ラインの友達リスト

 ふと気づくと、俺は眠っていたらしい。

 スカートの中から脱出すると、比屋根は正座したまま眠りこけていた。ヨダレを垂らし、気持ちよさそうに転寝うたたねしている。


 可愛い寝顔にドキドキしていると、直ぐそばにスマホが落ちていた。


 ……これ、ひょっとすると比屋根の?


 拾い上げて見てみると間違いなく比屋根のだった。自動起動する画面。ロックされているし、指紋認証しないと中は見られない。


 ん、指紋認証か。


 つい、出来心で寝ている比屋根の人差し指を拝借してみた。



『……カチッ』



 そんな不思議な音と共に、スマホのロックが解除されてしまった。……まさか、こんなアッサリ!


 試しでやっただけなんだけど……なんか罪悪感とか背徳感で凄いな、これ。


 でも、女の子の事を知りたいと思うのは男のさがなのである。このまま『フォト』とか『ライン』を覗いてみるか……(ドキドキ)。



 タップを続けると、フォトにはメイド喫茶の写真が出てきた。……なんだ、本当はめぐっちと仲いいじゃん。ツーショットが多いし、他のメイドとの写真もちらほら。あとは猫とか風景だったり。


 どんどんスライドしていくと、肌の露出が多い写真もちらほら。と、言っても自撮りだから、ツブヤイターとかインスタクラムなどのSNSにアップしているものがほとんどだろう。


 たまに過激えっちなのもあるけど、十八禁クラスは出てこない。……ちぇ。


 さすがの比屋根も、そこまではしないか。ハードルを上げ過ぎたなと思うと同時に、安心もした。他の男の写真が一切なかったからだ。つまり、比屋根に彼氏はいないし、過去に付き合いもなかった――と、思う。


 もっと進むと、俺の写真が出てきた。隣の席からこっそり撮っているし! これはまあ……嬉しいな。



 あとは『ライン』だ。



 フォトを盗み見ただけでもヤバいけど、ラインとなると人間関係を知れるわけだから……怖いな。まさか、他の男とか……いないよな。



 申し訳ないと思いつつ、俺は『ライン』をタップ。



 すると、そこには――



「……!!」



 なんだこれ……!



【友達リスト】

・竜くん♡(ご主人様)

・めぐっち

・ネクスト(メイド喫茶)

・パパ

・ママ



 なんと、たったこれだけだった。

 ていうか、ラインだと俺は名前登録なんだな。しかもハートつき。馬鹿丁寧にご主人様つき。



 ……俺が馬鹿だった。



 これを見たら、比屋根がいかに俺を思ってくれているか分かってしまった。……あぁ、何を疑っていたんだ俺は。まったくの潔白だったじゃないか。

 軽い気持ちで覗いただけなんだけど、これは申し訳なさ過ぎた。


 画面を戻し、俺はそっとスマホを返した。



 すまん、比屋根。

 俺が愚かだった、許してくれ。



 寝ている比屋根に謝罪していると、やっと目を覚ましていた。



「ふにゃー?」

「ふにゃーって、寝惚けすぎだろ」


「――はっ! 天川くん……あ、そっか。保健室だったね。……あれ、スマホがない」

「そこに落ちてるぞ」


「ああ、うん」


 ボケボケした表情でスマホを拾う比屋根は、少し顔色を変えていた。


「どうした」

「あのさ、天川くん……わたしのスマホ、触ってないよね?」


「は? はぁ!? さ、さ、触るわけないだろ!!」(←心臓が飛び出そうになった)


「うーん……気のせいかな、スマホが熱いんだよね」


 しまった。俺の手の体温とかスマホの発熱で本体が温かくなっていたようだ。そりゃ、疑うよなあ。



「ていうか、指紋認証なんだからロック解除できるわけないだろ」

「え? なんで指紋認証って知ってるの?」


「……あ」



 あああああああああああああああ……俺とした事が!!


 パスワードとか顔認証の可能性だってあったじゃないか。なのに、指紋認証だって知っているのはおかしいよな。


 非常にまずい!

 誤魔化せ、俺。


 なんとかして言い訳を考えろ。この場を何とかして乗り切るんだ……!! スマホを無断で覗きましたなんて言ったら、絶対に嫌われる。


「ま、まさか……」

「ち、違うって! 同棲している仲だぞ。それくらい知っていて当然じゃないか。比屋根がスマホいじっているシーンなんて自然と目に入るし!」


「あー、そか。天川くんがそんな覗くとかしないよね」



 ――――グブァッ!!

(心が軋む音と吐血が融合した混沌カオスの響き)



「……っ」

「ど、どうしたの天川くん? なんか体調が深刻なレベルで悪そうだよ? 救急車呼ぶ?」

「ご、ごめん……持病の眩暈めまいが……」



 俺は空気に耐えきれず、轟沈。

 再び横になった。

 そんな俺を比屋根は世話してくれた。



 ……泣きそう。


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