第8話 相談になってない相談

 久留宮ミィ子は幼馴染ってだけじゃなかった。俺は内心、彼女が好きだったんだ。ケンカしたこともあったし、イジめられたこともあった。あいつは結構強気な女だから、俺が下になっちまうことが多かった。でも、どこかでそんな彼女を受け入れていた。夜中、トイレに一人で行けないとか言って俺に泣きついてきたとき、俺は自然とミィ子の肩を押さえて「大丈夫」と勇気づけた。下り坂の石ころだらけの道を一緒に歩いてたとき、「怖い」っていうから、手をつないで歩いた。なぜか俺だけが坂をずり落ちて脚から血を流し、わんわん泣いてしまったんだが、「ごめんね、手放しちゃって」と謝ってくれたミィ子の泣き顔を、今だに覚えている。


 懐かしい思い出だぜ。泣けてくる。


 でも、あの時……

 あいつが言った一言が、俺を変えた……


「浮気してんじゃねーよ!」


 俺は耳を疑った。


 中二の、夏だった。


 話をよくよく聞くと、どうやらたまたま会ったTという女子と一緒にいたところを見られたらしかった。ただ単にスーパーに買い物に来てて、Tに出くわしただけで。でも、夏休みに知ってる人にばったり会ったらテンション上がるじゃん。で、俺とTは途中まで一緒に帰った。

 その帰路を、偶然ミィ子に見られたらしかった。


 ⁂


「で、あなた何て答えたのかしら」


 鞭を持った花京院お嬢様。あまりにもひどい俺の発言の責任として、俺は花京院お嬢様の椅子になっている。四つん這いになった俺の背中に花京院お嬢様がお座りになり、鞭で尻を叩かれている。


「いたっ」


「そう答えたのね」


「ちげぇよ! 俺は否定したさ、浮気なんかしてないって! でもあいつは」

「浮気したのに否定した、ですって? 鼻の下伸ばした最低の種豚が!」


 バシッ


「いったあああっ」

「そこは正直に認めなさいな。話はそこから始まるでしょう」

「だからマジでしてないっつの! ただ会っただけで、ただ途中まで一緒に歩いてただけで」


「どんな話してたの?」

「唐辛子の話してただけだ」

「へ?」

 

 目をまん丸くする足摺さん。意味不明ってレベルじゃないらしい。


「その子さ、唐辛子が好きだったんだよ。でも俺は辛いの苦手で、どうして辛いのを食べられるの? 的な話になって」

「私は麻婆豆腐に鷹の爪入れる派だよ?」

「知らねーよ!」

「そこに七味唐辛子も入れるんだけどね」

「にこにこしながら言われても!」


 清楚だからって何でも許されるってわけじゃねーぞ。麻婆豆腐どっから出てきた!


「その子、おっぱいあった?」

「あったよ。見ないようにしてた」

「あのさぁ切幡くん、ちょっと顔に針刺してもいいかなぁ」

「やめろ!」


 しまった、鵲さんは貧乳だった。まな板みたいな胸を考慮すれば、嘘でも「まっ平ら」と言うべきだった。


「ちなみに切幡くん、おっぱいは巨乳と貧乳どっちが好き?」

「俺は男の胸にしか興味ない」

「やった、わたしにも希望はある!」

「あんた女だろうが!」


 平らだからって男の胸と一緒にするって発想、諦めが早すぎるだろ!


「でも、切幡くん勘違いされてカワイソウだよぉ……何かできないかな」

「そうだねー……私たちが直接、久留宮さんに誤解を解きに行こうかな」

「いっそ、喉奥とマン奥を鬼調教して目覚めさせるっていうのはどう?」


 おい、最後のおかしいだろ。


「無理だよ。あいつは浮気って決めつけてるんだから。何度も説明したし、誤解だって言ったよ。でも無理だった。思いっきり顔面引っぱたかれるだけだった」


「ガチムチスキンヘッドに思いっきり顔面と尻引っぱたかれてハァハァしてる今の切幡くんだったらイケるよ……ハァ、ハァ♡」

「そこまでされたことはない! てかなんでハァハァ言ってんだ鵲さんは!」

「え、意外だね」

「……でも、ちょっとだけされたいかも」

「ハァ、ハァ♡」


 やらかしたッ。


「切幡くん、今、『ちょっとだけされたいかも』って言った? 変態だね」

「……すいません」


 ふふっ、とほほ笑む足摺さん。合わせる顔がない。


「なんならわたくしがおもいっきり引っぱたいたあとにおもいっきりハイヒールで腹に穴を開けて差し上げましょうか?」

「是非お断りします」

「うう……ぴえん、ですわ……」


 落胆してorz状態になった花京院お嬢様。あんたも人間としておかしいから誰かに治療してもらえ。


「でもいったいどうしますの? これじゃ一生ガチホモですわよ? 結婚もできない上に、子どももできないうえに、将来孤独死ですわよ?」


 花京院お嬢様のジャブ。


「ふっ。彼氏見つけて孤独死を回避すればオールOKだろ」


 見事にかわす俺。


「でもさ、切幡くんってどちらかというとガンガン責める大男的な人がタイプじゃない? そういう人って乱暴だろうから、ドメスティックバイオレンスとか怖くない? 金銭的な方面でも危険な香りがするよね」


 足摺さんのアッパー。


「受け入れる態勢は整ってる。ガチホモをなめないでほしい」


 なんとかガード。危なかった。


「で、でもさぁ、切幡くんってぇ、いっつもフられてるからぁ、このままだと結局孤独死だよね? 残念だよぉ」


「う……」


 鵲さんの顔面クリーンヒット。


 KO負け……


「俺はどうすればいいんだアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」


「ちょ、発狂はおよしなさい」「落ち着いて」「写メ撮ろ!」


 最後のおかしいだろ! 鵲さん!


「あら、鈴音なかなかいい写真ですわね」「本当だね。あとでクラスのホモグループに上げといて」「りょーかいですっ」

「やめてくれ!」


 なんだよホモグループって! んな組織作って、俺を虎視眈々こしたんたんと狙ってたこと白状したな!


「ホモをバットで殴る写真も撮りたいですわ♡」「夕暮れ時に二人のホモがキスし合ってる瞬間とかいいかも。陽光が唇の隙間から……♡」「わたしはやっぱりホモに犯されてる自分自身の写真が欲しいなぁ♡」


 だから最後のおかしいだろ! 鵲さん、ホモに犯されたいってそれもはやホモ男じゃなくて普通の男でいいだろ! まあ普通って表現が妥当かどうか分かんないけど。


「ちなみにわたし、切幡くんが『6本の肉棒』の登場人物に犯されてアヘ顔になってる写真も欲しいかも……ハァハァ、ハァハァ」

「もはや合成写真だ! てかその作品、俺の書いたやつだ!」

「それなら……二本松檀次郎だんじろうが私をぎゅってしてくれる写真ほしいよ……アハハァ」

「足摺さん、普通の少女漫画読んだ方がいいと思う」

「わたくしは尊敬するマリーアントワネットが六部背ろくぶせ血部差ちぶさにロウソクプレイでイかされている写真がほしいですわ……アーッハハハハハ」

「あの、お嬢様怖いっす」


 ちなみに六部背血部差は俺の作品には登場しない。いったい誰だ。あと、「パンが食べれないならお菓子を食べればいいでしょ?」とかのたまうのかな、この人。


「あなた、何か思うところがあるのかしら」

「……そろそろ椅子プレイをやめてほしい、ってことかな」

「正直に言いなさい? わたくしの使用済みパンツを口に詰め込むか、わたくしの使用済みパンを口に詰め込むか、選ばせるわよ?」

「後の方意味わかんないってレベルじゃねーぞ!」

「わたくしの濡れそぼった股間にぎゅうぎゅうと押し付けた山◎製パンのダブルソ●トですわ! 美味しいですわよー♡」

「全山◎製パン社員に謝れ!」

「やかましいッ」


 バシッ


「いったあああああああああああああああっ」


 横で、うふふ、と笑う足摺さん。哀れな俺の写真を撮る鵲さん。

 あのマジで写真バラまくのだけはやめてくださいね、お願いです。

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