第10話 ルマール

職業ジョブを授かった方は、こちらへお願いします」


 役所にしろ冒険者ギルドにしろ、たらい回しが多いと思うのは俺だけであろうか。俺の職業ジョブが、いきなり上位職転職ジョブランクアップしたのは何故だろうか。女神の気まぐれかもしれない。もしくは、正式な職業ジョブを得る前に、格闘家グラップラーもどきとして活動したからなのか。考えても仕方がないことだと、俺は答えを出すことを諦めた。受付けカウンターに向かい、俺は職員の女性に声をかけた。


職業ジョブを選び終わったんだが」

「では、ギルドカードを作成します。こちらのカードに、手を添えてください」

「こうか?」

「はい、大丈夫です! こちらのカードが身分証にもなります! 名前と職業ジョブ、それにレベルが現れます! モンスターを倒したりしてレベルが上がると、数字が変わるんですよ! あとはですねギルド銀行と連携していて、支払いもできるんですよ!!」

「そ、それは便利だな……」


 相変わらずレベル1のままであることを、俺はカードを見つめ再認識する。周りから見たら、雑魚なんだよな。ステータスがわからないと、舐められやすいのは確かだ。ギルドの仕事で得た金は、ギルド銀行に預けることができる様だ。確かに持ち歩くのも面倒くさい。俺の技能スキルでカバーできるが、元の世界でカード生活にも慣れているし、口座を作ることにした。


格闘王チャンピオンですか??」

格闘家グラップラーを選んだんたが……」

。先程の方は、『勇者』って職業でしたよ」

「勇者……いるのかよっ!!」


 『勇者』は加護でもあり、職業ジョブでもあるのか。違いがあるかは分からないが……。勇者がいるなら、そいつに魔王退治を任せたいくらいだ。俺はサブキャラで、一向に構わない。まず、その勇者を探そう。俺は最初の目的を決めた。


「勇者は、どの街から来たんだ?」

「確か、ルマールだったような……」


 同郷か……勇者になるようなやつはいただろうか。とりあえず、実家に顔をだす予定だったこともあり、俺はルマールに戻ることにした。帰りも馬車を使うか。移動呪文が使えると、楽なんだが。職業ジョブには熟練度が存在する。闘いを続けると成長し、固有技を覚えていく。呪文などは魔術士系の職業ジョブが修得する。俺は受付けで聞いた説明を思い出していた。ゲームと変わらないな。


 冒険者ギルドを出た後、馬車乗場に向かった。州都から各地に向かう乗場は、やはり大きい。間違えない様にと、俺はルマール行きの乗場を慎重に探した。まだ、一人しか並んでいない。見た感じは、俺と同じ年齢の少年だ。旅の話し相手も欲しいところだ。俺は声をかけることにした。


「ここの乗場は、ルマール行きかな?」

「はい……」

「ありがとう……」


 しまった……。会話が弾まない……。俺は会話相手を得ることを諦め、静かに馬車が来るのを待つことにした。待っている間、俺は小さな違和感に気がついた。声色、身体つき。髪型と後ろ姿で判断していたが、目の前にいる人物……女性だ。俺はハッと気がつく。


 ――ナンパ男と、勘違いされた!


「すまん! 同じ年齢の男と勘違いしたわけで。長旅の話し相手が欲しいと思うわけで。つまり、話しかけてしまったんだ!」


 俺は必死に謝り、誤解を解こうとした。何の言葉を口にしていたのかは記憶が無い。馬車の中で気まずい空気が続くのも耐え難いが、万が一、変な噂がルマールに広がろうものなら、俺の急所がアメリアに蹴り潰されてしまう。ナンパ男のレッテルを貼られる精神的な死と、急所が破壊される物理的な死。同時に二回死ぬのはゴメンだと俺は感じてしまう。


「はぁ……」


 聞いているのかいないのかが、良く分からない反応だ。活力を感じられない。逆に、俺が心配になってしまうくらいだ。


「何かあったのか?」

「……」

「金でも落としたか?」

「……」

「このチョコ食べるか?」

「しつこいですね!! こっちは今それどころじゃないんですよ!! 『勇者』なんて職業ジョブになっちゃって、これからどうしようか悩んでいるんですよ!!」

「そうか、すまん……」


 何だ、普通に話せるじゃないか。それに、ナンパ男と勘違いされたわけでもなさそうだ。俺は安心したせいか、笑みがこぼれていた。そうか、『勇者』になって困っているなんて可愛い悩みじゃないか。俺はどうやって『勇者』を探せばいいか、全く分からないと悩んでいるのに……。


 ――ん?


「おいっ! あんた、勇者なのか!!!」



 


 

 




 

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