ストーカー先輩に断罪を

 VIPルームを出ると、めぐっちが出迎えてくれた。どうやら、ちょうど接客を終えたところのようだ。


「お帰りですね、ご主人様」

「あ、ああ……比屋根を連れて帰るよ」

「え!? オーナーを!?」


 そりゃ、当然の反応だな。

 まさか比屋根を連れて行くとは思わないだろう。


「めぐっち、ごめんね。わたし、天川くんのお世話しなきゃだから」

「え? え? ええ~~~!! ど、どういう関係なんですか……」

「そのうち話すから。じゃあ、お店は任せるね」

「は、はい……」



 ポカーンと茫然ぼうぜんとなる、めぐっち。手を振って別れた。



 お店を出ると、男が接近してきて――比屋根に話しかけてきた。



「あれ、比屋根さん? もしかして今から帰るところ?」

苅部くさかべさん……」



 苅部? 誰だ?

 比屋根の顔を覗くと、少し困惑していた。俺は、ちょっと顔を近づけて耳打ちした。


「なあ、比屋根。コイツは誰だ?」

「常連の苅部さん。同じ学校の先輩……猫っていうより、わたしが目的っぽくて毎日通っているみたいなの」


 あー、そういう事。

 確かに、このメイド喫茶は、めぐっちしかり可愛い女の子ばかりだった。その中でも比屋根はオーナーでトップクラスの容姿。学校でもメイドだし、有名人といっても過言ではない。


「暇なら、俺と喫茶店でもどうだい?」


 この苅部という男、俺を完全に無視して比屋根に話しかけている。なんて男だ。


「そういう気分ではないので。それに、わたしはこの天川くんと帰るところなんです」


 比屋根は、俺の腕に寄り添ってくる。……おぉ、ラベンダーのような良い匂い。しかし、苅部はそれでも俺を映る価値無し状態にして、比屋根にしつこく話しかけていた。


「いいじゃん。ちょっとくらい」


 ちょっとキレ気味に苅部は、比屋根の腕を強引に引っ張る。それはいくらなんでも酷過ぎる。女の子の扱いがなってない。


「い、いたっ……やめてよ、苅部くん!」

「大体、そんなダセェ男のどこがいいんだよ。そんなヤツより、俺の方が学校でも話しているし、メイド喫茶に通っているじゃないか!」


「学校では先輩相手の礼儀として話しているだけだし、メイド喫茶は当然、お客様として接しています。それ以上でも以下でもありません」


 比屋根がハッキリ言うと、苅部はついにキレた。


「嘘だ!! 俺と比屋根の関係は“恋人”だろ?」

「……は、はあ?」


 完全に困惑する比屋根。

 これはヤバいヤツだ。


 いい加減、なんとかしてやりたいが……相手とは体格差もあるし、そもそも、俺は暴力が好きではない。喧嘩なんて一度もした事がない平和主義なのだ。


 だけど、比屋根の事となれば別だ。主人として彼女を守る……!


「先輩だか何だか知らないけど、止めて下さい」

「あぁ!? お前はすっこんでろ!」

「そうはいきません。比屋根は、俺のメイドなんです」

「……あ? お前のメイドだ? ふざけんな、俺のメイドだ!」


 声を荒げる苅部は、興奮して発狂。拳を振り上げてきた。……やべっ、殴られ――気づいた時には、俺は視界がぐるぐる回っていた。道路に投げ出され、危うく車にかれそうになった。


 車が数センチギリギリで停車し、なんとか事故にならなくて済んだ。


「天川くん!! 大丈夫!?」

「……いってぇ」


 頬に大ダメージを食らった。まさか殴られるとは……暴行じゃないか。しかも、車にかれかけた。なんで俺がこんな目に……いや、それより苅部だ。なんて身勝手な男だ。最低な野郎だな。



「……酷いよ、苅部くん。殴る事ないでしょ!」

「そいつが邪魔するから悪いんだよ。もっと痛めつけて分からせてやる」



 向かって来る苅部。

 ま、まずいな……殺される。


 比屋根を守れず終わるのか……? くそう、こうなったら正当防衛の名の元に反撃を……む?


 停まっている車の中から、運転手が降りてきた。のそっと歩いてくる巨体。な、なんかデカいぞ……巨人!?


 運転手の男は、苅部の前に立つ。



「んだよ、おっさん!! ……って、デカッ!」

「おい、お前……ウチの娘に何しとるんじゃあああああああああああああ!!」



「え……うあああああああああああああああああ!!!」



 巨人のおっさんは、一本背負いで苅部を吹き飛ばす。ドンッと凄い音が響いて、倒れる苅部。白目をいて泡をブクブク吹いていた。



「まったく、私の目の前で暴力を振るうとはな。大丈夫か、まな

「……お、お父さん!」



 え、まさかこの巨人のおっさんは……比屋根のお父さんかよ!!


 髪はオールバック。顔にはいくつもの勲章のような傷。体格は大きく、筋肉質。なんていうか……怖ッ。

 おかげで助かったな……。だけど、うぅ! 殴られたショックで意識が遠のく。……だめだ、落ちる……。



 視界がブラックアウトし、俺は倒れた――。

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