relive_the_end_of_world_8.txt
「「帰れないよ?」」
さも当然のように、姉妹は言った。
「どういうこと?」
「6時間きっかり、この世界からは出られない」
「死ぬまで」
「あー、なるほど……」
この世界の趣旨はこうなる。
一、6時間後、核ミサイルの雨が降り注ぎプレイヤーは死亡(強制)
二、それまでは自由
要するに、
「明日、死ぬとしたら何をしますか?」
というありがちな質問を、実際に体験してみようという趣旨だ。
少しでもリアリティを追求するため、6時間は現実に帰れない。
そういうことか。
「ヤバいな……」
思わず呟いた。
「いちおう、安全装置は動くけど?」
祈が言う。
「まあ、確かにな……」
BMIには、異常事態を検知して、強制的にシャットダウンする機能が備わっている。
例えば、異常な揺れ、温度上昇、二酸化炭素濃度の上昇、などの外部要因。
或いは、脳波の乱れ、血圧の上昇、発汗、などの身体要因。
「でも、生理現象は関係ない」
「「うん?」」
二人が首を傾げる。
「分からないのか? トイレに行きたい、ってのは生理現象なんだよ」
「「え!?」」
姉妹が口元を手で覆う。
しかし、
「何だ。そんなことか」
と詩はすぐに笑で出した。
「こっちに来る前に、ボクはきちんと済ませたよ」
「私も」
当然、と胸を張る。
「「遠。もしかして……」」
ぎりり、という音を聞いて、自分が強く歯を噛みしめていたことに気付く。
「……ああ。……その、もしかして、だ」
さっ、と姉妹が距離を取る。
「くっ――」
二人のあまりに当たり前の反応に、屈辱を覚える。
そんな俺の傷心を知ってか、二人がおずおずと距離を詰めてくる。
「……遠。ボクたち、今更、おねしょくらいで気にしないって!」
「おねしょ……」
その四文字の言葉の響きが強烈。
確認しなかった俺にも非はある。
確かに、初めてのVRで舞い上がっていた。
しかし、今時、6時間強制ダイブ仕様なんて普通ではない。
十六歳の誕生日。
そして、おねしょ。
これは、辛い……。
「ボクたちの仲じゃん! お互い、恥ずかしいことはだいたい知ってるし、1つくらい増えたところでさあ。ねえ?」
「ん。一緒にお風呂に入った仲」
左右から二人が、ぽんぽん、と遠慮がちに肩を叩く。
「詩姉。祈姉。まだ気づいてないのか?」
「「何が?」」
「現実の俺たちが、今、どんな状況なのか」
「「……へ?」」
数秒後、二人の顔が真っ青に変わる。
面白いくらいの速さで。
そうなのだ。
今、俺たち三人は川の字で寝ている。
決して広くはない、一人用のベッドで。
「え、え、遠!? どうにか、どうにかしなさいよ!?」
首根っこを掴まれて、がくん、がくん、と揺さぶられる。
「……わ、悪いけど、俺にはどうしようもない」
「そんな……」
がくり、と詩が項垂れた。
終わる世界の波打ち際で、三人並んで座っていた。
夏の日も傾いてきたらしい。
空気に、ほんのりとオレンジ色が混ざり始める。
聞こえるのは、波と、当ても無く吹き抜ける風の音だけ。
「世界の終わりだ……」
詩が呟く。
誰も何も答えない。
「ぴしゃん」
と遠くで魚が跳ねた。
「ボクはもう……お嫁には行けないんだね?」
「ご、ごほっ!」
詩の言葉に、思わず咽る。
隣に座っていた祈が背中をさすってくれる。
「……詩姉?」
「ボクは汚されてしまったからね。……君に」
「なっ――」
心臓が一回り、キュッ、と縮んだ気がする。
「いや、まだ、粗相をした決まったわけでは……」
「でも、遠、コーヒー飲んでたじゃん」
そうなのだ。
利尿作用のあるコーヒーを飲んでいた。
読書のお供に。
詩は遠くを眺めながら、
「生涯独身かぁ……」
「身軽で楽しいかもなぁ……」
「猫でも飼おうかなぁ……」
などと上の空で呟く。
そんな様子が痛々しい。
「詩姉……」
謝罪の言葉が見つからない。
「男女七歳、同衾するべからず。こういう意味なんだ」
祈が言う。
「いや。こんな特殊な状況を想定して、そのことわざは生まれていないだろ……」
「そうなの?」
「そうだろ……」
そうなんだ、と呟いて、祈は前を向く。
「海、きれい……」
などと呟く。
彼女は妹に比べて焦燥した様子は無い。
不思議なことに。
「……祈姉も、悪かったよ」
「ん?」
「いや、ほら。こんなことになってさ」
「気にしてない」
「え?」
「気にしてない」
気にしてない、と確かに彼女は言い切った。
「「祈(姉)!?」」
「気にしてない。だって、お嫁さんにはなれるから」
「どうやって? ボク、無理だよ……」
「なれるよ。遠の。ね?」
いや。
同意を求められても。
しかし、責任は取らざるを得ないのか……。
「うっ……、究極の二択」
詩が頭を抱える。
俺も頭を抱えたい。
祈が「気にしてない」と断言したのは、つまり、そういうことだ。
その時、既にオレンジ色に変わった夕空に、一筋の光が走る。
流れ星にしては遅いな、と思っていると
「「あ、ミサイル」」
と姉妹が呟いた。
数秒遅れて、視界が真っ白に染まる。
ミサイルが落下したらしい。
なるほど。
6時間が経過したらしい。
こうして世界が終わる。
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