relive_the_end_of_world_9.txt



「「あ、ミサイル」」


と姉妹が呟いた。


数秒遅れて、視界が真っ白に染まる。

ミサイルが落下したらしい。


なるほど。

6時間が経過したらしい。


こうして世界が終わる。





最初に戻ったのは匂い。

嗅ぎ慣れた自分の部屋。

それから、セミの声。


「うっ……」


下腹部に鈍い痛み。

一瞬、遅れてそれが尿意だと気付く。

ということは、未だ、決壊していない。


トイレに駆け込む。

安堵で泣きそうになりながら。








「詩姉。祈姉。良かったな。どこでも好きなところに嫁に行けるぞ」

「「大丈夫だったの?」」

「当たり前だろ」

「ざんねん」

「「祈(姉)!?」」

「ん?」

「……あ、いや、なんでもない、けど」


奇妙な沈黙。


「だけど、酷い目に遭ったよね!」


耐えかねて、詩が言う。


「relive_the_end_of_world。仮想現実の、黎明期の作品だな……」


こうした初期の作品は、こうした不備が有るらしい。

しかし、こんな不備に関わらず人気を誇るとは。


確かに、あの世界はリアルだった。

それにも関わらず、建物の座標をめちゃくちゃにした理由は謎だ。


「やっぱり、建物の座標が変わってたのが気になるよな……」

「またそれー? ゲームだからじゃないの?」

「そうなんだけどなぁ」


可能性として考えられるのは、ランドマークだけはきちんと再現して、残りの建物は適当、という場合。

しかし、あれだけ精緻に世界を造り込んでいるのだ。

それは考えにく。


デスクトップを起動。


やはり、人気な仮想現実だけあって、relive_the_end_of_worldに関連したブログも多い。

幾つかを適当にピックアップ。

張られたスナップショットから、比較的な綺麗な建物の写真を切り抜く。

その写真を使って、過去のストリートビューを検索。


「一致するな」


尽く、どの建物も、確かに一致する建物が存在する。


こうして検索してみた限り、きちんと建物を再現した上で、位置だけ動かしている。


「ちょっと、午後も潜ってみるか」

「「ええー」」

「何だよ? 終末系が良いんだろ?」

「好きだけど」

「あれは満足」

「マジかよ」


この姉妹は気まま過ぎる。


「しかし、まあ、人気だな」


ブログは幾つもヒットする。

人類、歪んでないか?


好奇心から、relive_the_end_of_worldの制作者の名前を検索欄に乗せてみる。


「F《フィリップ》・ローワン……」


検索を掛けるが、有名なVRデザイナではないらしい。

他に仮想現実をデザインしているわけではないらしい。

出てくるのは、relive_the_end_of_worldに関連した個人のブログがちらほら。


「……妙だな?」


呟くと、左右から姉妹が端末を覗き込む。


「遠。どしたの?」


詩が問う。


「いや。この作者、死んでるらしい。60歳くらいで」

「え!? 若くない!?」


通常の疾病なら、体内のナノマシンが予防してしまう。

先天的な病気も、出生前の遺伝子検査で弾かれる。

ここ数百年、人類が老衰以外で死ぬことはまずない。

現在、人間の平均寿命は127.4歳。

60歳は、あまりにも若い。


「ソースの出どころは良く分からな……。ブログで言ってるだけだから……」

「都市伝説、みたいな?」

「かもしれないな……」


過去のニュースアーカイブにアクセスする。

relive_the_end_of_worldが発表されてから数十年に絞り、記事を検索。


もちろん、未知の病気は存在する。

事故だって起こる(可能性は限りなく排除されているが)

不幸な例も発生する。

しかし、それは極めて稀。

稀すぎて、世間を騒がせる。

だから、


「……有った!」

「遠。これって……」

「ああ」


F・ローワンは死んでいた。

それも、自死。


命、つまり生きる権利は、自分だけのモノ。

自由にできる。

もちろん、放棄することも。

しかし、そんなことをする人間が……。


「ちょっと、気味が悪いかも……」

「ん。悪い……」

「そうだな……」


異様にリアルな世界と、制作者の奇妙な人生。

この仄暗さが、人々を引寄せるのか。


「もう一回、潜ろう」


思わず、呟いていた。









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