メイドとお風呂

 保健室を出て、そのまま学校を出た。

 校門前で篠谷とは別れた。


「で、では……また明日」


 やつれた顔でトボトボ歩いていく生徒会長・篠谷。勝負前はあんな自信に満ちていたのにな。今では見る影もない。


「良かったぁ、勝てて。これでまた天川くんをお世話してもいいんだよね!?」

「ああ、比屋根がいる方が楽しいしな」


 なんか疲れてそんな言葉を口にしていた俺。


「……そ、そかそか。良かった」


 照れくさそうにもじもじとする比屋根は、嬉しそうに微笑んだ。あまりに良い笑顔だったから、俺はドキドキとした。



 * * *



 アパートに帰宅。

 早々にサクラが寂しそうな声を上げて出迎えてくれた。


「にゃー」

「おぉ、サクラ。勝手に専用部屋を抜け出して、玄関で待っていてくれたのか。さすが俺の嫁。良い子だ」



 サクラの頭を撫でようとした瞬間――ガブリと腕を噛まれた。



「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



「ちょ、天川くん! また!! またガブリって!!」



 比屋根がなんとかサクラを引き剥がしてくれた。だが、これはサクラ最大の愛情表現なのだ。俺は決して怒らないし、むしろ涙が出るほど感謝している。



「いいんだ、もう慣れているし」

「で、でも血がドバドバと!」

「構わんさ。血の一滴や二滴」

「いや……輸血が必要な量なんだけど」



 クラッと眩暈めまいがした。


 ああぁ、まただ。

 また俺は持病の眩暈めまいを発症してしまった。



「うぅ」

「って、ちょっとまって! 持病の眩暈めまいって、サクラちゃんのせいじゃない!? 天川くん、それ貧血よ!」


「――なぬっ!?」



 そうだったのか!!

 これって貧血による立ち眩みだったのか。知らなかった。それで俺はよくクラクラしていたわけか?



「とにかく、手当ね」

「いや、ツバをつけておけば大丈夫さ」

「そんな適当な」



 救急箱を持ってくる比屋根は、昨日と同じように手当をしてくれた。絆創膏でばっちり。


「ありがとう、比屋根」

「ううん、いいの。それじゃあ、わたしはお風呂入るね……」

「お、おう」


 立ち上がって浴室へ向かう比屋根だったが、足を止めた。



「……せ、背中、流そうか?」



 震えるような口調でそんな提案をする。まてまて、それって一緒に入るって事だよな。つまり、裸の付き合いをするって意味だ。


 俺と比屋根が!?



「いや、その……さすがにマズイだろ」

「いいの。今日、篠谷さんとの野球拳で勝たせてくれたでしょ。あのお礼がしたいし」


 あれは古賀先生の秘策だけどな。

 けれど、俺の手柄にしていいというから、そういう事にしておいたが……。これはちょっと騙すようで申し訳ない。


 そんな葛藤の中、比屋根は俺の腕を引っ張る。


「比屋根!?」

「お世話するって約束だもん」


 半ば強引に引っ張られ、脱衣所へ。

 本当に来てしまった。


「……どうしよう」

「ぬ、脱がせるから」


 マジで比屋根は、俺の服に手を掛ける。


「ちょぉ!? 分かった。自分で脱ぐ……先に入っているから、比屋根は後から来るといい」

「う、うん」



 比屋根には一旦出てもらい、俺は先に服を脱いだ。なんか変な気分だ……。


 全裸になって浴室へ。


 椅子に座り、比屋根を待つ。

 というか、扉に影が見えていた。

 女の子の形がそこにはあった。


 うわ……ボン、キュン、ボンってヤツか!!


 影ではあるものの、これはスゲェ……。



 少しして比屋根が入ってきた。

 やべ、裸だよな!?


 さすがに見るのはまずいと思い、視線を下にする。



「比屋根、俺は下を向いているから」

「だ、大丈夫だよ。こんな事もあろうかとビキニ持ってきたから」

「え?」


 振り向くと、そこには黒ビキニをつけている比屋根の姿があった。スタイル抜群だな……。しかも、脱ぐと凄いタイプ!


 零れ落ちそうな胸。

 引き締まった肉体。お腹。

 お尻もほどよく出ているし……なんだその手と足の細さ。肌が真っ白でまぶしい。ていうか、柔らかそうなほどツヤツヤのツルツル。


 どうしたら、あんな芸術的になれるんだかな。


「そ、そんなジロジロ見ないでよ……恥ずかしいから」

「いや、これは男なら誰でも見てしまうよ」

「小学生の頃から男子によく胸を見られていたけどさー」


 しょ、小学生で既にデカかったのか!

 いやしかし気持ちは分かる。


「それにしても、エロ……じゃなくて、綺麗な身体してるな、比屋根」

「そ、そうなのかなぁ? でも、天川くんにそう言って貰えるのは嬉しい。じゃあ、背中流すね」


 背中を向け、比屋根に任せた。

 シャワーを手に持ち、比屋根はお湯を出して流し始めた。あの小さく細い指で俺の背中を擦ってくる。


 おぉ、気持ちい。

 ここは天国かな。


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