放課後の野球拳①

 気づけば放課後。

 空は茜色に染まってカラスが鳴いていた。いかんな、まったりしすぎた。


 古賀先生は、パソコンで事務処理をしているのか、ずっと机に向かったまま。こっちに興味なさすぎだろう。


 そろそろ帰ろうかとベッドを降りた時だった。保健室の扉が少し乱暴に開く。



「天川くんと比屋根さん、こちらにいましたか!」



 巫女服で保健室に入ってくる女生徒。生徒会長の『篠谷しのや 四季しき』だったかな。屋上で会って以来だったけど、元気そうだな。



「生徒会長、俺たちに何か用?」

「ええ、教室へ向かうとお二人の姿がなかったので。事情をクラスの方に聞くと、保健室に運ばれたと耳にしたので心配になって駆けつけてきたんです」


「それは悪かった。でも、もう平気だ」

「本当ですか? 天川くんって、病弱だって聞きました。私が看病してあげましょうか」


 俺の方に寄ってくる篠谷だが、比屋根が遮った。


「そ、それ以上はダメです!」


「比屋根さん……私は、かつて貴女を番犬だと思い込んでいました。けれど、その認識は間違いでした。今まで多大なるご迷惑を……ですが! 天川くんが番犬と判明した以上は黙っていられません」


「どうする気ですか?」

「決まっています。天川くんを私の夫にします!!」



「「は、はぁ!?」」



 俺も比屋根も驚く。

 篠谷のヤツ、何を言っているんだー!?



「というわけですから、比屋根さん……勝負して下さい!」

「しょ、勝負?」


「ええ、恥ずかしがったら一発アウトの野球拳で勝負です。ルールは――」



 なるほど、ジャンケンで負けた方が服を脱いでいき……恥ずかしいと顔を赤くしたり、言葉にしたりしたら敗北というわけか。羞恥心が勝敗を分けるな。



「なっ……脱がなければいけないの?」

「そうです。しかも、天川くんの目の前で! 彼がジャッジしますから」


 突然、審判を振られて俺は動揺する。俺がジャッジだって!? つまり、比屋根と篠谷が脱いでいく様を生観戦して、ちゃんと恥ずかしがっていないか監視するってわけか。


 俺からしたら、棚から牡丹餅ぼたもち。ラッキー展開。比屋根と篠谷の下着、あるいは裸を見れるかも……!

 とはいえ、その前にはゲームオーバーにはなりそうだけど、楽しみだ。


「分かった。それで、勝った方はどうなるの?」

「天川くんのお世話できる、それでいかがですか」


「――なッ!!」


「逃げるなら今ですよ、比屋根さん。だって、乙女の柔肌を天川くんに晒す事になるんですからね。そんなの恥ずかしくて死んじゃいますよね。私だってそうです!」



「そ、そんなこと……!」(めちゃくちゃ恥ずかしい~~~~~~!!)



 なんだか比屋根の心の声が聞こえるくらい、震えているぞ。明らかに動揺してるな。なお、古賀先生は「ほどほどにな~」とつぶやくだけで無関心だった。止めないのかよッ。


 そうして、比屋根と篠谷は向き合って対峙。俺の目の前で睨み合っていた。



「比屋根さん、準備はよろしいですか!」

「わ、分かった。やりましょ……」



 二人は見合って、何を出すか相手の顔色をうかがっていた。まずは、心理戦の探り合いってところか。



 長い一分が経過する頃、ついにジャンケンを始めた。



「「じゃんけ~ん――ポンッ!!」」



 比屋根:チョキ

 篠谷:グー



 なんと一回目は篠谷が勝利。バンザイして喜んでいた。一方の比屋根は……あぁ、死刑宣告を受けた被告人のように絶望してんな。



「……く、くやしい」



 めっちゃ落ち込んでる。あんな悔しそうな比屋根を見るのは初めてだな。



「さあ、一枚脱ぎなさい……比屋根さん!」



 俺の方を見ながら焦っているなあ。でも、まだ一枚目だ。脱げる箇所はまだまだ多い。


「ぐ……じゃ、じゃあ……カチューシャで」

「ちょっと卑怯ですね。でもまあ、いいでしょう。私が勝ち続ければいいだけの話」



 比屋根はまだ恥ずかしがってもいないし、勝負続行。しかし、その後も篠谷はジャンケンで三回連続で連勝。つええっ!


「な、なんで……」


 拳を震わす比屋根は、カフス、パンプス、ニーハイなど脱いで誤魔化していたが……いよいよ脱ぐものが無くなってきた。



「比屋根さん、雑魚ですね!」

「…………うぅ」



 篠谷のヤツ、容赦ねー。しかも煽りまくり。あんな比屋根が涙目になるところ、初めて見たぞ。ちょっと可哀想ではある。


 しかし、恥ずかしがってはいない。あくまで悔しがっている。判定は……オーケー。さて、ここから大勝負か。このまま比屋根が負け続ければ、メイド服を脱ぐ羽目になるだろう。果たして逆転できるのか……!?

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