甘々な耳かきタイム

 激しく脈打つ心臓。

 ドキドキと五月蠅うるさいくらい響き渡り、俺は頭がどうかなりそうだった。


 比屋根は、俺の頭に手を伸ばすや否や……そのひざの上へ優しく落とした。俺は時が止まった。


 俺は今、積もったばかりの雪原の上にいるような気分だった。……ふわふわだ。これが、比屋根の感触。

 それだけじゃない。体温がわずかに伝わってきた。比屋根も緊張しているのか体温が急上昇していた。


「な、なあ……比屋根。本当に良いのか、俺なんかで」

「男の子を膝枕ひざまくらさせてあげるなんて……わ、わたしだって初めてだよぉ!」


 マジかよ。比屋根ほどの美人が初めてか。それってつまり――


「比屋根って彼氏いたことないんだ?」

「そんなの作ったことないし……!」

「そ、そうなのか。モテそうなのに」

「そうだね……告白されるけど、でも……」

「でも?」


「なぜかツブヤイターのダイレクトメッセージDMからなのよねー。それが気に食わないっていうか、嫌なの。どうせなら、直接言って欲しいって思うの」


 あー、今の時代、SNSとかラインで済ませるもんな。俺なんか、それすら勇気が出ないけど。


「そっか。じゃあ、俺が直で言ったらワンチャンあるかな?」

「…………」


 あれ、比屋根が固まった。

 これは……どっちなんだ?

 聞こうと思ったら、比屋根は耳かきを取り出した。沈黙の中で、甘々な耳かきタイムが始まった。



「……おぉ、比屋根。上手いな」

「めぐっちにやってるからね、それで慣れてる」



 めぐっちか。なるほどね、練習相手にしているわけだ。にしても、気持ちい……絶妙な加減で耳かきをしてくれている。プロだなあ。


 これは天国だ。

 このまま眠ってしまいたい。


 あまりに心地がよくて、俺は目を閉じながら願望を口にしてしまっていた。



「比屋根みたいなメイドが家にいたらなぁ」


「……え」



「あ、すまん。つい本音を漏らしてしまった、忘れてくれ」

「ううん、天川くんってアパートで一人暮らしなんでしょ。いいよ、わたしがお世話してあげる」


「冗談だったんだが……いいのか? 親とか困るんじゃ」

「親は大丈夫。基本的に、わたしが絶対だからね」


 どんな家だよ!?

 親が甘い人なのか。それとも、何か別の事情が……いや、詮索せんさくはよそう。きっといつか、比屋根の方から話してくれるはずだ。


「だとしても、同棲みたいになっちゃうし……本当に良いのか。男女でひとつ屋根の下に住むって事だぞ?」


「もう心に決めたの。わたし、天川くんのお世話をする! ご飯もお洗濯もお風呂だって……それに、夜の営みだって!」



 最後はまずい!!

 ああ、そうか……比屋根と住むって、そういう可能性もありえるのか。思ったより、リスクが高そうな気もしているけど……でも、男のロマンでもある。

 メイドと一緒に住めるという、滅多に叶えられない夢だ。


 しかも、超絶美少女の比屋根だぞ。断る理由がない。毎日が楽しくなるだろうし、なんだったら……将来は結婚とか。


 いや、まだそこまでお互いを知っていない。だから、これから知ればいい……? そうだな、そうだよな。俺は、比屋根の事をもっと知りたい。


 比屋根がどんな女の子で、どんな食べ物が好きで……どんな趣味をしているのか。好きなもの、嫌いなもの、どんな色が好きなのかとか全部知りたい。


 女の子の事を知りたい。

 男にしたら、当然の欲求だ。



「ありがとう、比屋根。俺のメイドになってくれ」

「天川くん……はいっ。わたしは、天川くんだけにお仕えします。よろしくお願いしますね、ご主人様」



 比屋根は目尻に涙を溜め、俺に飛びついてくる。なんて嬉しそうな顔を……そんな表情をされたら、もう止められないな。


 その後、まったりしていれば時間になった。さて、そろそろ家に帰るか。俺のメイドとなった比屋根を連れてな。

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