女性不信の俺、実は元凶の美少女が大好きです。

島尾

俺=ホモ

第1話 大好きな彼氏に振られた

「あ、あの……切幡きりはたくんって小説書いてたり、するよね」


 両手をグーにしてあごに当て、緊張している。目をつむっているから、すごく勇気を振り絞ったんだろう。


 右も左も分からなくなって戸惑う俺。


 ここ、男子トイレの前なんだよな……。プラス今、彼氏にフられた直後なんだけどな……。さっきまでトイレで、彼氏のチ●コをじゅぽっじゅぽって吸ってたんだよな……。で、吸い方が気持ちよくないって理由で「お前とはもうやっていけない、別れよ」って言われたばっか……。


「そっか、そうだよね。まさかあんなヤバめの小説書いてるなんて、口が裂けても言えないよね」


「ごめん。俺、用事あるから」


「ちょ、ちょっと待って!」


 立ち去ろうとしたら袖を引っ張られる。


「放してくれないか。俺なんか、超絶気持ち悪い人間だから。信じられないほどに」


「え?」


 なぜか彼女はキョトンとしている。

 そういえば、女の子の顔ってマトモに見たことない。宝石みたいに輝く瞳……控えめなピンク色の唇……絶対サラサラしてそうな、きらめく茶髪……


「あの、そんなに見ないでもらえるかな……私、恥ずかしいよ……」

「ごめん。死んで償うよ」

「へ⁉ そそそこまでしなくても」

「いいんだ。彼氏に振られて絶望してるんだ。どうせ君だって、ジロジロガン見してきた男が死ぬの嬉しいって思ってるよな。ていうか、ただ俺が死にたいんだ。この先、生きてたって意味ない。死んだ方がマシだよ」


 俺がホモだからっていう理由で、男子にも女子にも散々いじめられてきた。中学の3年間、高一の1年間、そして高二の今。4月が始まって、心機一転がんばるぞー! って思ってたけど、やっぱ人生ってそんな甘いもんじゃなかった。


 死のう。


「すごい、すごすぎるよ、メンヘラ男の子なんてすごい!」

「……あの、君は何を言ってるんだ?」

切幡きりはたくんってスゴい小説書いてるよね」

「え、いや」

「書いてるよ、だって知ってるよ? ホモサピエンスっていう名前でブログに書いてるじゃん、ガチホモ小説」

「書いて……ない」

「噓、書いてるよ。だって、見ちゃったんだもん、切幡くんが昼休み、スマホで書いてるの。盗み見たことは謝る、ごめんね? けど、もう切幡くんのファンになり過ぎて……や……ヤバいの」


 ハァハァ言いながら、胸とスカートを押さえている彼女。ていうか、なんでスカート押さえる必要が? 窓開いてないから、風吹いてないのに。


「スカート押さえなくてもさ。俺、女に興味ないから。気にしなくても見たりしないよ。仮に見ても何とも思わないし……」

「逆に見て!」

「ふぁ⁉」


 逆に「見て」? 


「あのさ、今なんて言った?」

「あ、いきなりごめんね。わたし、正直、見て欲しい。そこらへんの性欲ダダモレ男子には絶対見られたくないけど、切幡くんには見てもらいたいんだ、私の恥ずかしい姿。……ら、ラブホで全裸のわたしとか、すっごく見て欲しい!」


 刹那、俺の胸にドバッと飛び込んできた彼女は涙目の上目遣いで俺の目を見つめる。


「いや、君どうかしてるだろ」

「ひゃあああ♡ 罵倒すきぃ♡」

「ごめん、俺本当に女子に興味ないんだ。もしかして俺のこと好きとか言いに来たかもしれないけど、確実に振っちゃう自信あるから、やめてくれないか」

「別に切幡くんを男の子として好きとは思ってないんだけど、ホモサピエンス様としてはめっちゃ好きだよ。……穴に入れたい、なぁ♡」

「やめてくれよ、マジで。本当にやめてくれないか?」

「あ、さっきのところ、『本当にやらないか』に言い換えて?」

「何でだよ!」

「だって、……やらないかってことは、……そういうこと、でしょ?」


 真っ赤になってるのはなぜだ! 女が顔真っ赤にして恥ずかしがりながら斜め上から見つめられるのとか興味ないんだよ俺は! 俺はホモだ! 俺は男にしか興味ないんだあああ!


「あのさかささぎさん、迷惑なんだけど」


 彼女は鵲鈴音すずね。クラスメイトだ。この前席替えがあったんだけど、この人が俺の後ろになった。そんなことどうでもよかったんだけど、今は明らかにどうでもよくない。大問題だ。


「切幡くん、最後にこれだけ聞かせて? 男の子って、やおい穴あるの?」

「なっ」


 そんなこと、言えるわけない。

 だって俺、ブログでホモサピエンスっていう名前でガチホモ小説書いてるし。もう140話くらい書いちゃって、やおい穴がある前提で進めてて、もはや現実にもやおい穴があると思っちゃってるんだから。


「ねえ、あるの? ないの? 男の子だから分かってるよね? どうなの?」

「それは……」

「じゃあ、質問を変えるね。男の子って、輪男りんだんに対応できるように、6つの穴があるんだよね?」

「うぐふっ」


 やばい。


 俺が書いてるホモ小説って、4割くらいの作品は集団レイプに近い快楽地獄みたいな内容で、その性質から「男の下半身には6個の穴がある」っていう設定をしている。ここで夢を壊すことは、自分が書いてきた作品を否定するばかりでなく、自分はガチホモだというアイデンティティを揺るがすことにつながる。


 純粋にやばい。


「切幡くん、お願い。せめて下半身の穴の数だけでも教えて? それだけでわたし、今夜は何回も気持ちよくなれるから。ね?」

「ちょ、近いって」

「聞かせて? 聞かせて!」


 鵲さんは、俺に抱きついてきた。おそらく無意識だ、たぶんホモどうしがくんずほぐれつする様子を想像して、俺のことをヒロイン(男)と思い込んでいるんだ。で、自分が主人公(男)だと思い込んでる。


「聞かせてよ、お願いだから。もう、わたし……我慢できないの!」

「教えられないっ」

「どうして? それって6個あるってこと?」

「ノーコメントだ」

「8個あるの?」

「なんで増えてんだよ!」

「4個あるの?」

「減らせばいいって発想捨てろ!」

「じゃあ、やっぱ2個?」

「そ……んなわけない!」


 あっぶね、危うくやおい穴の存在を認めそうだった。


「今……言いよどんだ?」

「ま、まさか」

「2個、あるんだ」


 目が怖い。口がニタニタし始める。


「あのさ、普通に考えてさ、無いだろ。人体図鑑とか見たらどうだ?」

「人体図鑑見たことないなぁ。だから穴の数教えて? もちろん下の」

「そりゃ1つだろ!」


 え……


 なんで鵲さん、ハァハァ言ってるんだ?


「ア●ルに肉棒入れる系が、現実なんだ……アハハ、アハハハハハ」


 腐女子、ここに極まれり。はい、ホモはそういう現実で快楽を味わっています。




 そのとき




「おい亮人、お前のせいでチ●コ怪我しちまったぞ。治療費払え」


 元カレがどしどしやってきた。

 ガチムチで身長が高く、掘りが深くて、たくましい……♡。


「ごめん龍弥くん、俺が悪かったよ。治療費、払うね」

「ったく、最後の最後まで迷惑かけやがってよォ。5万払え!」

「口座番号教えてよ。俺、振り込んどくから」

「わーったよ。ったくサァ、お前みたいなクソッタレの相手して時間がどんだけ無駄だったか、分かるか? 俺は筋トレの時間削ってテメェのヘタクソフェラ●オ受けてたんだ。慰謝料も払えや!」

「うん、3万でどう?」

「0が足りないだろうが。300万だよ。払えよ?」

「……うん」

「ガッハハハハハハハハ、300万ゲットぉー! それくらいしてもらわないとナァ。な? お嬢ちゃん」


 横にいた鵲さんの肩にボンッ、と手を置く、カッコイイ龍弥くん。


「400万払うので今すぐ消えてもらえますか?」

「ア?」

「すみません言葉足らずで。今、此処ココで100万円の札束4つ渡すんで、どっか消えてください」

「え」


 言うやいなや鵲さんは、ポケットをゴソゴソし始める。


「どうぞ」


 出てきたのは、ガチの札束×4。


「え、マジでいいんか?」

「いいですよ。わたし、ホモサピエンスの大ファンですから。ホモサピエンスをいじめる人なんか、ホモサピエンスに付きまとわないでほしいんで。さっさと消えろ!」


 肩に置かれていたごっつい手を思いっきり振りほどいた鵲さんは、


「行こ、ホモサピエンス」


 俺の腕を取り、


「ちょっ、痛いって」


 俺は遠くへ連れ去られちまった。

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