お世話をしたいの

 ホームルームHRが始まった。

 体育系の担任・竝川なみかわが教壇に立つ。すると早々に比屋根のメイド服を凝視し、何事かと仰天ぎょうてんしていた。


「比屋根、なんだそのカッコ」

「事情がありまして、今日からメイド服で通う事にしました」

「そうか、ならいい」


 いいのかよ!!

 先生も割と自由人だな。あんな筋肉ムキムキの脳筋野郎なのに。グリーンベレーかよってツッコミたくなるほど屈強な大男である。


 比屋根は、俺の方に向いてドヤ顔でウィンクしていた。いいのかなぁ。



 ――そんなこんなで授業は進み、お昼休み。



「天川くん、お昼になったし一緒に食べましょ」

「……比屋根、ガチで俺に付き合う気か?」

「うん、付き合うっていうか……奴隷メイド?」

「馬鹿。大きな声で言うなよ、俺がヘンタイかと勘違いされるだろうがっ」



 もう既にクラスメイトの視線が凄まじいけどな。朝からずっと注目されているし、ヒソヒソ話をされていた。そりゃ、そうだよねえ。


「それじゃ、屋上へ行きましょうか」

「なんで屋上……」

「定番じゃん。ほらほら~」


 手を繋いでくる比屋根。うわ、そんな躊躇ちゅうちょもなくいきなり……いや、だけど比屋根のヤツ、耳まで赤いじゃないか。無理してるー!


 けれど、美少女メイドからこれほどアプローチを受けて、動かない俺もちょっとアレだな。クラスメイトのヒソヒソ話が加速しているし、これはどちらにせよ教室内に居辛い。


「分かった。付き合うよ」

「やった! じゃあ行きましょうか」


 手を引っ張られ、教室を出る。廊下を歩いていくと、騒然となる。そりゃ、学校内をメイドと一緒に歩ければ、嫌でも目立つ。なんか恥ずかしいな。


 階段を上り、屋上まで来た。


 扉を開けると春の暖かい風が頬をでる。う~ん、清々しい気分だ。


 そのまま柵の方まで向かい、腰を下ろした。比屋根は、スカートを上品に押さえて座る。そういえば、何気にミニスカメイドさんだな。ニーハイを穿いているとはいえ、絶対領域が際どいスカート丈だ。


「なあ、比屋根さん、いくらなんでも短すぎない?」

「そうかな? でも天川くんが気に入ってくれるならいいよっ」

「……そりゃ、本音は最高だけどさ」

「なら問題ないね。さあ、それよりお弁当にしましょ」


 そういえば、比屋根は小さなお弁当箱を持っていた。明らかにレディースサイズで少量しか入ってなさそうだ。

 蓋を開ければ、そこには『きゅうり』だけ入っていた。


「量少っ! シンプルだなあ」

「きゅうりとサラダチキン! 健康的でしょ?」

「比屋根はそれしか食べないの……腹減るだろう」

「あと野菜ジュースもあるよ」


 ひょっとして比屋根はベジタリアンなのか。まあ、人それぞれだし深く追求しないけれど。

 野菜オンリーの弁当に驚いていると、比屋根は箸を取り出して器用にきゅうりを摘まむ。それを俺の口元へ運んできた。


「え……」

「はい、あ~ん♡」

「え? まじ?」


「うん、天川くんのお世話をしたいの」


 あぁ~、これは目がマジなヤツだ。けど、よ~~~く考えろ、俺。こんな銀髪美少女のメイド比屋根から“あ~ん”だって? 最高じゃないかっ。これを断る理由なんてひとつもない。


 緊張の中で、俺は比屋根の“あ~ん”を受け取った。


 ぱくっときゅうりに口をつけると、それ予想を裏切る形で美味かった。……なんだこれ、やさしい塩味で口当たりが良い。



「美味いな。これ、比屋根が作ったの?」

「そう。料理得意なの。男の子に食べて貰ったのは人生で初めてだけどね」



 照れくさそうに箸を動かし、今度は比屋根がきゅうりを食した。……あ、間接キス。気づいてないのかな。

 続いて野菜ジュースを頂いた。ストローを差し、吸っていく。なんだか健康を感じる味だな。


 少し飲んだところで口を離すと、野菜ジュースを奪われた。それを比屋根は口につける。うわ、あの桜色の唇に挟まれて……全然気にしていないじゃないか。


「あのな、比屋根……ん!?」


 よく見ると比屋根の手元が震えていた。動揺しまくりー!? 目もグルグル回して、なんだか無茶しているようにも見える。


「……天川くん、美味しかった!」

「まて、俺を喰ったみたいに言うな。てか、比屋根はダイエットでもしてるのか? そんなに細いのに。いくらなんでも野菜中心すぎるし、肉も少しは食えよ」


 ぽわっと頬を赤くする比屋根。

 野菜ジュースをちゅーちゅー吸って、ややうつむく。


「だ、だって……おっぱい大きいから、その分の体重減らしたいじゃん……」


 ――なッ。

 俺はその裏事情すぎる理由を耳にして、固まった。そ、そうだな……比屋根の胸は服越しでもかなり大きい。一目瞭然の激しい膨らみ方だ。それでこんな食事制限を?


「ひ、比屋根は今のまま一番可愛いと思うけどな」

「……っ。ほ、ほんと……?」


「あ、ああ……本当だ。だから――」



 その時だった。

 屋上の扉が勢いよく開き、誰かがやって来た。なんだ……?

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