えっちなメイド喫茶へ?

 教室へ戻り、午後の授業が流れていく。隣の席の比屋根は、メイド服のまま授業を受けていた。午前中もだけど本当にそのまま過ごすとは……。


 そうして時間が流れ――放課後。


 帰ろうと立ち上がり、かばんを持つと誰かに肩を叩かれた。視線を横にやると、そこにはニンマリ笑う比屋根の整った顔があった。……こうして見ると容姿端麗というか、黙っていればお嬢様って感じなんだけどな。


「どうした比屋根。まさか、一緒に帰るとか」

「一緒に帰りましょ」


 ですよねー。

 女子と下校……人生で始めての経験だ。果たして俺に務まるのか……怪しい所だね。しかし、周囲の男が誘う気配もないし、なら、俺が権利を戴こう。


「分かったけど、普通に帰るだけか?」

「ううん。寄り道しようよ、おすすめの喫茶店があるの」

「喫茶店かぁ。あんまり興味は……」

「実はね、わたしの経営しているメイド喫茶なの。天川くんなら、特別大サービスでおもてなしするから来て欲しいなぁ。えっちな事とかしちゃうよ」


 甘い声を出し、俺の耳元でささやく比屋根。


「ああ、決まりだな!」

「やったっ。じゃあ、帰りましょうか」


 そう言って喜ぶ比屋根は、大胆にも俺の腕にくっついてくる。……ぅお! なんて距離感だ。周囲のクラスメイトがざわつきまくっている。



「お、おい、比屋根さんが……」「嘘だろ、あの陰キャの天川に?」「ありえねー。なんでえ?」「あんなヤツのどこがいいんだよ」「メイドの比屋根可愛いなぁ」「くそー! くそー!」「いつかコロス!!」



 あーあ、なんかねたみが凄いぞ。

 けれど、比屋根はまったく気にしていなかった。堂々しているなあ。そんな一切動じぬ凛とした態度が凄いと思った。


 廊下に出ると、比屋根は発狂した。


「あぁぁぁっ、恥ずかしかったあああああああ!!」

「ええッ!? 比屋根、無理していたのかよッ!」

「あ、当たり前じゃん! 教室内であんなベッタリくっついて……今もすっごくドキドキしてる。もぉ~、どうしよう。お嫁にいけない……」


 比屋根、お前は生徒会長かっ。いやだけど、まさか本当は顔を真っ赤にするほど狼狽うろたえていたとはな。


「大丈夫だろ。比屋根ほど美人なら貰い手がいるって」

「じゃあ、貰ってくれる?」

「……なッ」


 これ、ひょっとして、からかわれてる!?


「うんうん、決まりだね」

「勝手に決めるなって。それより、喫茶店だろ」

「あー、そうだね」


 ようやく歩き出し、学校を出た。

 校門を抜けて徒歩でニ十分。

 なかなかの距離を歩いていくと、駅前の近くに『ネクスト』というメイド喫茶があった。こんなところにあったんだな。知らなかった。


「へえ、ビルにあるんだ」

「うん。三階を借りているの。見晴らしもいいし、結構広いんだよ」

「ていうか、今更だけど経営してるって言ったか?」

「そうだよ。わたしのお店」

「比屋根って金持ちの家なのか? お嬢様?」



 聞くと、比屋根は俺の手を恋人繋ぎして、握ったり離したりを繰り返した。なんか落ち着かない様子だな。てか、俺が落ち着かない!!



「な、なんだよ。そんな手を握らないでくれ……嬉しいからっ」

「あのね、ちょっと辛い話になるんだよね。だから、経緯とか話し辛いから……」

「そういうモノなのか? ああ、宝くじに当たったとか」

「ちょっと近いかな。言える事は、お嬢様ではないって事だよ。普通の女子高生」

「そうか、聞いて悪かったよ」


 いつか話してくれるだろう。その時を待つとして、今はメイド喫茶だ。ビルに入ってエレベーターへ向かう。

 乗り込んで上へ行く間も、ずっと比屋根は俺の手を握っていた。……なんだか、すっかり恋人みたいな雰囲気だ。でも、なんだろう……比屋根がちょっと辛そうだ。


 そのせいか、俺は手を繋がれているにも関わらず割と冷静だった。


 三階に到着して受付カウンターへ。そこには、比屋根と同じメイドさんがいた。



「いらっしゃいませ、ご主人様」



 おぉ、はじめてご主人様とか言われた。これがメイド喫茶か……すげぇや。



「こんちー、めぐっち~」

「あら、オーナーではありませんか。お帰りなさいませ」



 めぐっちとは、どうやら受付の黒髪メイドさんの愛称らしい。小さくて可愛らしい。目もクリクリして、ちょっとボーイッシュな感じが良い。

 にしても、衣装がエロいな。胸元が大胆にオープン状態。なんか気合入ってるなあ。


「めぐっち、この方はわたしのご主人様。VIP待遇にするので、わたしがお世話するからね」

「VIPですか!? しかも、オーナー自ら……凄いですね。も、もしかして……彼氏さん!?」


 なんか知らんが特別扱いしてくれるようだな。――って、誰が彼氏だ!?


「いや、俺と比屋根は同級生」

「そ、そうでしたか。でも、オーナーが幸せそうな顔していますよ?」


 比屋根の顔を見ると、ぽわぽわっとしていた。あれ、なんか別の世界に行っているな。


「天川くんが彼氏……それいい」

「おーい、比屋根。戻ってこーい」

「――ハッ! な、なんだっけ!?」

「なんだっけじゃなーい。世話をしてくれるんだろ?」


「そ、そうだった! めぐっち、個室借りるね。比屋根くんと凄い事・・・しててくるから」

「いってらっしゃいませ~」


 俺の手を引っ張り、比屋根はどこかへ向かう。ん、VIPルーム!? この店どうなっているんだ……?


 いったい、なにがはじまるんです……?

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