美人メイドと同棲生活

 視界が悪い。

 まだ夢の中にいるような気分。

 俺はどうして……寝ているんだ?


 回復しない視界の中に、誰かの顔が見えたような気がする。


 こちらを見つめている?



「大丈夫? 天川くん」

「……? ……え? この声……比屋根、か?」


「そうだよ。今、車の中。天川くんのアパートに向かってる」


「俺の……」



 ようやく状況を把握はあくできた。

 俺は、どうやら比屋根父の車の後部座席に乗せられ……メイドの比屋根に膝枕ひざまくらされている状況らしい。


 ……マジかよ。



「天川くんの寝顔可愛かったな」

「……そ、そう言われるとちょっと恥ずかしいな」

「あ、でも動かないでね。さっき殴られたところ、出血とかしてるから」



 あー、そうだった。

 比屋根のファンという苅部という先輩から殴られたんだった。しかも、車にかれそうになるし……散々だ。


 ああ、そうだ。



「あの、比屋根のお父さん、助けてくれてありがとうございます」

「なぁに暴力は許せんだけだ。ちなみに……娘との結婚は認めんぞ」


「へ?」



 け、結婚って気が早いな。

 まあ、こんな状況では仕方ないか。


 車は、俺のアパートの前で停まった。ていうか、なんで知ってる!? ……ああ、比屋根が俺をストーカーしていたんだった。



 俺と比屋根は車から降りた。



「じゃあ、お父さん。わたしは天川くんのお世話するから」

「……お世話ってお前、二人きりで住む気なのか?」

「うん。もう荷物とかも運び終わってるもん」

「だけどなぁ……万が一、間違いとか」

「大丈夫。何かあっても天川くんが責任取ってくれるから」



 ちょ、比屋根さんー!?

 俺が責任取るのかよ……。

 なんだかなぁ。


 いや、けど、比屋根と同棲生活か。考えてもみなかったな……。そもそも、高校生。そもそも、同級生。そもそも隣の席。そんな彼女が俺と暮らす?


 最高じゃないか。


 喜んで責任を取ろう。



「……仕方ないな。まな、お前の我儘わがままはこれで三度目。もうないと思えよ」

「ありがとう、パパ! 愛してるよ~♪」

「ならいい!! だが、連絡は定期的に入れるんだぞ」

「うんうん」


 手を振って比屋根父とは別れた。

 車が少しだけ切なそうに去っていく。


 本当に良かったのかな。


 いやだけど、ついにアパート前にまで来てしまった。比屋根が隣にいるという、この状況がまだ夢のようだった。


「比屋根、俺のメイドなんだよな」

「うん。天川くんのこと、いっぱいお世話するからね。あとサクラちゃんも任せて!」


 主にサクラ目当てだろうな。

 きっと今は寝ているだろうけど。


 階段を上がり、二階を目指す。



「こっちが俺の部屋だ」

「二階の隅なんだ。良い所だね」

「まあな。……って、このダンボール……まさか」

「うん、わたしの荷物。引越し業者に頼んでおいたの」

「用意周到だな。じゃあ、荷物も運んでおくか」

「いいの? お世話になるんだし、自分でやるよ」

「それは違う。俺がお世話されちゃうんだから、ここは一緒にやろう」


「そ、そか。わたし、天川くん、お世話していいんだもんね」



 嬉しそうに笑う比屋根は、いきなり俺に飛びついて壁に押し付けてきた。



「ちょ、比屋根!」

「さっきは、ありがとね。先輩から守ってくれて……」

「いや、殴られたけどな」

「でもいいの。天川くん、かっこよかった……。身をていして守ってくれる人とか、もうそれだけでキュンときちゃった。わたし今、心臓壊れそうなほどドキドキしてる」


「お、俺もだよ。比屋根から抱きつかれるとか……」


 ……よ、良かったぁ。

 比屋根を守って!

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