relive_the_end_of_world_.11txt


再び、relive_the_end_of_worldに来ていた。


ビルの屋上。

眼下、広がる廃墟の街。

そして、空を埋め尽くすドローンの大群。


「壮観だな」


呟く。


今回、持ち込んだドローンは150機。

仮想現実に物的な限界は無い。

そして、150機の大群を以ってすれば、1時間も掛からずに東京全域の航空写真を撮ることができる。


しかし、もう1つ問題が有る。

1時間で写真を揃えても、この仮想世界はきっちり6時間は抜け出すことができない。


ただ、その問題も解決した。


不意に機械的な音声が響く。


「異常な揺れを検知しました。ダイブを終了します」


そして、視界が黒く染まった。







目を覚ますと、姉妹が俺を覗き込んでいた。


「「起きた?」」


と問う。


二人にお願いしたのは、1時間経ったら揺すって起こしてくれ、ということ。


確かに、relive_the_end_of_worldは6時間ダイブを中断することができない。

しかし、それは内部・・からの話。

外部からであれば問題ない。


「すまん。ありがとな……」


BMIを脱ぐ。


この方法なら、1時間でワンセット、データを集めることができる。

20セット有れば最低限。

これなら3日、頑張れば2日だ。


「全く。ボクを顎で使うとは良い度胸じゃないか」


今しがた俺を揺さぶった詩が呟く。


「分かってるよ」

「もちろん、借りは返してもらうけどね?」

「ああ。もちろん」


その言葉に、詩はニヤリと笑う。

その表情を見て、少し後悔。


「ん。これ」


枕元のミネラルウォーターのボトルを、祈が手渡してくれる。


「お、悪いな。…………辛え!?」


姉妹がくすくすと笑いだす。


「遠。引っかかったね」


詩が言う。


「どっちの犯行だよ?」


お互いが、お互いを指差す。


「どっちだよ……」


まあ、共犯なのだろう。



確かに、データは早く集まる。

しかし、この方法で良かったのか。

(主に、俺の身体は持つのか)


再び、次のダイブを始める。









しかし、それは杞憂に終わる。

3日後、十分なようなデータが集まった。


ダイブ一回につき、毎回違ういたずらを姉妹に受けた。


「あれだけのいたずら、良く思いついたな……」

「まぁねー」

「ん。けっこう、がんばった」


誇らしげな2人。


「そうか。もっと別のことで頑張ってくれたらうれしかったけどな」

「あ、お礼は別だからね」

「うん。まあ、そうだと思ったけど……」


こんなにデータセットが尊く思えるのは、それだけ苦労したからだろうか。


デスクトップには、東京全域の空港写真が22枚。

ざっと眺めた感じ、そこに規則性は無い。


「さて。どう料理しようか……」


国土地理院のデータベースから、過去の航空写真を入手。

フリーの画像処理ソフトを走らせる。

過去の航空写真と、仮想現実のそれ。

一致する建物の数をカウント。

航空写真の年代を替えながら、同じ処理を繰り返す。


もちろん、仮想現実の方は崩壊している。

損壊が激しく、認識出来ない建物も存在する。

しかし、一致数が最も多い年をモデルとして良いはず。


「2102年だな。だいたい、前後数年……」


「……ふーん。で?」

「だからなに?」


反応のが薄い姉妹。


「やっぱり、きちんと現実の世界をモデルにしてるんだなって」

「「だから?」」


現実世界の建物の位置を、動かしている。

この動かし方に規則が有るのか。

規則があるならば、その規則を設定したのは製作者。

だから、そこには製作者の意図が反映される。


見ず知らずの人間の意図なんか探ってどうなるのか。

二人の反応が自然なのかもしれない。


「でもさ、規則なんて分かるの?」


ようやく、祈が興味を示してくれる。

しかし、どこか眠たそう。


「まあ、人間には無理だな」


東京だけでも数十万の建物が存在するのだ。

これだけ多量の対象の規則を扱うことを、人間は得意ではない。

実際、眺めてみても何も分からない。


「パソコンを使うよ」

「どうやるの?」

「そうだな……」


携帯端末を取り出し、メモ機能を起動。


2→4

5→10

100→200


「左の数と、右の数。2つの間に在る法則が何か分かるか?」

「「2倍」」

「正解。で、どうやって分かった?」


「最初は「足す2」かと思ったけど、それだと他のに合わないから、」

と、詩が答えて、



「試しに2倍にしたら合った」

祈が続ける。


「PCにも同じことをやらせる」


適当に規則を当てはめる。

違うならば別の規則を当てはめる。

違うならば、さらにまた別の規則を……。


そうとう雑な説明だけど、極論すると機械学習はこういう仕組みだ。


計算機は1秒間にざっと1000京回の計算を行う。

数の暴力に任せて、無理矢理、計算してしまうのだ。


「規則、上手く見つかるの」


祈が問う。


「百点は難しいけどな。まずまずの答えは割と出るよ」

「「へぇ」」


オンラインで公開されている機械学習ライブラリをダウンロード。

PCにインストールし、建物の座標データを入力してやる。


待つこと、数分。


「「どうだった?」」



損失関数がどこまで行っても収束しない。

つまり、


「何の規則も無い……」





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