興味がない。暴力団に襲われてぐちゃぐちゃにされる自分を想像し、思わずどぴゅりそうになった俺。てか「どぴゅる」って動詞、自分でもドン引きだ……


「あ、あああのね切幡亮人!」


 びしっ、と人差し指を突き付ける花京院お嬢様。だけど、なぜか顔を横向けて俺を見ないようにしている。


「わ、わたくしはホラ、一応女王様って立ち位置だから、いいいくらホモだからってよよ容赦しないわよ?」


 動揺しまくっているのはなぜだろう。人差し指も震えている。


「あああああんたなんかわたくしの椅子よ! べ、別に可愛い声で鳴いたって、わたくし興奮なんていたしませんわよ? オーホホホホ……」

「えーと、大丈夫?」

「何かしら、わたくしの顔に何か付いていて? な、なるほどそういうこと、さっきまで足摺あしずり姫に調教してあげてたせいね、彼女の汗が付いていたのね? ふあーっははは、ふあーっはっはっは」

「とりあえず汗拭いてみたら?」

「う、うっさいわね! ホモ……♡」


 え、なんか、気の強そうなきりっとした瞳が、一瞬でトロリってなったけど……


「ホモなんて……調教したことないですわ……。は、恥ずかしいですわっ」

「しなくていい!」

「そういうわけにはいきませんの! わたくしの生きがいは調教なのだから! 別に痛いだけが調教じゃなくってよ? 純粋な快楽も調教のうちで――」

「すいません帰っていいですか」


 言い捨てて、去っていく俺。さっさと地下鉄の駅に戻ろう。


「ちょ、お待ちなさいホモ! わたくしを一度、調教してみる気はないかしら?」

「ない」

「こ、こんなチャンスをみすみす捨てるですって? ホモ、ここに極まれりですわ!」

「……」


 ホモここに極まれり、とか言われたら、正直バカにされている気がする。


 俺は踵を返し、進行方向を180度変え、


「じゃあ、やっちゃおうかな。調教」

「えっ」

「正直乗り気じゃないけどさ、そういう悪口叩かれるとマジでウザいんだよな。その汚い口から汚い言葉が出ないように」

「ひっ」


 俺は花京院さんに壁ドン。そして顔を見つめ、あごクイを決める。


「キスしちゃおっかな」


 わなわなと震える花京院さん。偉そうな態度は消え、不安一色だ。


 俺にとっては最悪だ。女とキスなんて、マジで汚らしい。でも、悪口言われて腹が立ったら、その口を塞ぐしかないだろう。


「に、肉棒で塞いでほしくってよ♡」


 お嬢様、両目が♡に。完堕ち。


「誰がそんなんで塞ぐか! けがれるだろ、大事な己のカタナが!」

「わたくしが研ぐのはいかがかしら♡」

「いやいいって」

「そ、そんな……逆調教しないでくださいまし」

「してない。してな――」


 形勢逆転は、あっという間だった。


「あはっ。今度はわたくしの番でしてよ? ほ・も♡」

「何する気だ……」

「決まってますわよ、あなたの肉棒を思いの限り吸い尽くして差し上げますわ?」


 くるくる金髪ヘアをかき上げ、もんとしたアダルトな香水の匂いが漂う。


「わたくし、ホモには調教したいだけじゃなく、されたかったんですわ。だって、ホモなんてこの世にほとんどいないレアモノでしょう? 上流階級女子にはホモをたしなむ権利があっていいと思うのですわ」

「や、やめろっ」


 俺は彼氏以外に肉棒をじゅぽられたくない!

 俺は彼氏以外にアダルトムードになりたくない!


「ちょっと鵲さん助けてくれ!」


 鵲さんのほうを振り向いたら、なんとまだ気絶していた! 地面に大の字でぶっ倒れている。




 チーン



「え……」


 

 唐突なエレベーターの到着音。

 そこにいたのは……

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