relive_the_end_of_world10.txt


「「眠い……」」


昨晩は夜更かししていたらしい。

初めての仮想現実が楽しみだったとか。

そう言い残して姉妹は帰ってしまった。


残された俺は、再び例の世界に戻る。


relive_the_end_of_world


きっちり6時間。

(今度は事前にお手洗いは済ませた)


セミの声。

そして広がる終末の世界。


「海沿いか……」


陽光に目を細め、呟く。


手近に鉄塔を発見。

錆びた登ってみる。


陽炎に揺れて、東京スカイツリーが見えた。

しかし、明らかに前回のダイブと場所が違う。


つまり、ダイブごとにわざわざ建物の位置を変えているということだ。


製作者ローワンさんは何考えてんだよ」


とは言え、これは予想通り。


仮に、何か意図があるとして、

意図は行為に現れる。


ダイブの度に、建物の位置を変換。

そこに「意図」が存在するなら、何らかの規則が存在するはず。

しなくてはならない。


「その為には、まずデータだな……」


欲しいのは航空写真。


この世界には物品を持ち込むことができた。

それも、かなり豊富。


世界最後の日、叶えたい願望は人それぞれということだろう。

ブログを漁れば、「百人でパーティをした」なんて記事も目に入った。


仮に無かったとしても拡張機能をインストールすることで持ち込むことができた。

俺が選んだのは、ドローンとカメラ。

それも、6組。

仮想の世界に、資源の制限は無い(ほぼ)


「行ってこい」


カメラを括り付けたドローン部隊を空へと送り出す。


12機で6時間。

これど東京全域の航空写真を撮ることができる。


あとは6時間。

何もやることのない世界で、時間を潰すだけ。


「しっかし、暇だな……」


規則を割り出すには、データが要る。

しかし、データを1セット取り出すためにきっかり6時間。

日に2回。

本気を出しても3回が限界か。


この夏はこの作業で潰れるだろうか。


「積ん読を消化って割り切るかぁ……」


なんとこの世界、書籍も持ち込むことができた。

テキストデータではなく、手で触れる紙の本として。

まあ、仮想現実の中だけど。


いや、でも、これ、現実世界としてること変わらない?


現実世界はそろそろ夕方だろうか。


次のページに指を掛けた時だ、


「異常な揺れを検知しました。ダイブを終了します」


無機質な声が響く。


「なっ!?」


瞬間、視界が真っ暗に染まる。





地震か。


すぐさまBMI(ブレインマシンインタフェース)を外す。


しかし、最初に目に入ったのは、少女の顔だった。


同じ顔が二つ。

仮想酔いかと思ったが、ただの双子だった。


「詩姉。祈姉。何してんだよ?」

「「起こした」」


俺を下敷きにしてるのが詩。

ベッドの端に腰かけているのが祈だった。


どうも、この二人が俺の身体を揺さぶったらしい。

それを異変と察知したBMIが、ダイブを中断したらしい。

(酷くクレイジーな行為。往来の人間を髪を、突然、ハサミで刈り取るくらいに)


この姉妹は、もう。


「うん。知ってる。何で起こしたの?」

「「構って」」


まじか。


「じゃあ、relive_the_end_of_worldに行かねえか?」

「や」

「飽きた」

「おい」


そもそも、この世界に俺を誘ったのは二人じゃないか。


「悪いな。俺の方はすっかり嵌っちゃったよ……」


目下、建物の位置座標が変わる謎を解こうとしている。

その旨を姉妹に伝える。


「謎じゃないよ!」

「しよう、じゃないの?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「遠がこうなったらしかたないよ……。詩。あきるまで待とう」


祈は言う。


「まあ、しょうがないかぁ。ボクたちを退屈させた責任はおいおい、ってことで」

「ん。そうしよう」


え、どういうこと。


「って言うか、データが揃うまでに夏が終わるぞ」

「「え!?」」


姉妹が目を見開く。

そして、囁き合う。


「遠、ひょっとして変態?」

「詩、知らなかったの? 遠は変態だよ」

「変態じゃねえよ」

「美人なお姉ちゃんより、廃墟が良いの? これって変態だよね!?」

「詩、知らなかったの? 遠は変態だよ」

「だから、変態じゃねえよ」

「廃墟と過ごす夏と」

「美人のお姉ちゃんと過ごす夏」

「どっちが良いの? 言ってみ!?」

「……は、廃墟」

「「変態だ!」」

「だから、変態じゃねえよ!」


酷い風評被害だ。


「そもそも、単に造形が整ってることを美人とは呼ばない」

「「しってる」」

「あ、そうですか……」


BMIを被り直す。


「時間が無いんだ。邪魔しないでくれよ」


なんせ、1セットデータを集めるのに6時間もかかるのだ。


「どうしようかなー」

「ん。どうしようかなー」


姉妹がくすくすと笑っている。


本当に、もう、この姉妹は。


「あ、いや。ちょと待てよ。これは使えるか……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る