第13話 港町ハマ

「おお! 勇者になった方が、来てくれるとわ! 頼もしいじゃねぇか!」


 俺の目の前にいるのは、港町ハマの町長。今回の依頼主だ。自己紹介の際、『ハマの町長、ハマンだ!』と名乗ってきたが、ややこしくて仕方がない。町長というと、年配で身体つきの細いという個人的なイメージがある。が、目の前にいる町長はたくましい身体つき、50歳前後だろうか。漁師として生活していることで、自然と鍛えられたのだろう。肌もよく焼けており、かなり黒い。


「駆け出しなんだが、任せてくれ!」

「頼もしい兄ちゃんただな! ガハハッ! 兄ちゃんは、勇者様の護衛か何かか?」

「レオンは、家来その1ってとこかなぁ?」


 いつから家来になったのかは疑問だが、俺は適当に相槌をうって話題を流した。そんなことより、依頼クエスト内容を知る方が先だ。


「ここから東に数km行ったところに、採掘場があるんだが、そこにモンスターが住み着きだしたんだ。鉱物資源もこの町の財源でな……。困ってるわけさ」

「採掘場に行って、モンスターを倒せばいいんだな」

「君の悪い鳥のモンスターだ。気を付けてくれよな」

「分かった! 任せてくれ」


◇◇◇


 ハマから東に向かうと岩山に囲まれた採掘場があるという。採掘場の中は広いが、階層は一階のみ。手頃な洞窟ダンジョンだと俺は感じていた。俺とクレアは徒歩で採掘場まで向かった。採掘場の入口に着くと、クレアが面倒くさそうな声をあげきた。


「私も入らなきゃだめ……?」

「ここにいてもいいけど、モンスターが来るかもしれないぞ?」

「えっ……? そうなの?」

「それより、試したいことがあるんだ。クレア、いいか?」

 

 俺は一つ、試したいことがあった。クレアの加護である『破壊の歌姫グロウルボイス』は、反響しやすい場所であれば、歌に何らかの補正があるのではないか。死にこそしないが、混乱や怯えなどの異常になる。そんな、歌唱補正があるかもしれない。


「嫌なんだけど……」

「頼む! 聞かせてくれ、クレアの歌声! 誰もいないんだしさ? 大丈夫だって!」


 好奇心が俺を突き動かさす。クレアを説得するため、褒めちぎり、特典も付ける。俺の勢いに諦めたのか、何とか首を縦に振ってくれた。採掘場の入口に立つと、クレアが大きく息を吸い、吐くと同時に歌いだす。女神に捧げる歌なんだろうが、デスメタルバンドにしか聞こえない。重低音、地鳴り、地獄の番犬の叫び声。音程が外れているとかではないのだが、言葉が聞いていて良く分からない。


ヴォィッヴォッ、ヴォィッヴォ、グゥォィッ女神様の元へ、清きこの歌声よ届け…………」


 採掘場が揺れる感覚に襲われたが、本当に揺れていた。モンスターが雄叫びをあげながら、こちらに向かって走ってくるではないか。モンスターからは、怯えや怒りという感情が伺えない。恍惚とした興奮状態に見える。クレアの歌は、モンスターの心をがっちりとつかんだのか。


 走って来たモンスターは、尻尾が蛇の巨大な鶏。何となく、ゲームでみたようなモンスターだか、名前や能力も分からない。分析アナライズのような、技能スキルも欲しい。


チキンか……。丸焼きに、唐揚げも久々に食べたいな……。まとめて来たなら、一網打尽にするか! 竜の息吹ドラゴンブレス!!」


 竜の息吹ドラゴンブレスに炎の属性を付与して、俺は灼熱の炎を吐き出す。一気に広がる炎の渦は鶏を飲み込んでいった。目の前に転がるモンスターが、俺には美味しそうなチキンにしか見えない。


「レオンって凄いのね! やるじゃん!」

「クレアの歌には……グフッゥ」

「それ以上は、いけないわ……」


 アメリア直伝だろうか。股間に前蹴りを食らった俺は、言葉を飲み込んだ。目の前で笑っている人物は、本当に勇者に値する性格なのか疑問しか浮かばない。とりあえず、俺は黙って焼けたモンスターを食べていた。


「旨い! モンチキ最高!」

「レオン……た、食べるの?」

「俺はモンスターを食べると、能力を取得する技能スキルがあるんだ。そんなことより、旨いぞ? クレアもいるか?」

「は?」


 ものすごく冷たい視線で俺を見る、一人の鬼神が目の前で仁王立ちしている。急所を潰される前に、さっさと先に進もう。俺は食事を止めて、進むことを提案した。チキンはこっそり、技能スキルで捕食したことは、内緒の話。

 


 


 

 

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