巫女服の美少女

 こちらに向かって来る『巫女服』の少女。綺麗な黒髪をなびかせ、こちらへ向かってきた。


 ――って、巫女服!?


 この学校、自由すぎるだろう……。



「どうも、はじめまして。新生徒会長の篠谷しのや 四季しきです。」



 なんと向こうから名乗ってきた。

 しかも、新しく着任した生徒会長かよ。それが巫女服って……もうメイドがいる時点でアレなんだが。



「その篠谷さんが何か用?」

「ええ、そこの比屋根さんに」


 指を刺す篠谷。

 まさかの比屋根に用事か。


「……篠谷さん、また・・なの」



 また? どうやら、二人は面識があるようだな。俺は状況を見守る。



「この前の通りです。比屋根さん――貴女こそが“番犬”ですよね。だから、私は貴女が好きになっちゃったんです。いつも心臓がどうかなりそうで……あぁ、比屋根さんっ」


 身体をくねらせる篠谷。……この生徒会長、そっち・・・!?


 てか、番犬は俺なんだが。

 なんか勘違いしているようだな。


「だから違うって。番犬はわたしではありません」

「嘘ですよ。だって、比屋根さんよくツブヤイターを開いているじゃない! 私、見ちゃったんですから!」


 お前もフォロワーか!!

 しかし、これは100%誤解だな。


 比屋根が『助けて』と視線を送ってくるし。だけど、俺的にはもうちょっと先を見てみたい気もしている。うん、ちょっと比屋根を困らせてみよう。


「篠谷さんだっけ」

「貴方は?」

「俺は天川。このメイドの比屋根とは、そこそこの仲なんだけど――はっきり言おう、番犬は比屋根で間違いない!」



「ちょ!!」



 比屋根が涙目になっている。もしかして、篠谷ってそんなにヤバいヤツなのか? その瞬間、篠谷が比屋根に飛びつく。猫のようにスリスリとして揉みくちゃだ。



「比屋根さん、比屋根さぁ~~~ん! やっぱり“番犬”だったのですね。サクラちゃん、もふもふさせて下さいよぉ!」


「いやぁ~~~! ど、どこ触ってるのぉぉお……! 天川くん、た、助けてよぅ」



 ジタバタと抵抗する比屋根だが、抵抗虚しく篠谷に抱きつかれまくっていた。……なんだろう、この禁断の花園状態。いや、これはこれで……。


 記念に写真を一枚撮っておくか。


 スマホでパシャパシャ撮っていると、比屋根が『ぎぶあっぷ!』と叫んだので俺は、そろそろ救出を試みた。……でも、篠谷を引き剥がすには彼女の体に触れなければならない。神聖な巫女服に触れるのでさえ恐れ多いのに、これはちょっと……。


 セクハラ案件で訴えられたら、負けるな。


「すまんん、比屋根」

「ちょ~! 天川くん、名乗ってくれたら早いじゃん!」



 あ、そっか。俺が“番犬”ですと名乗ればいいだけの話だった。



「ストップ、篠谷!」

「なんですか、天川くん」

「この俺のスマホを見てくれ」

「スマホ? そんなの興味ありませ――え?」



 俺のツブヤイターのアカウント画面を見せた。そこにはフォロワー数百万人を超え、愛猫のサクラの写真が投稿されまくっている。



「嘘をついてすまん。俺が“番犬”だ」

「え……え? えええええええええええ~~~ッ!?」



 衝撃のあまり叫びまくる篠谷。すげぇ声量だ。そこまで驚かれるとはな。



「……うおっ、耳がキーンとした」

「ああ、天川くんが番犬!? うそ……てっきり女の人かと。というか、比屋根さんじゃなかったの!?」


 今も尚、その比屋根に抱きつく篠谷。次第に顔を真っ赤にして離れた。


「はぁ~、やっと解放された……もう、天川くん! 酷いじゃないっ」

「悪い悪い。つい出来心で」

「もぉー!」


 ぷくっと頬を膨らませる比屋根。少し不満気だけど、俺の背後に隠れるところを見ると、どうやら信頼は寄せてくれている様子。


「うそ……うそ、うそ。天川くんが番犬だなんて」

「これが現実だ。篠谷、お前も俺のフォロワーだったんだな。まさか生徒会長がなあ~。しかも巫女服」


「…………あ、ぅ! もぉぉお、お嫁に行けないっ!!」



 くるっときびすを返す篠谷は、両手で顔を覆って立ち去っていく。お嫁にはいけると思うけどな? 



「新生徒会長、面白い子だったな」



 あんまり生徒会長って感じじゃないな。巫女服だし。また話してみたいなと感じていると――比屋根が俺の頭を抱く。


 突然の行為に俺はビックリと共に動揺もした。今、俺の顔が比屋根のおへそのあたりにある……温かいし柔らかい。


「……」

「どうしたよ、いきなり」

「だって、天川くんを生徒会長に取られちゃうかと思ったから……」

「巫女服もいいよなぁ」

「ちょ! メイドさんの方がいいよね!? スカートの中に入る!?」


「なんでそうなるぅ!? スカートの中には入らないけど、でも、メイドの比屋根と過ごせる時間は貴重だ。俺なんかを構ってくれてありがとな」


 比屋根が暴走気味になってきたので、俺はなだめた。


「なんかじゃないよ。猫好きに悪い人はいないから」


 それから、昼休み終了を告げる予鈴が鳴った。そろそろ戻るか。

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