relive_the_end_of_world_15.txt

「最後に、一つ良いか?」

「幾つでも」

「あの仮想現実の作者、F・ローワンは60歳で死んでる」


平均寿命が120歳を超える現代、それは若すぎる。


「らしいね」

「しかも、自死だ」

「ああ。それも知っているよ」

「製作者の自死と、この謎。何か関係あるのか?」

「いや。仮に君が例の謎を解けたとしても、そこまでは分からないよ」

「そうか」

「ただ、これは私の想像に過ぎないが――」


しかし、先生は呟くように、こう付け足した。


「――有っても不思議ではない」




ゆず葉との面談後、再びrelive_the_end_of_worldの世界に来ていた。


最後の夏。

佇むのは、廃墟の街。

そんな風景をビルの屋上から眺めていた。


ゆず葉の話からするに、位置座標を動かしているのは、何か意味が有るらしい。

それは、まあ、そうなのだろう。

何の意味も無く、そんな面倒なことはしない。


しかし、その意図を明らかにするには、単なる機械学習では不可能。

前提条件が必要だ。


機械の計算能力は膨大、とは言え有限。

その限りある計算リソースで解を出すために、必要なのが前提条件。

条件を課して、計算回数を絞り込むのだ。


例えば、サイコロを振るシミュレーションをする時。

六面のサイコロなら、出る目は1~6まで。

だから、7とか、102とか、100,645,542,455が出る可能性は考えなくて良い。

これが前提条件。


「だけど、何が……」


恋のようだ、とゆず葉は言った。


誰かには知って欲しいが、誰にでも知ってもらっては困る。

自分はその、知ってもらいたい特定の誰かでは無かったということか。


その時、爆音。


視界の中央で、巨大なビルがひっくりと傾いていく。

一瞬、


「錯覚か……」


と自分の目を疑う。

しかし、ビルは確かに傾いていた。


重力に引きずられて加速度的に傾いていく。

そのまま遠目にはドミノのように倒れる。


轟音。

盛大に土煙を巻き起こす。

一分、遅れて届いた埃っぽい風が、前髪を揺らす。


「ボクの勝ちだね!」


そんなことを言いながら、詩が跳ねている。


「まだ、さんしょう、さんはい……」

「もう一回やる?」

「ん。やる……」

「じゃあ、次はあのビルで!」

「つぎはまけない」


relive_the_end_of_worldの世界に通い始めてしばらく経つ。

二人は別の仮想現実に行けば良いものを、何故かこうして付いてくる。


「「あきたー」」


と文句を言いながらも。


そんな彼女たちが編み出した新しい力がこちら。


1、巨大パチンコでビルに爆弾を交互に飛ばす。

2、ビルを倒壊させた方の勝ち。


要するに棒倒しだ。

棒倒しと違うのは、倒した方が「勝つ」ということ。


「詩姉。祈姉。それさ、……飽きねえの?」


試しに訊いてみる。


「「そろそろかな」」


という答えが返ってくる。


「さいですか……。で、その手榴弾は?」

「デフォルトアイテムから持ち込めるよ」


この仮想現実は要するに、


「明日、死ぬとしたら何をしますか?」


というありがちな質問を、実際に体験してみようという趣旨だ。


何でも好きなことをするために、大概の物は持ち込むことができる。

どこまでも精彩な世界でも、所詮はデータ。

欲しい物は無限に持ち込める。

もちろん、あまりにマニアックなデータは無理だけど(例えば、○○という有名店のどら焼き、みたいな)


「ビルを壊したいなら、大砲とかのほうが良いんじゃねえの? どうせあるだろ」


しかし、


「「はぁ」」


と二人は溜息を吐く。


「こっちのほうがゲーム感が有るじゃん!」

「遠は分かってない……」


二人に非難される。

理不尽だ。


「しっかし、どんだけ壊してんだよ……」


ビルの屋上から見渡してみれば、倒壊したビルが幾つも見える。

もくもく、と今だ粉塵が舞い上がっている。


「一、二、……七、かな?」


詩が言う。


「ん? 八、じゃないのか?」

「七だよ!」

「ん。なな」

「でも、八棟、壊れてないか?」

「ボクたちじゃないよ」

「さいしょから」

「あー、そういうことか……」


確かに、最初から壊れてるビルも在った。

終末世界だ。

崩れた構造物が在っても不思議ではない。


「……あ、いや。ちょっと待てよ。これ、おかしいぞ」


思わず呟く。

すると、


「「えぇ……。また?」」


姉妹が眉をひそめた。

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