relive_the_end_of_world_14.txt



「解決してねえけどな……。先生は、relive_the_end_of_worldって知ってるか?」


その時、先生の猫背が微かに伸びる。


「ほう? それは興味深い」

「知ってんのか?」

「昔ね。1度だけ、行ったことがある」

「なあ、先生。あの世界、妙じゃないか?」

「……質問で返して済まないが、どういう意味だろう?」

「それは――」


精緻な世界で、建物の位置座標だけが狂っている。

そこに違和感を覚える。


「――ああ。そういう意味だね。だったら、そうだね。あの世界は、狂ってるよ」

「やっぱりか……」

「悩むまでもなかろう? 調べられるだけ調べたが、粗が微塵も見つからない。建物の位置座標を除いて。あれだけ完璧な世界を造り上げたんだ。何か意味が有る。ショートケーキの上に唐揚げがトッピングされていて、君はそれを偶然で済ますのかい?」

「済まさねえよ……」


その例えが適切かどうかは分からないけれど。

クリームの上に唐揚げが乗っていたら、きっとその理由を問う。

というか、確実に何か理由が有るだろう。


「疑う余地は無かろう?」

「あ、ああ……」

「どうかしたかい?」

「いや。詩姉と、祈姉は何も気にしてなかったから」

「シスコンめ」

「シスコンじゃねえよ!」

「まあ、あの2人はそんなこと気にする人種じゃなかろう」

「あー、それもそうか」

「それで、君は今、どこまで《・・・・》分かっているのかな?」


そう問われて、答えに詰まる。


「いや。何も……」

「ふむ。まあ、気付いただけでも大したものだがね」


そう言って、ゆず葉は卓上のクッキーを齧る。


「遠君はどんなアプローチを試したんだい?」

「航空写真を撮った。それを画像解析にかけて、現実の位置座標と比較した」

「うん。そこまでは正解だよ。次は?」

「機械学習にかけて、変化の中に規則を見つけようとした」

「見つからなかっただろう?」


さも当然のようにゆず葉は言う。


「ああ。見つからなかった」

「少し考えてみたまえ。機械学習だけで見つかるなら、それは隠れていないのと同じだ」

「前提条件の設定」

「呑み込みが早いねぇ。流石だよ」


ものすごく雑な説明をすれば、計算機の能力を使って、力任せに全ての組み合わせを試すことが機械学習だ。

しかし、ある程度の規模を超えると、流石の計算機の能力も追いつかない。

だから、絞りこむ。

それが前提条件。


例えば、サイコロのシミュレーションをしよう。

6面サイコロを振って、7以上の目が出ることは無い。

だから、計算範囲を1-6に限定すれば良い。


そうすれば、計算量を大幅に削減できる。


「いや。ちょっと待てよ。そもそも、製作者はその規則を隠したいのか?」

「だろうね。わざわざ、あんな世界を造るなんてややこしい真似をしたんだ。知られたらまずいんだろう」

「はあ!? だったら、そもそも、relive_the_end_of_worldなんて造らなければ良かったじゃねえか」

「くっくっく」


おかしそうに、ゆず葉は腹を抱えて笑う。


「遠君。まるで恋のようじゃないかな?」


そんな事を問う。


「……へ?」

「少し、想像してみたまえ」

「まるで、恋のよう……」

「シスコンの君には難しかったかな?」

「だから、シスコンじゃない……」


とは言え、そこまで情緒的な話でもないだろう。


「……要するに、特定の誰かには知って欲しいが、万人には知られたくない。そういうことだろ?」

「そうさ。面倒だねえ」


ゆず葉は愉快そうに笑う。


「その様子じゃ、先生はそこに何が有るのか分かったんだろ?」

「まあね」


ふふん、と鼻で笑う。

得意げな表情。


「何が有ったんだ?」

「おや。ネタばれになるけど、言っても良かったのかな?」

「あ、いや。止めてくれ」

「そうか。それじゃあ、言おうかね」

「おい!」


とう制止は聞かずに、勝手に話し始めるゆず葉。


「――あそこにはねえ。何も無かったんだ」


「……どういう意味だ?」

「言葉通りの意味だよ」

「でも、それじゃ……」


あそこまで複雑な世界を造り上げた意味とは。


「それは君自身で確かめてみればよいよ」

「何も無いのに?」

「そう。何も無い。行ってみれば分かるよ」


そう言って、ゆず葉はカップに口を付ける。

まるで表情を隠すように。


「最後に、一つ良いか?」

「幾つでも」

「あの仮想現実の作者、F・ローワンは60歳で死んでる」


平均寿命が120歳を超える現代、それは若すぎる。


「らしいね」

「しかも、自死だ」

「ああ。それも知っているよ」

「製作者の自死と、この謎。何か関係あるのか?」

「いや。仮に君が例の謎を解けたとしても、そこまでは分からないよ」

「そうか」

「これは私の想像に過ぎないが――」


しかし、先生は呟くように、こう付け足した。


「――有っても不思議ではない」



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