放課後の野球拳②

 状況的に、比屋根はあとメイド服とスカート、それと下着ってところだろうか。一方の篠谷はまだ無傷。一枚も脱いでいない。

 ここから逆転するには、なかなか大変だ。俺が何かしてやれればいいんだが、生憎、そんな特殊能力はない。


 さて、どうする……比屋根。


 そんな緊張の中、古賀先生が俺の方へ寄ってきて耳打ちしてきた。


「竜くん、比屋根さんを勝たせたい?」

「……! 先生、必勝法があるんですか!?」

「うん。教えてあげてもいいわ。その代わり、先生とひとつだけ約束して」

「約束?」

「今度、あたしの家に遊びに来て。それが条件」


 ――なッ!


 古賀先生の家に!?


 そりゃあ、魅力的すぎるし……俺にメリットしかない。そんな事で比屋根を勝たせられるのなら……いいだろう。



「分かりました。それで、比屋根を勝たせる方法とは?」

「簡単よ。篠谷さんにはクセがあるようでね、グーの時は瞬きを三回、チョキの時は呼吸を浅くしている。パーの時は深呼吸しているわね」



 なっ、そんな微妙な仕草とか動きで分かったのかよ。凄いな、先生。これを比屋根に教えれば……勝てるわけか。仕方ないな。



「ちょっとタイム! 比屋根を休ませてやりたい」

「……分かりました。一分だけですよ」



 どうやら、篠谷は余裕があるようだな。堂々と立ったまま、絶望する比屋根を見下していた。



「おい、比屋根。しっかりしろ」

「だ、だって……次で下着姿だよ!? 恥ずかしいじゃん……」

「馬鹿、気持ちを抑えろ。俺のお世話が出来なくなるかもだぞ」

「……そ、それはだけは嫌!」


 まったく、じゃんけんでここまで打ちのめされているとはな。俺のお世話ができなくなったら、しばらく不登校になりそうな勢いだ。それは困る。


 俺は、古賀先生から教えてもらった“篠谷のクセ”を比屋根に教えた。



「――というわけだ。篠谷にはクセがあるんだ」

「な、なにそれ! それが分かれば勝てるじゃん」

「だろ? だから、俺を信じてくれ」



 古賀先生は、俺が気づいた事にしていいと言ってくれた。なので、ここはお言葉に甘えて俺情報として伝えた。


 これで比屋根は必勝。

 勝てるぞ!



「ありがとね、天川くん」

「いいんだ。俺は比屋根に勝って欲しい」

「う、嬉しい……嬉しくて泣きそう」

「その涙は勝利の瞬間にとっておけ」


 比屋根の背中を押し、再戦開始。



「おやおや、まだ諦めないのですね。どうせ、下着姿になるのですよ? 下手すれば丸裸ですよ、比屋根さん!」


「もう二度と負けない! 勝つのはわたしよ!!」


「言いますね。では、生徒会長の名のもとに徹底的に潰して差し上げます」



 再びじゃんけんが始まった。



「「じゃんけ~ん――」



 おぉ、瞬き三回、つまりグーだ!



「ポンッ!!」」



 比屋根:パー

 篠谷:グー



「やったあああああああああ!!」

「…………んなッ」



 初めて敗北した篠谷は信じられないと驚愕していた。おぉ、比屋根が勝ったぞ。



「さあ、脱いでよ、篠谷さん!!」

「くっ……屈辱」



 巫女服である篠谷には、ほとんど脱ぐ箇所がない。そう思ったが――



「ず、ずるーい! リボンとか!」

「比屋根さんだってカチューシャとか脱いだでしょ!」



 お互い様か。だが、ここから比屋根の反撃が始まった。どんどん勝利を決め、篠谷は草履ぞうり白足袋くつした、腕につけてたヘアゴムなどで何とか耐え凌いでいた。


 だが、いよいよ後がなくなった。



「さあ、篠谷さん! もうアクセサリーとかもないよね」



 どうやら、次で巫女服ゾーンのようだ。これで恥じらったら、負けだぞ。



「くっ……続けましょう」

「そう、容赦しないわ」



 次のじゃんけんの結果も言うまでもない、比屋根の勝利。



「そ、そんなあああああ……!!」



 がくっと床に手をつける篠谷。ここまで反撃されるとは思わなかったようだな。これで次は巫女服の上下どちらかを脱がなければならない。


 つまり、白衣の方か緋袴ひばかまのどちらかだ。となると、下着姿が露見する。俺にとっては天国、篠谷にとっては地獄。羞恥に耐えられるかどうか。それともギブアップか……!



「続行する? それか負けを認める?」

「か、勝てばいいんでしょ!」

「そう……じゃあ、仕方ないわね」



「「じゃんけ~ん――ポンッ!!」」



 比屋根:グー

 篠谷:チョキ



「ああああああああああああ……」



 篠谷の敗北決定。

 いよいよ脱がなければならないのだが……涙目でぷるぷる震えて恥じていた。これはアウトだな。俺は手を挙げて審判を下す。



「ジャッジ、比屋根の勝利!」


「いやったあああああああ~~~!」



 下着姿が見れなかったのは残念だけど、十分だろう。

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