第7話 セール

「おーい! 少年! 大丈夫かぁっ!」


 盗賊団を木の根元に縛り付けていると、先程走り去った馬車が戻ってきた。街道の途中にある衛兵の詰所に助けを求めに行ったようだ。俺は安堵のため息をついた。これで、歩かなくてすむ。


「盗賊団なら、退治しておいたんで。木に縛り付けてあるから、捕まえてもらえると助かります」

「これだけの人数を相手に……一人でやったのか?」

「はい……。 あ、たまたま、運が良かっただけですよ! ははは……」


 何だか変な目で見られている気もする。怪しまれないように、俺は口調と態度に気をつける。


「いや、凄い! 冒険者ギルドの試験にでも向かうのか? これは、この国から勇者様が出るかもしれんな! がはははっ」

「はい、明日から試験なもので。早く、ルルマーに行きたいのですが……」

「そうかそうか! 頑張れよ、少年! あと、これを持って行きなさい。盗賊団の懸賞金が貰えるはずだ!」

「ありがとうございます!」


 俺は捕縛証明書なる紙切れを渡された。懸賞金がかかっていたなんて、いい事尽くめだ。しばらくは、生活にも困らないだろう。


『ハッピーバースデーセール!!』


 頭の中で、派手なファンファーレが鳴り響く。周りには聞こえていないので、俺は冷静に対処する。怪しい人物にはなりたくない。幸い、馬車の後部座席に座っている。寝てるフリをしながら声に集中する。


『16歳の誕生日を迎えたあなたに、お得なお知らせです! 最大90%オフ!! 欲しい技能モノをお得に!』


 何だか深夜の通販番組みたいなノリだな。それでも有り難い話だ。経験値なら、先程かなり手に入れた。女神の根回しなのかと疑ってしまうが、あまり深く考えても仕方がない。俺は頭の中で、まずステータスアップの項目を探す。


「やすっ!!」


 思わず口にしていた台詞。慌てて、口を塞ぎ寝たフリを続ける。手に入れたいと考えていた技能スキルも、ステータスアップに必要な経験値も50%は下がっている。こんなことが出来るなら、最初からサービスして欲しいものだ。たまたまなのか、意図されたものか。これもまた、考えても仕方がない。とりあえず、俺は全ての経験値を交換した。

 

 冒険に荷物は付き物。ここを解消しなくてはどうにもならない。俺はアイテム収納系の技能スキルを探した。四次元空間アイテムボックスが説明内容的にも、ピッタリな感じだ。アイテムを異空間に保管、取り出せるときたもんだ。


 六方晶の煌きロンズデーライトなる技能スキルを見つけた。最高の硬度を誇るロンズデーライトなる鉱物の如く、身体が硬化し防御力を格段に上昇するらしい。この世界ではHPの概念が見当たらない。防御力を上げ、攻撃に耐える力を得ることも必要なだ。


 竜の息吹ドラゴンブレスは、肉を食べて貯まっていたポイントを活かした。複数のモンスターを一掃するには、ピッタリの技能スキルだ。


 ステータスの体力と筋力にも振り分け、能力値をしっかりと上げておく。ここまででざっと300万の経験値を、俺は躊躇なく交換した。


 冒険者ギルドに入ると、職業ジョブを得られる。戦士や魔術士、僧侶など様々な職業ジョブがある。女神から授かる力であり、特有の技能スキルを覚えられる。ゲームでよく見るシステムだと俺は感じている。


 俺は個人的に、武道家、モンクといった格闘に特化した職業ジョブが好きだ。選択できるのであれば、迷わず選ぶつもりでいる。俺が個人的に考える難点は二つ。回復能力の欠除と、属性攻撃しか効果の無いモンスターとの闘い。残りの経験値でなんとか得たいものだ。


 俺は再び技能スキルを探した。そして見つけた俺は、また叫んでいた。


「よっしゃ!!」


 馬車の中で、クスクスと笑う声が広がっていた。俺はこのあと、ルルマーに到着するまで、ひたすら寝たフリを続けていた。

 


◇◇◇◇◇◇



名前:レオン・トラジール

職業:無職

レベル:1

ステータス:体力 S(45→80/100)

      筋力 SS(56→100/100)

      敏捷 C(40/100)

      魔力 D(31/100)

      精神 D(31/100)


技能スキル

魂の捕食者ソウルイーター

四次元空間アイテムボックス

竜の息吹ドラゴンブレス

六方晶の煌きロンズデーライト

女神の癒し

属性攻撃(火、水、風、土)

ステータス異常耐性(D)

急所攻撃耐性(D)

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