3章 ルマール
第11話 勇者との邂逅
「おい! あんた、勇者なのか!!!」
「だから、困っているんですって!」
「魔王退治は、任せていいんだな!!」
「ちょ、ちょっと!! 人の話を聞いてますかっ?」
俺が本来やるべき仕事ではあるが、『勇者』がいるなら話は別だ。自由気ままな冒険をして、今の人生を謳歌したい。俺は元々、出世意欲もないしな。普通が一番だと思っている。
そんな会話をしていると、馬車が到着した。乗客は俺達二人だけのようだ。乗込むと、馬車が走り出す。後部座席に座り、互いに話をすることになった。
「さっきは、いきなり話しかけてすまなかった。俺はレオン・トラジール。ルマールの産まれだ。16歳になったから、冒険者ギルドの試験を受けにきたんだ。よろしくな」
「私は、クレア・フローレス。あ、クレアって呼んでいいよ! 私もルマールの産まれなんだ。高等学校を卒業したから、ギルドの職員になろうと思っていたの……。なぜか、冒険者の試験を受けちゃたみたいで……。気が付いたら、『勇者』になっちゃったのよっ!! って、どうしてくれるのよっ!」
興奮して首をしめるのは止めて欲しい……。俺は首をしめている両手を振り解き、落ち着く様に促した。この世界にも教育機関があり、高等学校まで存在する。学問を学びたいものが通う場所だ。今更勉強してもなと俺は思い、中等学校から通っていない。家事の手伝いもあり、両親も無理強いしてこなかった。高等学校を卒業するのは、確か18歳。俺より歳上だな。
「なあ、クレア……。間違えに途中で気が付かなかったのか?」
「気が付いたら……負けよ!」
うっかりというか、天然とでもいうのか。それでいて豹変する性格。あまり関わりたくないタイプの人間だ。俺は、できればクレアに魔王退治という面倒臭いイベントを譲りたいと考えていた。
「でも『勇者』なんて凄いじゃないか! 100年に一人現れるかって位の
「嫌! 絶対に嫌! ランチにショッピングが楽しめない生活なんて、死んでも嫌!」
「ランチなら、家の店で食べさせてやるから、頑張れよ! クレアならいつでも
「え? そ、そうなの……悩むわね……。ちなみに、どこの店なの?」
「定食屋なんだけどな。『ノッジュ』ってとこだ!」
「ああ! アメリアのお店ね!」
「えっ……? アメリアと知り合いなのか……?」
「ジョギング友達よ。よく公園で一緒になるの」
終わった……。アメリアと繋がっているとなると、非常にまずい。確実に、『友達の護衛をしろ!』と命令されるに決まっている。命令は絶対だ。逆らうものなら、腕の一つや二つ、粉砕される覚悟を持たねばならない。俺の背中に嫌な汗がつたう。
話相手なんて要らなかった。一人で寝ていれば良かった。俺は後悔を胸にいだきながら、ルマールまで馬車に揺られていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ん〜っ! やっぱり、ルマールは落ち着くわねっ!
レオンもそうでしょ?」
「たった一日程度しか離れてないだろ……」
ルマールに到着した頃には日も暮れていた。帰りは何事も無く、到着の時間も早かった。腹も減ってきたし、早く家に帰ろう。俺はクレアに別れを告げ、家に向っていた。
「なあ……。クレアもこっちなのか?」
「違うけど? 夕飯食べないとなぁって、思っててさぁ!」
「ちなみに……どこで?」
「ノッジュだけど?」
俺は会話を続ける気も無く、無言で歩いていた。しばらく歩くと、目の前に我が家が見える。明かりもついているが、中に入ると片付けの最中だっだ。
「ただいま」
「あ、レオン! お帰りなさい!」
「姉ちゃん、夕飯まだなんだけど、何かある?」
俺はカウンターで水を入れたグラスを取ると、テーブル席に座って一気に飲んだ。喉の渇きがみるみるうちに癒やされていく。しばらくすると、テーブルに料理が二人分、アメリアが運んできた。
「なあ……。なんで、クレアもここで飯を食っているんだ?」
「アメリアが、食べていきなさいって誘ったからに決まってるじゃない。ん〜、このパンケーキ最高!!」
嫌な予感しかしない。俺は黙々と夕飯を食べていた。食べ終わったら、逃げるしかないな。俺がそう考えていると、アメリアが横に座ってきた。
「クレアからは、色々と話は聞いたわ……。レオン……私の友達を……冒険の危険から守りたいだなんて! お姉ちゃんは嬉しい!!」
「
クレアはいったい、何を、どう説明したんだろうか。背筋が凍る様な感覚だ。アメリアが席を離れたので、何を話したのか確認しようと、俺はクレアに話しかけた。
「なあ? 何を話たんだ?」
「私達が知合った経緯とか? あ、ナンパされたなんて言わないから安心して。ふふふっ……」
人のことを言えた義理ではないが、クレアは本当に勇者なんだろうか。こんな展開で仲間を得るというか、仲間にさせられることもあるんだな。俺は驚きよりも、諦めの気持ちで何も言えなかった。
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