えっちなメイド喫茶へ?
教室へ戻り、午後の授業が流れていく。隣の席の比屋根は、メイド服のまま授業を受けていた。午前中もだけど本当にそのまま過ごすとは……。
そうして時間が流れ――放課後。
帰ろうと立ち上がり、
「どうした比屋根。まさか、一緒に帰るとか」
「一緒に帰りましょ」
ですよねー。
女子と下校……人生で始めての経験だ。果たして俺に務まるのか……怪しい所だね。しかし、周囲の男が誘う気配もないし、なら、俺が権利を戴こう。
「分かったけど、普通に帰るだけか?」
「ううん。寄り道しようよ、おすすめの喫茶店があるの」
「喫茶店かぁ。あんまり興味は……」
「実はね、わたしの経営しているメイド喫茶なの。天川くんなら、特別大サービスでおもてなしするから来て欲しいなぁ。えっちな事とかしちゃうよ」
甘い声を出し、俺の耳元で
「ああ、決まりだな!」
「やったっ。じゃあ、帰りましょうか」
そう言って喜ぶ比屋根は、大胆にも俺の腕にくっついてくる。……ぅお! なんて距離感だ。周囲のクラスメイトがざわつきまくっている。
「お、おい、比屋根さんが……」「嘘だろ、あの陰キャの天川に?」「ありえねー。なんでえ?」「あんなヤツのどこがいいんだよ」「メイドの比屋根可愛いなぁ」「くそー! くそー!」「いつかコロス!!」
あーあ、なんか
けれど、比屋根はまったく気にしていなかった。堂々しているなあ。そんな一切動じぬ凛とした態度が凄いと思った。
廊下に出ると、比屋根は発狂した。
「あぁぁぁっ、恥ずかしかったあああああああ!!」
「ええッ!? 比屋根、無理していたのかよッ!」
「あ、当たり前じゃん! 教室内であんなベッタリくっついて……今もすっごくドキドキしてる。もぉ~、どうしよう。お嫁にいけない……」
比屋根、お前は生徒会長かっ。いやだけど、まさか本当は顔を真っ赤にするほど
「大丈夫だろ。比屋根ほど美人なら貰い手がいるって」
「じゃあ、貰ってくれる?」
「……なッ」
これ、ひょっとして、からかわれてる!?
「うんうん、決まりだね」
「勝手に決めるなって。それより、喫茶店だろ」
「あー、そうだね」
ようやく歩き出し、学校を出た。
校門を抜けて徒歩でニ十分。
なかなかの距離を歩いていくと、駅前の近くに『ネクスト』というメイド喫茶があった。こんなところにあったんだな。知らなかった。
「へえ、ビルにあるんだ」
「うん。三階を借りているの。見晴らしもいいし、結構広いんだよ」
「ていうか、今更だけど経営してるって言ったか?」
「そうだよ。わたしのお店」
「比屋根って金持ちの家なのか? お嬢様?」
聞くと、比屋根は俺の手を恋人繋ぎして、握ったり離したりを繰り返した。なんか落ち着かない様子だな。てか、俺が落ち着かない!!
「な、なんだよ。そんな手を握らないでくれ……嬉しいからっ」
「あのね、ちょっと辛い話になるんだよね。だから、経緯とか話し辛いから……」
「そういうモノなのか? ああ、宝くじに当たったとか」
「ちょっと近いかな。言える事は、お嬢様ではないって事だよ。普通の女子高生」
「そうか、聞いて悪かったよ」
いつか話してくれるだろう。その時を待つとして、今はメイド喫茶だ。ビルに入ってエレベーターへ向かう。
乗り込んで上へ行く間も、ずっと比屋根は俺の手を握っていた。……なんだか、すっかり恋人みたいな雰囲気だ。でも、なんだろう……比屋根がちょっと辛そうだ。
そのせいか、俺は手を繋がれているにも関わらず割と冷静だった。
三階に到着して受付カウンターへ。そこには、比屋根と同じメイドさんがいた。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
おぉ、はじめてご主人様とか言われた。これがメイド喫茶か……すげぇや。
「こんちー、めぐっち~」
「あら、オーナーではありませんか。お帰りなさいませ」
めぐっちとは、どうやら受付の黒髪メイドさんの愛称らしい。小さくて可愛らしい。目もクリクリして、ちょっとボーイッシュな感じが良い。
にしても、衣装がエロいな。胸元が大胆にオープン状態。なんか気合入ってるなあ。
「めぐっち、この方はわたしのご主人様。VIP待遇にするので、わたしがお世話するからね」
「VIPですか!? しかも、オーナー自ら……凄いですね。も、もしかして……彼氏さん!?」
なんか知らんが特別扱いしてくれるようだな。――って、誰が彼氏だ!?
「いや、俺と比屋根は同級生」
「そ、そうでしたか。でも、オーナーが幸せそうな顔していますよ?」
比屋根の顔を見ると、ぽわぽわっとしていた。あれ、なんか別の世界に行っているな。
「天川くんが彼氏……それいい」
「おーい、比屋根。戻ってこーい」
「――ハッ! な、なんだっけ!?」
「なんだっけじゃなーい。世話をしてくれるんだろ?」
「そ、そうだった! めぐっち、個室借りるね。比屋根くんと
「いってらっしゃいませ~」
俺の手を引っ張り、比屋根はどこかへ向かう。ん、VIPルーム!? この店どうなっているんだ……?
いったい、なにがはじまるんです……?
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