relive_the_end_of_world_17.txt

「早く早く!」

「ほかの人に、とられちゃう」


 この姉たちは聞く耳を持たない。

 BMIを被りながらベッドに倒れ込む。当然のように俺のベッド。


「まあ、良いけどさ……」


 何も見つからなくて起こるんだろうなぁ。

 そんな事を思いながら、BMIを被る。




 セミの声。

 何度目か分からない、廃墟の街。


「祈! 行くよ!」

「おーっ!」

「でも、どっち行けば良いんだ!?」

「……うん?」


 ログインすると、二人の姉がそんなやり取りをしていた。


「こっちだよ……」


 計算した座標は、東京のほど中心。

 入り組んだ細い路地を幾つも抜けたその先だった。


「ここは……」


 少しだけ開けた空間。

 見上げれば、細いビルに切り取られて狭い空。


 剥き出しの配管。

 倒れたポリバケツからは残飯が溢れ、臭気を放っていた。


「にゃー」


 野良猫が早足で通り過ぎて行った。


「「何も無いっ!」」


 振り向けば、姉妹が怒りを露わにしていた。


「だから言ったじゃねえか。何も無い、って」


 それはゆず葉も言っていた通り。

 しかし、本当に何も無いのだ。

 ただの薄汚い路地裏。


「参ったな……」


 何も分からない。

 そんな時、


「とりあえずほるかー」 

 

 ふと、そう呟いて、祈がふらふらと歩いて行ってしまった。


「あ、ボクもー」


 後から詩も続く。


「詩姉? 祈姉?」


 数分後、小型ユンボ、いわゆるショベルカーに乗った姉妹が戻って来た。小型、と言ってもこの路地には大きすぎる。側面をガリガリとビル壁面に擦っているが、お構いなしだ。


「それ、なに?」

「「ゆんぼ」」


 二人が答えた。


「これもデフォルトデータに有るんだよねー」


 そう言いながら、アスファルトを豪快にめくり始める。


 2時間後、路地裏は完全にアスファルトが取り除かれ、地面が露出していた。

 しかし、何も見つからなかった。


 そんな時、


「しかたない。とばそう……」 

 

 ふと、そう呟いて、祈がふらふらと歩いて行ってしまった。


「あ、ボクもー」


 後から詩も続く。


「詩姉? 祈姉?」


 数分後、爆弾を山ほど抱えた二人が戻ってきた。


「一応、聞いておくけど、それ、どうするの?」

「さらち、にする」

「は?」

「だから、この辺の建物全部吹き飛ばせば、何か見つかるかもしれないじゃん!」

「待て待て待て。仮に何かが有ったとして、それごと吹っ飛ぶぞ!?」

「やむなし……」

「運良く見つかれば、それでおっけー」

「だけど、私たちのモノにならないなら」

「跡形もなく吹っ飛べば良いと思うよ!」

「さいですか……」


 魔王みたいなこと言ってんな。この姉妹は。

 数時間後、周囲のビルもなぎ倒し、巨大なクレーターが生まれていた。


「中々、清々しいですなぁ」

「かいかん……」


 爆心地でそんなことを呟く姉妹。


「なあ、最初の目的、忘れてない?」


「「あ」」


「や、やだな! 忘れてるわけないじゃん!」

「そうだよ」

「あ、って言ったよな……」


 しかし、ここまでしても何も見つからなかった。

 爆発で吹き飛んでしまったのか、そもそも何も無いのか。


「かくなるは、もっと強烈な爆弾で……」

 

 詩がそんなことを言い始める。


「――いや。時間制限タイムリミットだよ」


 六時間、このゲームの滞在可能時間が経過したらしい。

 見上げれば、微かにオレンジを帯びた夏空に引かれた、無数の光の筋。

 流星のようなそれは、実は核の雨。

 数秒後、視界が真っ白に染まる。


「結局、何も分からなかったな……」


 呟きながら、ログアウトが完了することを待つ。


「……あれ?」


 いつもと違う。普段なら、このまま視界が真っ白に染まり、気付けば現実世界のベッドで目が覚める。しかし、今は何処だか分からない場所に立っていた。


 静かな森の中。

 見たこともない、和風の建築が佇んでいた。

 ただ、今まで見たどの歴史的建築にも当てはまらない、奇妙な風貌だった。


 まずは、不思議な門のようなオブジェ。

 赤、というよりは生々しい。朱色に塗られた門だ。

 漢字の「円」のような形をしている。


 その門を潜って、石畳が建物へと続いている。

 建物の両脇には、獅子のような生物の石像。

 それが左右に一体ずつ並んでいる。


 そして、建物正面に置かれた巨大な箱。

 その上に、大きな鈴が吊られていた。


「……ここは?」

 

 建物に向かって歩き始めた時、視界が真っ白に染まった。

 

 気が付けば、自室のベッドに寝転がっていた。

 今度こそログアウトしたらしい。


 セミの声。

 夕日が窓から差し込んでいる。

 鮮明な景色が脳裏から離れない。


「今のは、何だったんだ?」 

 

 ぼんやりと、そんなことを呟いていた。

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